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未来からやってきたゲーム開発エンジン「UNREAL 4」

 
 
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TEXT BY STU HORVATH
PHOTOGRAPHS BY ANDY RYAN
IMAGES COURTESY OF EPIC GAMES
TRANSLATION BY OTTOGIRO MACHIKANE
CAPTIONS BY TAKASHI SHIRAE


クライアントはNASA、FBI、建築事務所まで

エピック・ゲームズの前身は、エピック・メガゲームズで、さらにその前身はポトマック・コンピューター・システムズという、ティム・スウィーニーが1991年にメリーランド州ロックビルに設立した会社だ。そこの初期作品というのが3.5インチ・フロッピーディスク入りのシェアウェアゲームで、ジップロック入りの詰め合わせで売られることも珍しくなかった。そんななかでも「ZZT」や「Jill of the Jungle」はシンプルなゲームではあったが、スウィーニーのプログラミングの才能を天下に示すきっかけにもなった。「ZZT」は彼が考案したスクリプト言語で書かれたわけだが、プレイヤーが独自にゲームを創造することもできるようにもなっていたのだ。つまりゲームと、ゲーム開発用のキットが詰め合わせになっていたのだ。

初代Unreal Engineの開発が始まったのはようやく95年になってからで、ポトマック社がエピック・メガゲームズへと社名を変更してからのことだ。スウィーニーたちを触発したのは(そしておそらく、危機感も抱かせたのは)id Software社による「Wolfenstein 3D」や「Doom」といったシューティングゲームが、大いに人気を集めたことだ。id Softwareと言えば、後年に真の3Dグラフィックスを初めて開発することになる会社だ。それも、10ドルの専用メガネをかけて3Dっぽく見せるようなたぐいではなく、一人称視点での三次元空間をきちんとシミュレートした作品だ。これは勝てないかもしれないと危機感を抱いたエピック・メガゲームズは、小規模なプロジェクトチームを残らず集めて、“大企業のビジネス”とスウィーニーが呼ぶ3Dの開発に全力を注いだ。

3年の開発期間を経て、エピックは一人称シューティングゲーム「Unreal」とともに、初代Unreal Engineをデビューさせた。視界の開けた屋外エリアの描画を可能にしたのがそのUnreal Engineで、さまざまな自然光が干渉することと、はるか遠方の物体もレンダリングしなければならないことから長年ゲーム開発者の悩みの種だった屋外シーンを、かつてないレヴェルの精密さで描き出した。こうして初代Unreal Engineが好評を得たおかげで、エピック・メガゲームズは、ノースカロライナ州ケアリーにある研究学園都市リサーチ・トライアングル・パークへの移転を果たす。この地で社名からメガの字を取り、専用のスタジオも建設した。そうして新天地で落ち着くと、エピック・ゲームズは改良型の次期ゲームエンジンの開発に取りかかる。2002年にデビューしたUE2は、グラフィックス、アニメーション、光の効果のすべてにおいて初代より進化したほか、ラグドール(ぬいぐるみ)物理演算という、死体が放り投げられたぬいぐるみのような挙動で落ちていくことから名づけられた判定に基づいてリアルな動きを描くこともできるようになった。UE1をライセンスしたゲーム開発会社は数十社に留まったが、UE2はその高品質なヴィジュアルと使い勝手のよさから小規模なスタジオにも重宝され、100を上回るゲームに採用された。だが、エピック・ゲームズが確固たる業界標準の地位を築いたのは、06年に「Gears of War」を発表してからのことだった。

「Gears of War」は、UE3でつくられた最初期のゲームのひとつであり、登場間もないXbox360にとって初の大ヒット作ともなった。野性味のあるこの三人称シューティングゲームは、プレイヤーがステロイドを過剰摂取して筋肉ムキムキになったスーパー兵士になって、物陰から物陰へと移動しながら、押し寄せる異種族の群れと戦うというもので、そのグラフィックスの再現性たるや前例のないものだった。細部の精密さ、光の加減、そしてモーションブラーと呼ばれるカメラのぶれを再現した効果とが相まって、それまでのゲームがかすんでしまうほどのリアルさをゲームにもたらしたのだ。多くのゲーマーにとって、「Gears of War」は現行コンソール世代の開幕を強く印象づける作品となった。

それから6年が経ったいま、UE3はとことん普及した。コンソールゲームに留まらずに、iPadアプリの「Infinity Blade」など、モバイルゲームにも使われるようになっているのだ。最近ではFlashゲームにも使えるように修正されて、例えば「アンリアル トーナメント3」というマルチプレイヤー・シューティングゲームでは、1秒間に60フレームという魔法の領域に迫るような超精細動画を高品位ディスプレイでウェブブラウザーに映しだすことができるようになった。さらにエピックは、Unreal Development KitというUE3を簡略化したフリーヴァージョンも出して、小規模ゲーム開発会社の心をつかもうともした。それは、売り上げが5万ドルを超えない限りは高額なライセンス料を要求しないというもので、設立間もなく儲けも見込めない開発会社にとって資金繰りの苦労を大いに軽減してくれるものだ。

そんなUE3は、ゲーム以外にも用途を広げている。NASAとFBIはいずれも訓練用シミュレーターの開発にUE3を使っているし、ミシガン州運輸局は、天候が路面状況に及ぼす影響をモデル化したマルチスクリーンのドライヴシミュレーターの開発に利用している。HKSという建築事務所は、ジェリー・ジョーンズが14億ドルを投じたダラスのカウボーイズ・スタジアムの設計に当たって、UE3によるリアルタイムの3D映像を制作し、スタジアムが関係するはるか以前にその場内空間を依頼主に体験させた。

 
 
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