労働新聞 2006年1月1日号・10面

感銘受けた連帯労組の闘い

「告発! 逮捕劇の深層」著者

ジャーナリスト 安田浩一氏に聞く

 昨年、全日建連帯労組関生支部の武委員長以下が不当逮捕され、12月には戸田・近畿地本委員長らも逮捕された。うち、5人の組合員は12月に無事釈放さた(武委員長は再逮捕)。こうした、敵・権力の弾圧は労働運動全体の破壊を狙った攻撃にほかならない。この一連の弾圧について、ジャーナリストの安田浩一氏は「告発! 逮捕劇の深層」(アットワークス)を上梓、連帯労組のこれまでの闘いや、弾圧の狙いなどについて描き出している。今回、安田氏に取材・執筆を通じて感じたことなどについて聞いた。


取材通じ、感動と驚きが

 僕の連帯労組とのかかわりは、以前、週刊誌の記者をしていた時に連帯労組が行った「下請けいじめ相談一一〇番」で、下請けの建設業者がいかに理不尽な目にあっているか、大手ゼネコンの犠牲になっているかというの実態について取材したのが最初でした。
 だから、連帯労組についての全面的な理解はありませんでした。ただ、反戦運動、国際連帯運動などさまざまな社会運動に一生懸命に取り組んでいる姿勢を見て、「よくやっているなあ」という印象は持っていました。
 だから昨年一月の弾圧の報を聞いた時、初めに感じたのは何かの交渉の時に「ハネちゃったのかな」というぐらいだった。ただ、「権力はひどいことをする」とも思い、関生に事情を聞きにいった。そうすると、単純に労働組合の「跳ね上がった部分」を弾圧をしただけの話ではない、関生が中心で行っている産業政策運動、つまり中小企業といっしょに業界の構造を変えていこう、大企業に対抗していこうという運動そのものへの弾圧であるということをようやく理解できました。

「素人」だから書けた
闘い必要とする歴史が


 取材するにあたってこういう問題は労働運動の当事者が書く方がベストではないかとも思いました。でも、労働運動の「用語」や「思考」だけで書かれても一般の人には伝わりにくいでしょうから、労働運動の経験がない僕のような「素人」が逆に書いた方がいいんじゃないかと考えました。
 生コン業界の位置や関生の闘いについて、その歴史をひも解かないとわからない部分が当然、出てきます。いまの姿だけでなく、「いまなぜ、かれらは闘っているのか」というのを知るには、やはりその誕生から調べていくしかないわけです。生コン業界というは、かつて労働者が「タコ部屋」に押し込まれ、年間三百六十二日勤務、休みは正月三日間だけという時代があったのです。そしてヤクザが会社に君臨して、すさまじい攻防を繰り広げて、文字通り血みどろで闘い、権利を一つひとつ勝ち取ってきたのです。こうした歴史を調べていくうちに、私自身が感銘を受けていました。
 労働者の権利の獲得・保護や反戦運動に懸命に取り組むと同時に、業界全体の利益を考え、大企業とその支配に対抗していこうという連帯労組の視点に新鮮な感動と驚きが僕の中に芽生えました。

連帯労組の優位性実感
「顔」の見える組合だ


 連帯労組の優れたところというのは個々の闘い、企業内の闘いにとどまらず、業界全体の力関係を変えてゆこうする点にあるとも感じました。業界がなぜ労働者のこれだけひどい待遇を強いるのかということを考えた場合に、業界全体に目を向けたということはこの労組の最大の貢献だと思います。だからこそ、運動が発展してきたわけだし、だからこそ大資本に「恨まれる」ことにもなったんでしょう。「資本主義の根幹にかかわる」と当時の日経連の会長が連帯労組について言ったけども、やはりその通りだと思います。「労働組合と中小企業との団結」ーー。これは大資本から見ると、非常に嫌なことであり、ねじ伏せられるような危機感と恐怖を感じたと思います。これは、連帯労組のすごいところですよね。
 僕は労働運動というのは、「社会運動」だと思っているんです。あるいはそうでなければいけないと思うんです。その場合、当然ながら労働者の権利を守るということは日本国民の命を守るということですから、当然、戦争に反対すべきですし、労働者に負担を強いるような無軌道な自由主義、放任主義に対しては抵抗すべき存在として役割を果たすべきだと思うんですね。
 その点、連帯労組は生コン産業における闘いだけでなく、反戦運動も、国際連帯運動もやってきた。
 反戦運動に堂々と旗を掲げて取り組むという労働組合はいま、非常に少なくなっていますよね。大方、企業のワクから出ることが少なくなっている。その意味で、連帯労組は「顔」の見える運動として、評価したいと思います。

運動全体への弾圧という認識が必要

 今回の連帯労組への弾圧について、労働運動やっている側がその性格について、十分自覚していない点があると思いますよ。「連帯労組だから」という空気で、危機感を感じていないところが労働運動の側にもあると思うんです。
 「顔が見える」労働組合が弾圧を受けていることについて、もう少し考えるべき時ではないでしょうか。
 「強者」と「弱者」がこれだけ固定化されて、リストラが横行し、非正規労働者がこれだけ増えている中で、労働組合の存在を必要としている人はたくさんいるはずです。
 そういう中で、連帯労組が真っ先に弾圧を受けているということは、一労組の問題ではなく、労働運動含めたすべての社会運動にかけられた弾圧だということです。
 まして、自分たちの路線と違うから問題化しない、むしろ喜ぶような傾向をもつ労働組合の存在があるという事実は見過ごすことができないと思います。

民営化の弊害明らか
労働運動も役割を


 連帯労組は逮捕・長期拘留という形で弾圧を受けましたが、公務員もバッシングを受けています。
 僕はフリーランスですから、公務員の待遇を「うらやましい」とは思います。しかし、それもかれらが闘って勝ち取ってきたものがたぶんにあるでしょう。自治体でも保育園、図書館など、民間委託という形での丸投げが進んでいます。自分たちの勝ち取ってきたもの、積み重ねてきたもの、それを手放してはいけないと思います。
 公務員に求められるのは、民間労働者を含めた運動をいかにつくれるのかだと思います。
 いま、建築物の耐震強度偽装問題が大問題になっていますが、昨年は五月のJR尼崎事故にしろ、さまざまな民営化のゆがみが出てきた年だったと思います。すべて民間に丸投げして、低コストで、合理的でという行き着く先というのをよくあらわしています。
 連帯労組は、これまで「シャブコン」の問題を追及し、生コンの品質安全問題に取り組んできました。こうした問題についてもますます労働運動がコミットしなければいけない時代になっていると感じます。

闘いへの理解広まれば本望

 読者からは「そんな事情があったのか」「これだけの歴史、積み重ねてきた成果があったのか」という反応が届いています。これはうれしかったですね。このことがわかっていただければ、僕の本望だと思います。
 まだ、取材は継続しています。なんらかの形で皆さんにお届けできればと思っています。


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