Dr.中川のがんの時代を暮らす:/63 経済格差、がんにも

毎日新聞 2013年01月07日 東京朝刊

 すべての労働者に占める非正規雇用の割合は、1990年の2割から現在は3割以上に上昇しています。その非正規雇用者のほとんどは、国民健康保険(国保)に加入しています。

 この20年間、日本人の所得水準は足踏み状態でしたが、国保に加入する被保険者の所得は大きく減っています。93年度の国保被保険者の前年の平均所得(収入から経費や控除を引いたもの)は1世帯当たり239万円、1人あたり109万円でした。2008年度はそれぞれ168万円と95万6000円、10年度は145万1000円と83万7000円と大きく下がりました。バブル崩壊やリーマン・ショックなどのしわ寄せが低所得者層を直撃し、「1億総中流」といわれた日本社会に、大きな格差が生まれたことが分かります。

 経済格差は「がん格差」にもつながっています。低所得者層は喫煙率が高く、肺がん、喉頭がん、咽頭(いんとう)がん、食道がん、胃がん、子宮頸(けい)がんなど、たばこ関連のがんが多く発症しています。がん検診の受診率にも、経済格差が影響を与えています。公務員などが加入する共済組合の加入者のがん検診受診率は約5割であるのに対し、国保は2割程度です。

 また、共済組合や大企業の社員が加入する健保組合は、保険料負担率が5%程度ですが、国保加入者は約10%です。逆に年間に負担する医療費は、共済組合や健保組合は1人あたり13万円程度ですが、国保は29万円に上ります。今の日本は、経済的弱者に大きな負担を求める構図となっています。経済協力開発機構(OECD)も、日本の正規雇用と非正規雇用の格差を問題視し、09年の報告書の中で、「社会保障の格差是正」を日本政府に勧告しています。

 国保世帯の約2割が保険料を滞納しており、無保険者も増えています。日本人の長寿を支えてきた「国民皆保険制度」が崩壊の危機にあるといえます。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)問題も、医療の市場化に待ったをかける立場で考えれば、慎重に見守る必要があると思います。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)

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