とてつもない日本
麻生 太郎著
ソフトパワー大国の自信を
著者は去年の自民党総裁選で安倍晋三首相に敗れたものの、若者層から意外に支持を受け注目された。外相として存在感を発揮し、ポスト安倍の最有力候補でもある。
「とてつもない」と感じたのは、日本の援助で完成したインドの地下鉄での話。それも、技術力より時間や納期を守るという日本人の美徳、労働観だ。確かに、インドの地下鉄には降りる人を待たないで乗り込むという、マナー以前の問題がある。
アジアで最も早く民主化を達成した国として、日本にはアジアのソート(Thought)リーダー(実践的先駆者)の役割があるという。具体的には、ナショナリズムのコントロールや経済発展に伴う公害への対応など。九〇年代末のアジア金融危機では、日本からの緊急融資が安定をもたらした。そこで外交では「繁栄を民主主義通しての平和と幸福」を好んで使うという。
漫画通らしく、マンガやアニメ、Jポップスなどのソフトパワーの重要性を強調する。アジア諸国ではやっているキャラクターはディズニーのミッキーマウスなどではなく、日本のポケモンやドラえもん。Jポップスを歌い、日本製ゲームソフトの攻略本を読むため、若者たちに日本語ブームが起きている。フランスのジダンやイタリアのトッティがサッカーを始めたきっかけは『キャプテン翼』だ。それほど世界的な影響力を持っているのに、「日本人自身は全く理解していない」と『TIME』アジア版は言う。ソフトで稼ぐ時代、日本の将来にとって著者の感性は貴重だ。
外交においては「価値の外交」を提唱する。その価値とは、民主主義、平和、自由人権、法の支配、そして市場経済だ。クメール・ルージュ政権幹部の裁判が始まったカンボジアに三人の女性検察官を派遣し、法の整備から人材育成までコーチしている。BBCが世界三十三カ国、四万人を対象に、「世界に最も良い影響を与えている国」を聞いたところ、三十一カ国で日本がトップだったという。著者の明るさが、今の日本には必要に思えてくる。
多田則明
(本紙掲載:8月26日)