プレリュードと駆けた日々 第3話 魔法の紙
第3話 魔法の紙〜18歳、春。 〜
プレリュードのパンフレットをディーラーからいただき、眺めてはバイトし、そして大学へ行く日が続き・・・
うーん。やはりこれだ!何度見てもシブイ。
NAエンジンのクセに200馬力を出力し、街乗りもワインディングも卒無くこなすらしい。
ん・・・・・パンフレットばかり眺めていてもダメだ!男なら計画して、実行だ! 夏休みに購入だ!
大学一年、初めての(前期)試験を、自分なりに満足できる手応えと共に終え、大学は夏休みに入った。
(しかしあれだね、大学生ほど時間が余る人種はいないね。9月中旬まで講義がないんだよ。)
そこで、この夏休みまでに焼肉屋のバイトで貯めた30万円をにぎりしめ、実家の長野へ帰省した。
もちろん、長野でも時給のいいバイトを探して計画を加速しましたさ。男なら肉体労働だ!
ペンションの住み込みやマック、コンビニなんかでチンタラ稼いでいられるか!
そうしてローンの頭金を増やすことにより、年式の新しいタマを狙えるじゃん!!!
JA(農協)のお膝元、すいかの選果場を夏休みの勤め先に決定しました。これがまた割がいいんです。
割がいいのは、景気のいい経済連がバックについているからでしょうか?
長野県中心部(中信地方という)から毎日まいにち、軽トラがスイカをゴロゴロと選果場へ持ってきます。
すいかが絶え間なくお皿のベルトコンベヤーに乗せられて流れていき、その後、等級や品質により格付けされて、
バイトの手によりハコ詰めされていく、オートメーションのハイテク工場です。
地元の高校生、大学生が沢山バイトをしにきています。
おれも高校生のときにアルバイトをしたことがあったので、お偉いさんに顔を覚えられていました。
お偉いさん:「お、兄ちゃん!確かおまえはこのバイト、今年が初めてじゃないよな! よしちょっとこっち来い。」
おれ:「へい!なんでしょう?」
お偉いさん:「ちょっと、等級みてくれや。」
おれ:「?」
スイカの等級付けは、どうやっているかというと、機械がレントゲンを通して行っているようで。
しかし、レントゲンと言っても流れてくるスイカを一方向から一瞬だけ見て、
中身が詰まっているかそうでないかを見るわけですから、
機械が格付けする等級には、どうしても完全な信憑性がもてません。
そこで、人間が手のひらで叩いて、機械の格付けをもう一度チェックするようです。
そのチェックを、この素人にやれって言うのですから、経済連はたいした度胸です。
お偉いさん:「兄ちゃん、ここの仕事やらせてやる。時給200円アップな、しっかり頼むぞ。」
おれ:「(ツイてる!)まかせてください。いい仕事します!」
一秒にいっこ、お皿に乗ったスイカがベルトコンベアーで流れてきます。
ボタンとスピーカーが沢山ついた判定マシンの前に、ジイちゃんが座り、
スピーカーから、「A!」「A!」「B!」「A!」と流れてくる機械音声にあわせ、
スイカを手のひらで叩いています。もしもジイちゃんの勘・経験からくる格付けと音声の格付けが異なる場合、
ボタンをタイミングよく押して、お皿に記録された等級の格付けを修正しています。
もう一度言います。一秒にいっこ流れてくるスイカを一瞬で格付けするんですよ。
工場全部でコンベアーが3レーンあり、そのひとつをおれにやれっていうんです。
「わかんねーよ。そんなもん!!!」
それでも仕方がないので、素直にイスに座り、ジイちゃんに教えを乞います。
おれ:「今日からお世話になります。よろしくお願いします!」
ジイちゃん:「おぉ、そうか。俺は手が疲れちまってどーもいけねぇから、兄ちゃん頼むや。」
おれ:「は。その、あのであります。ボクは、良いスイカと悪いスイカが判らないのであります。コツを教えていただけたら幸いです!」
ジイちゃん:「そんなモノ、俺だって何十年生きてたって中身は包丁で切らなきゃわからねぇよ。それでもだいたいの感覚で叩いて中身が詰まっているかを見極めるってもんだ。よし、コツを教えてやる。いいかよく聞けよ・・・・・・(略)」
説明が続く・・・・
「わかんねーよ。そんなもん!!!」
ジイちゃんのスイカ道の教えに従い、一秒にいっこ流れるスイカを、半信半疑で何回も叩き続けます。
右の手のひらが本当に本当に腫れ上がりました。
あの年の夏、長野県中心部のスイカの選果場から出荷されたスイカの3分の一は、私の格付けです。ごめんよ。
そしておれは、右の手のひらと引き換えに、ひと夏のバイト代を手に入れました。
夏休み中のある日・・・
地元のホンダオートテラスに、黒いプレリュードが車両本体価格170万円(たしかこんくらい)で売りに出されていました。 一応、再確認しますと、おれの予算はこうです。
頭金30万円+月4万円×36回払い(ボーナス支払無し)=174万円
自動車税とか、なんか登録諸費用がモロモロで、20万円位は、どうしてもかかるみたいだし、
でも、スイカ叩きがあるから、多少の予算オーバーは修正可能な範囲か???
