小説 「彼と彼ら、または自己をなくした者」

2012.12.31 Monday 15:40
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     彼らは目を覚ました。
     アダルトDVDとティッシュペーパーそして食べ終えたカップラーメンの容器が散乱する、屑籠のような部屋で彼らは目を覚ました。
     窓もカーテンさえも閉め切った蛍光灯の蒼白い明かりと点けたままのパーソナルコンピュータのモニターが照らす、その部屋には一日も時間も存在しない。
     彼らはベッドで背伸びをしてみた。筋がぐきゅっと嫌な音を立てる。首と肩は石のように硬く重い。その首と肩を揉みながら身をよじりベッドの枕元に置いたリモコンを握るとDVDプレイヤーのスイッチを入れた。
     女の悲鳴にも似た嗚咽が5.1チャンネルサラウンドスピーカーから響き部屋を充たす。その場面は以前にも見たようにも思えた。現実から乖離した彼らの日常には、始まりも終わりもない。壊れたオルゴールのように、ただ繰り返される。
     彼らはベッドに腰掛けると、ほんのしばらくの間アダルトDVDの画面を観た。どれも同じだ、女と男が違うだけ。そう思いながらアンダーウエアに服を重ねていく。肉と肉と重なり弾ける音、激しくなる吐息、性欲を満たすための偽りの性欲。
     彼らは画面に背を向け、部屋を充たす不協和音のように濁った音をバックグラウンド・ミュージックに点けたままのパーソナルコンピュータの前に腰掛けた。モニターには昨日書き込んだコメントが残っていた。だけど意味が理解できない。
     彼らの意にそぐわないブログやホームページに内容を無視した、ただ嘲笑う誹謗中傷の単語や、あらかじめテキストエディタに残した文章をコピー・アンド・ペーストしてコメントに繰り返し書き込む。そのたびに言葉は意味を失い、ただの文字列となっていた。

     彼らの日常が今始まった。

     目を付けているブログやホームページにコメントを書き込む。その作業は百何回と続き、そして書き込んだコメントの一覧を順に目を通していく。抗議の返信コメントがあれば占めたものだ。彼らはつかの間の興奮に酔いコメントの内容を更に嘲笑と悪意に染めて書き込む。無視や削除は失意と悪意となって彼らを包む。その不条理な感情にまかせ同じ内容をコピー・アンド・ペーストする。ときには複数回と続けて書き込む場合もある。全ては気分しだいだ。
     彼らはその作業の際に相手のコメント一覧に目を通す。その中で不快と感じたコメントを、彼らの行為を誹るコメントを、書き込んだ者は新たな敵に新たな獲物になる。先ずはその者のブログなりホームページに嘲笑あるいは曲解したコメントを書き込み反応をさぐる。

     目的も意味もなく、ただ繰り返される悪意と嘲笑と果てることのない優越願望、それはハンドルネームを増やすに従い膨張し拡散する。
     膨張を、拡散を続ける自己。
     自己は、その意味は、膨張と拡散に比例して希釈していった。自己はその存在を固定することができず、繰り返される行為だけが実態を失った影法師のようネットの海に漂う。
     彼は彼らとなり、彼らは存在の意味を削りながら増殖する。ただひとつの現象を彼に残して。

     膀胱の膨らみは尿意として彼らの脳に伝達された。彼らはもどかしさを感じながら作業を繰り返す。やがて排尿中枢は尿道括約筋の収縮限界を彼らに送り従うように求めた。そして彼は立ち上がった。自己をなくした彼に唯一残された自己、生理現象だけが彼らから彼を引き離す。
     トイレの曇りガラスは赤く染まっていた。
     それが朝陽なのか夕陽なのか、彼らに戻った彼にはもう意味はない。


    END



    2012/12/31 18:33に読み直しました。
    30日にタイトルだけは決めたけれど、そのタイトルも「彼と彼ら、あるいは自己をなくした者達」から”者”へと変わった。”者達”のときは実際の集合体と想定して物語を構築しようと思っていました。
    結末もプロットも決めずに書き始めたけど、この程度の文章で四時間はかけ過ぎですね。
    鬱病は寒くなると状態が悪くなる。言い訳はそうしておきます。

