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2011-07-19 「きりひと讃歌」・・・もう一つの「ブラック・ジャック」

iirei2011-07-19

きりひと讃歌」・・・もう一つのブラック・ジャック20:25 「きりひと讃歌」・・・もう一つの「ブラック・ジャック」を含むブックマーク 「きりひと讃歌」・・・もう一つの「ブラック・ジャック」のブックマークコメント


  手塚治虫特集 その2(全2話)


 手塚治虫はもともと医師で、医学を取り上げたマンガには、他の追随を許さぬものがあります。「ブラック・ジャック」がもっとも有名ですが、「陽だまりの樹」・「きりひと讃歌」なども名作です。


 今日長編きりひと讃歌」を取り上げます。70年代、奇妙な病気が人びとの耳目を集める事態になっていました。それは「モンモウ病」。・・・顔がイヌのようになり、四肢にも変形が起こります。体毛も濃くなり、あたかもイヌキツネのような外観になってしまうのです。また、無性に生肉が食べたくなり、死にいたる患者も多いです。

 

 M大学第一内科教授:竜ヶ浦は、この病気を「伝染病」だとしていて、「風土病であるとする小山内桐人(おさない・きりひと)のレポートを無視します。さらに、「きりひと」をモンモウ病患者が多発している四国犬神沢に派遣します。ここに、竜ヶ浦の陰謀があったのです。


 竜ヶ浦がそのときもっとも欲していたのは、「日本医師会会長」の椅子であり、それに推挙されるための実績作りで「モンモウ病」を「伝染病」にする必要があったのです。それに異を唱える「きりひと」をモンモウ病罹患させ、死ぬなりなんなり、医学から抹殺するつもりだったのです。とんでもないマキャベリストです。そして、世界に「モンモウ病ウイルス説」を発信し、みごと日本医師会会長椅子を手に入れます。幸福絶頂!!


 一方、犬神沢に派遣された「きりひと」は、村ぐるみ陰謀(竜ヶ浦の意向)のなか、果たしてモンモウ病に罹ってしまいます。そこから、彼の流転の人生が始まります。犬神沢の現地妻・「たづ」はホームレスの男に強姦されて死んでしまうし、拉致されて渡った台湾では見せ物にされます。(催淫剤を飲ませたメスイヌまぐわせるとか。)ここで知り合った人間テンプラ(コロモをつけてゆだる油の中に入り、コロモの表面が揚がったところで取り出す)を芸にする麗花とパレスチナに飛び、芸の最後、すくいあげる柄杓(ひしゃく:大きなオタマのようなもの)が折れて、湯だった油の中のコロモに包まれた彼女を引き上げそこない、本当に麗花がテンプラになってしまうとか・・・


 そして、パレスチナに居を定めた「きりひと」は、周囲の村々から来る貧しい人たちの診療をこととするようになります。そんなある日、ふと「竜ヶ浦」がモンモウ病伝染病説」を学会で発表したことを聞き、ここに至って、竜ヶ浦の野望のため、自分犠牲にされたと気付き、復讐を誓います。それは、社会的復讐はもちろん、モンモウ病が「伝染病」か「風土病」かという論争の決着です。


 ところが、その竜ヶ浦も、モンモウ病を発病します。種を明かせば、彼は「智恵水」という例の犬神から取ってきたミネラル・ウォーターを愛飲していたのです。ドイツマンハイム教授は、「水に微量含まれる希土類元素放射線を発し、体の変形を起す」という結論を世界に向けて発表し、竜ヶ浦を呆然とさせます。そして、「智恵水」の成分をM大学でやったところ、ウイルス発見できず、マンハイムの言うとおり、希土類元素が検出されたのです。これでモンモウ病風土病と決まりましたが、竜ヶ浦は認めようとしません。


 まるでブルドッグのような風貌になった竜ヶ浦、シェパードのような「きりひと」には、「私が認めない限り、決着は着かん。」スタッフには「私が死んだら、解剖して伝染病であることを示せ」と言って事切れるのです。


 そして「きりひと」は、またパレスチナに戻り、許婚女性(この女性も、この騒動に巻き込まれて散々苦労したひと)が後を追います。大団円


 「きりひと」という名前は、もしかしてキリスト意識してつけたものかも知れない、とふと思いました。重い十字架を背負うというコミックの表紙にある画像なんかそのように意識しているのかも知れません。


