2013.1.6 SUN
未来からやってきたゲーム開発エンジン「UNREAL 4」
TEXT BY STU HORVATH
PHOTOGRAPHS BY ANDY RYAN
IMAGES COURTESY OF EPIC GAMES
TRANSLATION BY OTTOGIRO MACHIKANE
CAPTIONS BY TAKASHI SHIRAE
ティム・スウィーニー(左)とクリフ・ブレジンスキー。背景に並ぶのは商売道具(とおもちゃ)。
過去10年のゲームはもはや人形劇にすぎない
もっとも、バイナリーコードの世界じゃ6年間というのは大昔だ。ゲーム機にしてみればまるまる一生涯に相当する年月だと言ってもいい。1980年代にコンソール(家庭用据え置きゲーム機)がプレイ媒体の主流となってからは、実際ほぼ5年ごとにコンソールの世代交代が行われてきた。指数関数的に進化するチップの性能から置き去りにされずについていくには、そんなペースを保つしかなかった。ところが、第7世代のコンソール(プレイステーション3、Xbox360)が発売開始からもうすぐ6年目と7年目を迎えようとするなかで、現行ハードウェアは積もる歳月にだんだん古びて、ハイパワーPCには足元にも及ばないようになってきた。Xbox360が搭載するXenosグラフィック・プロセッサーは、1秒間に概ね2,400億回の浮動小数点数演算が行えるが、最新のパソコン用のハイエンドなプロセッサーなら、1秒間に3兆回前後もの演算ができてしまう。そんなわけだから、次世代ゲームコンソールについての噂や憶測の声がここ何年かでどんどんヴォリュームを上げてきたことも驚くには当たらない。今年にも次世代機についての発表があるかもしれないし、それか来年、遅くとも2014年を迎える前には知らせも届くことだろう。内情を知っている人が具体的に明かしてくれる、なんてことはないけど、いま、確かにわかっていることは、エピック社の魔法使いたちがこのところ懸命に、次世代機を動かすゲームエンジンの開発に取り組んでいるということだ。そのUnreal Engine 4(UE4)は、もう出来上がっているのだ。
UE4が体現するのは、まさしく次の10年におけるヴィデオゲームの土台となるものだ。次のハードウェアにはどれだけのマシンパワーが必要なのかを、こいつがマイクロソフトやソニーに思い知らせることになるだろう。さらに、ゲーム開発工程の無駄をなくし、現状でゲームスタジオが開発に2年をかけている作品を、12カ月でつくれるようにもしてくれるだろう。いや、そんなことよりもっとすごいのは、UE4が世に出たあとでは、過去10年間のヴィデオゲームが軒並み人形劇レヴェルに色あせるだろうってことだ。
それだけすごければ十分だって? いや、どうだろうか。現在のヴィデオゲーム業界の売り上げ規模は、毎年650億ドルくらいなわけだが、その大半を人気タイトルに(制作費1億5,000万ドルなんてこともあり、そしてうまくすれば、発売初日だけで数億ドルを売り上げる大作に)頼る構造になっている。ところがそうした構造にも変化が生じている。より安価に制作されたモバイル用のゲームが増えていることと、由々しい経済状況とが相まって、大ヒット作品の将来は暗雲に覆われつつあるのだ。冒険などしなくても手堅く儲けられるのに、どうして大ばくちを打つ必要がある?という疑問の声がだんだん大きくなってきている。UE4は、そうした疑問へのエピック・ゲームズの回答だ。
エピック社は、このエンジンの開発を通じて大胆な未来予測に社運をかけた。ゲーム業界の未来は、かつてないレヴェルのリアルなヴィジュアルに支えられるものになる。そう彼らは考えているのだ。
いまは2012年2月の終わりで、1週間後にサンフランシスコで開催される開発者向けイヴェントGame Developers Conference(GDC)で、エピック社はUE4を初めて社外に公開する。マイクロソフト、ソニー、NVIDIAといった業界に強い影響力をもつ大手の面々がそこに招かれて、秘密保持契約締結者限定のデモを目にすることになる。未来のゲームが従来のいかなる想像をも凌駕するものになりうるという認識をエピック・ゲームズが各社に叩き込むためには、最初で最良のチャンスになるわけだ。「ゲーム産業を次の世代へ推し進めるという半端ない責任が、うちのエンジン開発チームとスタジオの両肩にのしかかってきたってわけだよ」と、エピック社のデザインディレクターであるクリフ・ブレジンスキーは言う。「ソニーやマイクロソフトに、次世代ゲーム機のあるべき姿はこいつらに任せておいたほうがよさそうだと思わせられるかどうかが、ぼくらの会社に、とりわけティム・スウィーニーにかかってくるんだからね。
それはもう、飛躍的な進化じゃなきゃだめだ。言ってみれば、『アバター』をリアルタイムでレンダリングできるくらいの性能が必要ってことだ」。
まあ「『アバター』をリアルタイムでレンダリングできるくらい」というのは、マシンガンのような早口で誇大表現を連発してエピック社の名物男になったブレジンスキーならではの物言いだ。その点、社長のスウィーニーはさすがに如才がない。「うちはほかの開発会社より、コンソールメーカーと息の合った関係にあります。ですから当社は、詳細にわたる提案をメーカーにできる立場にあるってことです。もちろん、商売として成立する一線をわきまえたうえでの提案ですが」と、彼は言う。でも、それはつまり、次世代コンソールに検討されているスペック案をエピック社はつかんでいて、もっとパワフルにするべきだと積極的に提案しているってことじゃないだろうか。今年のE3(ゲーム見本市)でもしも次世代コンソールが揃い踏みして、どれもいまいちパワー不足なんてことになったら、ゲーム業界の将来は不吉な雲に覆われかねないのだから(というのも、この4月にはPS3の後継機について真偽の定かでないスペックがリークされて、噂が一気に広まったという事情があったからなのだが、次世代コンソールについての具体的な発表は今年のE3ではなかった)。
そんなエピック・ゲームズは早くも11年3月には、GDC 2011の会場でパワー志向のデモ動画を披露している。UE3向けに開発されたSamaritanというそのプラグインのデモは、ハイエンドな最新ハードウェアのレンダリング能力をまざまざと見せつけた。「あのデモには、開発関係者に意識変革をうながす目的もありました」とスウィーニーは言う。「うちとしてはいまの10倍のマシンパワーが欲しい。それだけあれば、こんなこともできますよ、ということです」。
しかもSamaritanは、UE3の増強版向けのプラグインであるにすぎない。UE4の時代が来るためには、ハードウェアの飛躍的な進歩が必要なのだ。人間の目に映る光景そのままをゲームで表現できるようになるためには、現行のハイエンドなグラフィックプロセッサーの少なくとも2,000倍は強力なパワーが必要になる、とスウィーニーは語る。そこまでの性能が実装されるには2世代か3世代先のコンソールまで待たねばならないだろうが、それが本当に実現するかどうかは、スウィーニーが現時点で求めているレヴェルのパワーを実現しようとメーカーが動くかどうかにかかっている。次世代コンソールがよいものになることを、スウィーニーは求めているのだ。
リアルなんてもんじゃない。現実そのものだ
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