プレリュードと駆けた日々 第7話 待ちわびる人
第7話 待ちわびる人〜19歳、秋。 〜
秋になり、なんとなくヒマな大学生のおれは、ある週末に長野へ帰って仲間たちと遊んでいた。
日曜の夜だというのに遊びほうけ過ぎたたおれは、ガソリンが半分しかない状態で、さらに財布の中は札が一枚も無かった。
明日からまた学校とバイトだし、今夜中に帰らないわけにはいかない。
高速にも乗れないおれは、国道20号線をひたすら通って横浜を目指していた。
ま、なんとかなるだろう。
一度も走ったこともない国道20号線だったが、延々と行けば、たしか八王子や新宿に着くはずだ。幸い日曜の夜なので交通量も少なく、信号にも引っかからずにスムースに山梨を抜けていった。
Manish(スラムダンクとか唄ってたかわいい二人組)のアルバムも調子よく聴きながら。
かわいい・・・
あ、いや、いかんいかん・・・ガソリンメーターに注意していないと・・・
甲府市街地のバイパスを抜け、笹子トンネルを通過すると、既に民家の灯りも落ちて、みな周囲は眠りについている。
大月駅を過ぎて、さらに順調にワインディングを飛ばしているが、前にも後ろにも車は誰もいない。
国道を貸切状態で、秋の夜長を気持ちよく走っていると、ふと人影が歩道に。
ん?
いま、人が手を振ってなかったか??
何だろう、この時間に山道で一人きりで。しかも背広を着ていたようだったし。
とりあえず、道を戻って様子を見てみよう。
物獲りなんて物騒なことをするような格好には見えないし、たった一人だ。手を振っている様子も、どこか寂しげだったなー。 どうしたんだろう。
歩いていたのはおっちゃんで、背広に通勤カバンという、いでたちだった。
おれ:(助手席の窓を少し開けて)「どうなさいました?」
おっちゃん:「電車を乗り過ごして大月までいっちゃったんですよ。上りの電車も終わっちゃって・・・」
おれ:「もしかして、東京まで歩いて戻ろうとしているとか?それにしたってここは既に大月から相当距離がありますよ。」
おっちゃん:「そうなんですよ。無我夢中で歩き出したんですが、でもさすがにしんどくて・・・」
おれ:「当たり前ですよ!こんな山の中を夜にハイキングなんて、そりゃ無茶ですって。」
おっちゃん:「誰か通りがかりの車に乗せていってもらおうと思ったんですけど、誰も停まってくれなくて・・ハハ。」
おれ:(ハハハって、おっちゃん。泣きそうな顔してるじゃん・・・)
おれ:「いいや、とりあえず乗ってください。行けるとこまで行きましょう。」
おっちゃん:「本当ですか?すみません、本当にすみません!本当にすみません!」
おっちゃんは本当にうれしそうに助手席へと座った。
おれ:「ご自宅はどのあたりなんですか?」
おっちゃん:「八王子の市街地からほんの少し離れたところです、八王子から自宅までは、バスで通っていまして。」
おれ:「ちょうど八王子は通りますから、(通るはずだよな・・)かまいませんよ。」
おっちゃん:「ありがとうございます。兄さんはどちらまで?」
おれ:「横浜です。ただ、この国道を通れば東京に着くだろうって感覚だけで、この道を通るのは初めてなんですよ。」
おっちゃん:「なんとか着くだろう、ですか。私と一緒ですね。いや、私と一緒なんて失礼でしたね。いやいや失礼。」
なんて腰の低い人なんだろう。歳のころは40代くらいかな?
おれ:「お見受けするところ背広を着ていますし、今日はお仕事ですか?しかも日曜なのに。」
おっちゃん:「はい、日曜は休みの仕事をしているんですが、最近は平日では仕事が終わらないので出社しまして。そしたら上司に捕まって酒を飲みに付き合わされてしまいましてね。電車を寝過ごすほど日曜の晩に飲んでしまうなんて、本当に・・・もう。家内に山梨まで迎えに来てくれなんて、情けなくて言えませんし。」
おれ:「確かにこの時間にお迎えっていうのも忍びないですね。それにしても、お勤めって大変なんですね。お疲れも溜まっているようですし。」
おっちゃん、背中のYシャツがズボンからはみ出しているし。これそうとう飲まされたな・・・
まだ少し酒が抜けていないみたいだし、ゆっくり走ってあげよう。
おっちゃん:「兄さんは、大学生さん?」
おれ:「そうです、まだ2年ですけど、これから就職活動を先に控えていると思うと大変ですよね。」
おっちゃん:「いやいや、きっと景気も数年後には上向きになるし、その頃には大丈夫ですよ。」
おれ:「そんなもんですかねー。」
おっちゃん:「今のウチの会社なんて不景気で不景気で・・・こないだなんか・・・・・・・・・・」
この後、おっちゃんの仕事についてのトークが一時間弱・・・・
おっちゃん:「じゃ、あの信号を左へ曲がって、はい自宅はもうじきです。このあたりから歩きますので、はい。」
おれ:「お仕事頑張ってください。それに、もう飲み過ぎないようにね。」
おっちゃん:「兄さんも、これから大変だろうけど頑張ってね。」
ミラーでおっちゃんを見送ると、いつまでも手を振ってくれていた。
いいことしたなー。
さて、Manishのアルバムも死ぬほど聴いたし、CDでも替えるかな?
ん?
ガソリンの警告ランプが付いているじゃん!横浜までもたねーよ!!
しかたがないから、エンジンを切って車内で一泊したさ。ATMが開く翌朝まで。
夜中に手を振っても、
誰もガソリン代なんて貸してくれないだろうしな