1回、ガオプラチャン(右端)からダウンを奪い、KO勝ちを決めた井上(斉藤直己撮影)
|
 |
◇ボクシング 井上尚弥プロ第2戦(50キロ契約8回戦)
高校アマ7冠のボクシング界の怪物ルーキー、井上尚弥(19)がプロ2戦目でタイのライトフライ級王者ガオプラチャン・チューワッタナ(35)を1回1分50秒、左フックで失神させた。昨年10月2日のデビュー戦でフィリピン王者を左ボディー一発でもん絶させたプロデビュー戦に続く、衝撃KO劇。大みそかにWBA世界ライトフライ級王者井岡一翔(23)=井岡=へ挑戦するという究極のシナリオが現実味を帯びてきた。
タイ王者を秒殺した井上が、会場を埋め尽くしたファンにペコリと頭を下げた。
「わざわざ会場に足を運んでいただいたのに、スイマセンでした」
試合をあっけなく終わらせたことへの謝罪なのであるが、これには、ファンも大爆笑だ。さらに、井上が「今年は日本か東洋のタイトルを取る」と控えめな新年の誓いを立てると、ドスの利いた怒りのヤジが飛んだ。
「バカヤロー。何、言ってんだよ。目指すのは、世界だろが!!」
それにしても、衝撃的な一撃だった。1回、それは、一瞬の出来事だった。ワンツーを打ち込んできたガオプラチャンのアゴを、井上の左フックが射抜いた。バコーンという、ものすごい音とともに、タイ王者は白目をむいて、まるで、糸の切れた操り人形みたいにキャンバスに沈んだ。会場には、どよめきと、ため息と、強すぎるがゆえのあきれ返ったかのような笑いまで漏れた。
会見に現れた井上は、しかし、会心のKO劇にも「いろいろ試したい課題があった。それを、試す間もなく、試合が終わった。得るものは少なかった」とニコリとせず言った。150年に1人の天才と言われた元WBA&WBC世界ミニマム級王者の大橋秀行会長は「井上と(専属トレーナーの)お父さんとの試合前のミット打ちは見て、スゴいと思った。(選手として)同じ時代にいなくて良かったと心底感じた」と真顔で言うと「次の相手を探すのが、大変。誰がやってくれるのか?」と顔を曇らせた。プロ2戦目の相手も井上の強さに恐れをなした2人の世界ランカーに逃げられた経緯があるだけに笑い事ではない。
「もっと、強い相手とやりたい」と井上。大橋会長は「最短記録を狙わなくても、必然的にそうなるかも。大みそかに、何かあるかなあ」とニヤリと笑った。4月にプロ3戦目で世界ランカーと、4戦目に日本か東洋タイトル挑戦。早ければ、プロ5戦目の大みそかに、7戦での国内最短世界奪取記録を持つ、WBA世界ライトフライ級王者井岡一翔への挑戦という究極のシナリオも浮上する。これは、もう、運命かもしれない。 (竹下陽二)
この記事を印刷する