店員が近づいてくる
店員:「どんな車をお探しですか?」
おれ:「プレリュードですねー。カッコいいし。」
店員:「(黒いプレリュードを見ながら)これ、年式も新しいし、距離もイッていませんから、お買い得ですね。」
おれ:「でも、ちょいと予算をオーバー気味なんですよ。気持ちでいいので、なんとかお勉強できませんか?」
店員:「そうですねー、このプレリュードは人気のブラックで、さらにマニュアルですから、人気があるもので。さらにちょっとマフラーやエアクリも変わってて距離も少ないので、程度がいいんですよ。チューンアップをしたりして、乗りこなし甲斐があるでしょうねー。仮に値引きしたとしても、、、、申し訳ないのですが、私どもとしては数万がいいとこですね。他にオートマで安いプレリュードもあるにはありますが、このマニュアル車は本当にオススメですよ。入ったばかりなんです。」
俺の中の良いおれ:「冷静に考えろ、やめておけ、予算オーバーだ。それに他の中古車屋の物件は見たのか?きっとおまえの予算にみ合った、運命のプレリュードがあるに決まっている。高額な買い物は慌ててしてもロクなことがないぞ!」
俺の中の悪いおれ:「いや、これが運命の車だ、”後悔先に立たず”だぞ。見てみろよ、ピッカピッカに輝いているし、お前の乗りたい条件を満たしているじゃないか。バイトなんて死ぬ気でやればローンなんてチョロいもんだ。お前は若い!イキオイで買ってしまえ!」
俺の中の良いおれ:「バイトばかりしてローンを返して、パーツ代は捻出できるのか?満足のいくチューンアップは出来るのか?肝心のドライブする時間は空くのか?大学の勉強をする時間もなくなるぞ!金銭的に時間的に余裕を持ったほうが賢明じゃないのか!?やめておけ!」
俺の中の悪いおれ:「何のために春からバイトをしてきたんだ?この買い物をするためだろう!!飲みにも行かず、大学の同期からの誘いも断ってバイトをしただろう!!その右手はお前が頑張った証拠であり誇りだ!!ローンを組んで車を手に入れてしまえ!ほら、車生活が目の前に待っているぞ!!」
俺の中の良いおれ:「冷静になれ!」
俺の中の悪いおれ:「ローンだ!」
俺の中の良いおれ:「やめておけ!」
俺の中の悪いおれ:「買え!」
俺の中の良いおれ:「やめておけ!」
俺の中の悪いおれ:「買え!」
俺の中の良いおれ:「やめておけ!」
俺の中の悪いおれ:「ギャルとデートしたいんだろ?お前今、彼女いないじゃん。」
おれ:「この車、ください。」
店員:「ありがとうございます!では、店内で契約の手続きを・・・(略)」
こうして、魔法の紙にサインをして、帰途についた。
数日後・・・・
おれの親父:「おい、今日、”オリエントコーポレーション”って会社から電話があったぞ。説明しろ。」
おれ:「いやなに。ちょっとローンを組んでさ・・・・」
おれの親父は顔色が変わったが、おれは説明を始めた。
それなりにディベートすること自体には自信があったが、イタイ点を衝かれた・・・・
おれの親父:「おまえ、仮に月々のローンの返済が出来ても、駐車場代はどうするんだ?首都圏なら2万やそこらはするだろう。4+2は6だろう。学生が月に6万も払えるモンか!!甘ったれた返済計画を立てているんじゃないのか?バカモン!!」
おれ:( ̄□ ̄;)!!
翌日、クーリングオフを適用して、この話はなかったことにしていただきました。