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未来からやってきたゲーム開発エンジン「UNREAL 4」

 
 
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TEXT BY STU HORVATH
PHOTOGRAPHS BY ANDY RYAN
IMAGES COURTESY OF EPIC GAMES
TRANSLATION BY OTTOGIRO MACHIKANE
CAPTIONS BY TAKASHI SHIRAE



リアルなんてもんじゃない。現実そのものだ

わずか3カ月の制作期間で、14人のエンジニアからなるチームはUE4のデモ動画をつくり上げた。それは再生時間こそ短いが、大作ゲームの予告編並みのインパクトを備えたものだ。「このとんでもないデモに取りかかったころには、ずいぶんと眠れぬ夜を過ごしましたよ。でも、大惨事を招きそうな要因は取り払うことができたと思います」と、アートディレクターのクリス・ペルナは胸を張る。デモ動画のつくり込みを統括したのはほかならぬ彼なのだ。

ゲームのデモ動画ってのはそういうものだが、UE4のこのデモも、大作映画の予告編さながらの大上段な壮観シーンを見せつけて、画面の前のプレイヤーに息を呑ませようとするものだ。この作品を端的に表現するなら……H・R・ギーガーとジョージ・R・R・マーティンが幻覚サボテンでつるんだことの産物とでも言おうか。もっとも、映像だけがすごいわけじゃない。この動画には、水晶玉越しに覗き見るような魔術的要素が詰め込まれてもいる。現在のゲームではハードウェアの制約から実現不可能なヴィジュアル効果のために、あらゆるピクセルが使われているのだ。しかしその制約は克服可能なものではある。この種のデモの通例とは異なり、この作品はユーザー向けのグラフィックカード1枚、NVIDIAの新製品GeForce GTX680で動くからだ。

エピック・ゲームズのエンジニアたちがGDC 2012にもち込んで、ゲーム業界関係者の目を驚かせようとしたデモ動画は、次のようなものだ。どっしりした鎧をまとったデーモンナイトが、山岳城塞の廃墟のただ中で城主の椅子にかけたまま動かずにいる。デーモンナイトが目を覚ますと、周囲から溶岩が流れ出し、辺りは火炎に包まれる。溶岩流から幾筋もの蒸気が噴出し、燃えさしの岩が飛び散っていく。デーモンはおもむろに立ち上がり、火花のシャワーを散らしていくが……そこでカメラの視点が変わり、灰の舞う廃墟の背景に彼は埋没していく。やがてデーモンが巨大なハンマーを掲げると、内なる炎に武器が輝く。のっしのっしと無人の廃墟内を歩むうちに、城塞がごろごろと鳴動し、天井から石材が降りかかってくる。そう、この山は活火山で、いまにも噴火するところなのだ。デーモンが城外へと踏み出すや、雪をかぶった峰々がはるかに連なる遠景が、驚くばかりの鮮明さで焦点を結ぶ。いまやデーモンの背後では火山が黒煙を噴き上げ、溶岩が雪を蹴散らして山腹に降りかかるのだ。

エピック社のチームが153秒間のヴィデオクリップに詰め込んだのは、レンズフレア、ピンボケによる歪み効果、溶岩流、周辺全域の崩落、火炎、そしてはるか遠方の風景をくっきり描き出すことといった、長年ゲーム開発会社の頭を悩ませていた効果の数々だ。おまけに、写真と見紛うあのリアルさだ。デーモンナイトが空想上の生き物ということを脇にのければ、どう見てもあれは本物だ。

しかも、あれはほんのオープニングシーンだ。映画さながらの動画が終わると、今度はエピック社の上級テクニカルアーティストであるアラン・ウィラードが、UE4による編集作業のデモを見せてくれる。この動画では主人公の肉体はどこかへ消失し、「コール オブ デューティ」フランチャイズや、エピックの自社製品である「Unreal」といったシューティングゲームでおなじみになった一人称視点へと切り替わっている。ウィラードが薄暗い部屋へと場面を進めると、スポットライト照明がぱっと灯り、舞い上がる埃を明かりの輪に浮かび上がらせる。また別の部屋では、大小さまざまな球体が宙に浮いている。どれもこれも、ぼくたちが深く慣れ親しんだ光の効果だ。「ああ、なるほどね。現実世界の光そのままってわけだ。で、それがどうしたって?」と、君はつぶやくかもしれない。ところが、それは途方もないことなのだ。そうした光の映り方は、これまで長いことヴィデオゲームには手に負えなかった。現行のコンソールでは処理しきれない効果だからだ。

これまでのゲーム開発会社は、舞台風照明というトリックを用いることで、現実世界に近いと思わせる光の効果を生み出してきた。そのためには数多くのプリレンダリングが必要で、具体的にはひとつの環境に対して数百もの光源をプログラムしておいて、ゲーム内のイヴェントに応じてそれらを点けたり消したりしなければならなかった。そのシーンで起こりうるあらゆる状況に対応した光の効果を、状況ごとにひとつずつプログラムしておかねばならないのだ。「1レヴェルから上限のレヴェルまでのあらゆるセクションをしらみつぶしに、手で光を描き込んでいかなきゃならないってことなんだ」と、ブレジンスキーは言う。「アホかと思うくらいの工数がかかるってことさ」。そこにUE4は動的な照明効果をもち込んだ。事前にプログラムされた効果の組み合わせによるのではなく、アイテム固有の特性に応じて光の効果が現れるという仕組みを。言い換えれば、手先で光をごまかす必要がなくなったということだ。あるシーンに注ぐ光がことごとくあらゆる表面ではね返り、正確な反射を再現してくれるのだ。色は混じり合い、半透明の素材は内側から光を放ち、水を通して見たものは屈折する。しかも、そうしたすべてがその時々の状況に応じて、さりげなく表現されるのだ。これはもうリアルなんてものじゃない。現実そのものだ。

 
 
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