今日のひと言:陰険陰謀家の竜ヶ浦、理想主義者であると同時に逞しい生活者である「きりひと」。人間類型としても面白い組み合わせです。「きりひと讃歌」は、手塚作品の五指に入るでしょう。この臨場感は、司馬遷史記にも匹敵する気がします。なお、このマンガが描かれた当時、山崎豊子さんの「白い巨塔」という外科医を主人公とする医師権力争いがテーマの作品があり、手塚氏はこの作品を意識したという説もあります。手塚作品としては、奇を衒うことのない・正統派のヒューマニズムあふれる作品です。

昭和45年4月10日号〜46年12月25日号 ビッグスピリッツ連載

   本書は講談社 発行。全4巻。

きりひと讃歌(1) (手塚治虫文庫全集 BT 43)

きりひと讃歌(1) (手塚治虫文庫全集 BT 43)

陽だまりの樹 (1) (小学館文庫)

陽だまりの樹 (1) (小学館文庫)


今日の一句

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カブトエビ

億年生きた

強者(つわもの)や


水田に水が張られると、田圃によっては発生する甲殻類で、「生きた化石」とよばれます。

写真中央で「オタマジャクシ」のようにみえるのが、カブトエビ

     (2011.07.16)

実は、昨年の7月1日も同じ趣旨短歌を書いていました・・・

レモンバームレモンバーム 2011/07/19 20:20 手塚さんも発想的にだいぶ自由ですよね。漫画そのもの自体がそういうものという感じですが、漫画の中で自由自在にやってるというか、同じ医者ものでブラックジャックもそうですよね。
おさないきりひとって幼いキリストとひっかけてるのかな、と思いました。

iireiiirei 2011/07/19 20:37 >レモンバームさん
 自由なマンガ家のなかでも、手塚治虫さんの自由度は、とびぬけていますね。唯一、ギャグマンガ家の赤塚不二夫が比肩できるのでしょうね。以前、少年マガジンのマンガ家の登竜門では「手塚賞「赤塚賞」がありました。

 貴女も私も推測したように、「きりひと」=「キリスト」のようなネーミングですね。ただし、このキリストはパレスチナ人の面倒を見るのですが・・・

てくっぺてくっぺ 2011/07/21 06:38 そうでした。^±^
手塚治虫さんは医師の免許があるんでしたよね。^±^
手塚さんは漫画の領域を超えた方だと思います。

ここで一句。^±^ノ

田植え歌に ひょこひょこひょこと カブトガニ

ああ、脳みそポーン。x±x

iireiiirei 2011/07/21 09:38 >てくっぺさん
 確かに、手塚氏は漫画の領域を超えた・世界標準の作品を描いていますね。私はあるときには、手塚さんをシェイクスピアであるとしたり、司馬遷であるともしました。
 カブトエビとカブトガニ、混同されてはいませんか?おなじ「化石」とは言え、別種の生き物ですよ。句自体はユーモラスで良いですね。

サブリナサブリナ 2011/07/21 22:47 >陰険で陰謀家の竜ヶ浦、理想主義者であると同時に逞しい生活者である「きりひと」

おなじように優れた医学者であった二人の違いはただ一点。与える愛を知っている「きりひと」の幸福感と、愛を欲して愛されるための絶対条件として自分が設定した資格にしがみつく竜ヶ浦の絶望感でしょうか。
与える愛を知っている人はどんな状況にあっても立ち向かっていけるのは愛を失う不安というものがないから。

そんな作品じゃないかなぁと思いながら読ませていただきました。^^;

iireiiirei 2011/07/22 00:31 >サブリナさん
 なるほど、そのようにこの作品を受容なされましたか。それも一つの解釈、正しいのでしょうね。
 竜ヶ浦にあったのは強烈な「自己愛」なのでしょうが、その具体化がこのような、科学的視点も人倫も無視した暴挙につながったのですね。たしかに、この教授、与える愛を知らなかったのでしょうね。一方、イヌの風貌は一生変わらぬとは言え、「きりひと」はパレスチナの田舎に住む仁医として、幸福で充実した一生を送るのでしょう。

てくっぺてくっぺ 2011/07/24 04:15 こんばんはです。^±^ノ
あ、どちらも知ってますよ。^±^ノ
カブトエビはヒョコヒョコヒョコです。^±^
カブトガニなら、カサカサカサです。^±^
どっちでもいいよ!(゜Д゜)ノx±x…エビガヒョコヒョコミヒョコヒョコ

iireiiirei 2011/07/24 07:18 >てくっぺさん
 両者の違い、ご存じだったようで・・・失礼しました・・・ヒョコヒョコヒョコ。

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