    これを区切りに、私は詩作と小説に戻ります。

    さようなら。
    会わずに済むことが何よりもそして誰にも幸福だと願って筆を置きます。
    赤字は2012/12/31/11:37に追記。
    青字は2013/01/02/01:07に修正。



    category:Paranoia Watch | by:そらんcomments(6) | - | ログピに投稿する
    Comment
    一挙一動が勘違いに裏づけされた計算で行動してる感がある。
    コメントありがとうございます。
    ただ主語が不明瞭なため返答ができかねます。
    申し訳ありません。
    >ブログ自体で嘘をつき続ける意味も必要性も見失ったのでしょうね。
    私や中畑さんが、コメントを書きに行くと真剣に考えたのでしょうか?
    誰もコメントをしてくれない閑古鳥なブログで一人、ごそごそと妄想を書き、嘘を吐き続けることに意味などありません。あまりに閑古鳥なので、定型文を貼りつける広告コメントに必死に返答してます。その姿が何とも惨めであります。
    英語の片仮名表記が好きになれないとか、美意識が許さないので訂正するとか、さも自分が言葉を大事にしているようなことを書いてますが、他人から指摘された間違いは意地でも訂正しないんですな、この手の人は。
    プロバイダーをプロダイバーと書いたり、ENDをEMDと書いたりしても、他人から指摘されるとかたくなに無視する。認めてしまえば、自分の立ち位置の「美」がそこなわれてしまうし、敗北するとでも考えているのでしょうかね。
    まあ誤字やタイプミスなんてどうでも良いことなんですが、このような単純ミスを素直に認められない人に限って、自分が他人を勘違いで罵倒してしまったようなことも釈明出来ないものです。
    自分の理不尽を自分に納得させる為に、勘違いしたまま他人を揶揄するような短編まで書いたのですから、決着を付けてコメントなどよせば良いのに、この人はまだこの世界から抜け出せないようです。
    他人を揶揄するなんて不純な動機で短編を書くのは勝手ですけど、そんな動機で書かれた文章が、可哀そうであります。
    | スロー | 2013/01/03 11:35 AM |
    http://paranoiawatch.jugem.jp/?eid=43#comments

    指摘ありがとう。EMDは確かにタイプミスだ。素直に修正する。
    また、最初のコメントで気が付かず自我崩壊などと私の不遜ゆえのコメントは削除する。
    誇大妄想と被害妄想を楽しくいじってみよう
    http://paranoiawatch.jugem.jp/
    の、スローのコメントの矛盾を指摘するためにこのブログを作ってみた。
    でも役目を終えたと思う。後は読者の判断にゆだねようと思う。
    これで更新もしないが、削除もしない。
    しかし、
    誇大妄想と被害妄想を楽しくいじってみよう
    http://paranoiawatch.jugem.jp/
    は、嫁の悪口を愚痴る姑の井戸端会議ごときに様相になってきた。
    これぞ、エコーチェンバー現象。

    何度も加筆修正するうちに私も順番が分からなくなった。
    これで、本当に最後だ。
    さようなら。
    また自分のコメントを削除している。
    「このブログの目的は、「誇大妄想と被害妄想を楽しくいじってみよう」にあるスローの発言の矛盾を指摘するのが目的であった」
    なんて書いていたと記憶するが、そのコメントは削除されて今はもう読めない。
    私のコメントの矛盾を指摘するのなら、削除されないこちらのブログのコメント欄を借りて指摘して欲しいものです。
    そらんさんは不公正がデフォルトなので、他人や自分のコメントを削除したり、自分にとって都合の良い部分のみ抜粋し私のコメントを引用してしまう人です。
    それが分かっていたから、そらんさんのブログにはコメントをしなかった。
    反論の機会を与えずに、一方的に指摘してあとは読者の判断に任せるなんて綺麗ごとも書いて削除しましたね。
    私の発言の何処が矛盾していると言いたいのか訳が分かりません。
    仮に私が反論したとしてもそらんさんは今まで毎回途中で逃げ出してきました。
    そして今回も言いたい放題の捨てブログを放棄してまた逃げて行く。
    そらんさんが私に何度も浴びせた罵倒文句、「二枚舌の負け犬」
    この言葉はそらんさんにぴったり当てはまります。
    自分で削除や編集ができるから気に入らなければ後出しで編集してしまえば良いと投稿する前から考えているから自分の文章に責任が持てないのです。
    無責任に推敲前の批判など書き殴って、そんな文章を読まされる者の身になって考えて下さい。
    そらんさんの中傷ブログは最後のコメントで、「今後削除しないが、更新もしない」と明言されていました。(削除済み)
    そらんさんがいくら二枚舌でも、もう二度とブログの更新はしないで下さい。
    | スロー | 2013/01/06 12:04 AM |
    http://paranoiawatch.jugem.jp/?eid=43#comments

    時系列くらいは理解できるよね。
    スロー。
    でたらめのディベートのルールも、後付けの屁理屈も全て論拠を持って反証した。
    次は君の主張の正当性を裏付ける論拠が必要になる。それが議論であり、中畑との傷の舐めあいは見苦しいだけだ。

    これを持って本当に最後とさせてくれ。痴れ者。








       

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