神話神話と歴史
| Episode10 | |
| ここで男は、しばし口をつぐんだ。 彼が話している間、我々は金縛りにでもあったかのように、身じろぎも出来ずにいた。 彼の声は決して大きくはなかったが、まるで魔法の力に操られているかのように、我々の頭の奥深くに直接響いてくるのだ。 彼が語った神話は、我々が知っているものとは全く違うものだった。 しかし、誰もそのことを彼に問いただすことは出来なかった。 何とも言い難い薄気味悪い胸騒ぎが、全身を覆うのを感じた。 大陸で最も勇猛なファイターである我々が、こんな取るに足らない男に、臆病な娘のように恐れを感じていたのだ。 木の枝に留まっていたフクロウが飛び立つ時の羽根のわずかな音に、我々は皆びくっと身をすくめた。 男は我々をあざ笑い、タバコに火をつけて語りだした。 「私が話した神々の話が、君たちが知っているものとは違うからと言って、頭から否定しようとはしないでくれ。 君たちの神官が、このさすらいの詩人よりも真実に近いという証拠はどこにもないのだ。 神々の御業は神の御心であって、ヒューマンの意志ではないのだ。 神官ごときがどうして真実を知っていると言えようか。 私の話に耳を傾けるがいい。これは、神々が消えた後の大陸の話。君たちが歴史と呼んでいる話だ。」 | |