2013年1月2日(水)

「借金王か、改革者か」橋下市長への公開質問状

飯島 勲 「リーダーの掟」

PRESIDENT 2012年12月17日号

著者
飯島 勲 いいじま・いさお
小泉純一郎元総理大臣首席秘書官

飯島 勲

1945年、長野県辰野町生まれ。小泉純一郎元総理首席秘書官。現在、松本歯科大学特命教授。最新刊『リーダーの掟』プーチン絶賛でたちまち重版。

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小泉純一郎元総理大臣首席秘書官 飯島 勲 写真=PANA
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橋下氏が、本連載をツイッターで大批判

インターネットのツイッターで89万1961人のフォロワー(読者)がいる橋下徹大阪市長から、25回にわたって本連載にご意見を頂戴した。日本を代表する挑戦力と発信力を持つ橋下氏に、貴重な時間を割いていただけたのは誠に光栄の至りだ。心から感謝申し上げたい。

多くの論点が橋下氏より提示されたが、可能な限り丁寧にお話し申し上げることにする。

ただし、1つ訂正をお願いしたいのは、橋下氏は私のことを「反橋下」とお考えのようだが、私は「親橋下」だ。政治家としての実績・実力は別にして、発信力・挑戦力だけで考えれば、橋下氏は日本一の政治家だ。言うべきことはきちんと言わなくてはいけない立場に私はあるので、厳しく聞こえることがあるのかもしれないが、橋下氏の挑戦力と発信力を非常に評価している。

その日本一の手腕は枚挙にいとまがないが、例えば、大阪の大人気知事だった横山ノック氏と比較してみる。ノック氏はセクハラで有罪となり政界を追われたが、その点橋下氏は不倫の事実を認めたものの、持ち前の発信力を生かした対応でうまく切り抜けた。普通の政治家だったらその場で政治生命を絶たれてしまってもおかしくない。

報道にあったように、女性にスチュワーデス(フライトアテンダント)のコスプレをさせて不貞行為を働くことは現時点で違法ではないが、弁護士や政治家に歴史上かつてないほどに高い倫理が求められる時代にあって、橋下氏の時代に逆らう挑戦力と、それに続く発信力はずば抜けていると考えたほうがいい。天才としかいいようがない。

橋下氏は、11月5日3時22分にツイッターで以下のように投稿をしている。

「飯島勲氏の『橋下が知事当時、大阪市は借金が減って大阪府は借金が増えた』という論が間違っていることは、大阪市役所の財政当局も認めた」

橋下氏が借金を増やしたかどうかについては詳述するが、この論理構造は総理を目指す人物にしては非常に脆いものを感じる。生殺与奪の権を握る自分の部下が「認めた」というだけでは、根拠薄弱と言わざるをえない。

漫画「ドラえもん」に登場するガキ大将・ジャイアンに媚(こ)びへつらうスネ夫が「ジャイアンの歌はとてもうまい」というのを根拠にして、「俺の歌はうまい」と自慢をしているようなものだ。

「のび太氏の『ジャイアンの歌は聞くに耐えない』という論が間違っていることは、オレ様の子分であるスネ夫も認めた」では、お話にならないだろう。

もし、橋下氏の主張を認めなかったら、市の財政当局にどんなことが起きるのか。想像するだけでも恐ろしい。

では、実際に橋下府政が借金を増やしたのかどうかを検証してみたい。

橋下氏は、2008年2月に府知事就任、11年11月退任なので、07年と10年の指標を比べる。法人税(法人事業税)の税収は、4620億円から1934億円と58%のダウン。法人税に地方法人特別譲与税を加えた数値でも36%のダウン。府の税収は、1兆3425億円から9860億円に27%のダウン。逆に、国から府への援助額(府の交付税に臨時財政対策債を加えた額)は、2443億円から6220億円と2.5倍以上になった。

結果、大阪府の地方債残高は、府政史上最大になった。橋下氏の任期中に借金が増えた大阪府は、実質公債費比率が18%を超え、地方債発行に総務大臣の許可が必要な「(起債)許可団体」に転落してしまった。このままの水準で借金が増え続ければ17年には25%を超えて「一部起債制限」がかかることになる。

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橋下徹は、横山ノックを超えられたか
(PANA=写真)

橋下氏と同じく大人気だった横山ノック知事(1995年4月就任、99年12月辞任)はどうだったのだろう。就任前の94年と辞任直前の98年で比較してみる。法人事業税は4039億円から3572億円で12%のダウン。府の税収は1兆976億円から1兆1870億円の8%のアップ。国から府への援助額(地方交付税)は、391億円から1006億円とこちらも2.5倍以上になった。

橋下氏は、「大阪府の財政を健全化した」と府知事を辞めて大阪市長に転身したはずだが、いったいこれはどういうことなのか。

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