学校の対応が批判を浴びた大津の中学生の自殺問題。
教育現場に警察の強制捜査が入る異例の事態に発展しました。
兵庫県でも高校生の自殺を巡って学校への不信が広がりました。
遺族に対し「自殺」を「不慮の事故」だった事にできないかと持ちかけていたのです。
学校に通う児童や生徒が自殺した場合その背景に何があったのか。
学校に落ち度はなかったのか。
真剣に考えその死と向き合う事が子供を預かる学校の責務です。
そして文部科学省は全国の学校にその報告を求めて一つ一つの事例から再発防止策を導き出す事が求められております。
しかしそれができていないのではないかと疑わざるをえない一つの事実に私たちは突き当たりました。
警察庁が発表した子供の自殺統計です。
去年一年間の小学生中学生高校生の人数を合わせると353人。
ところが文部科学省の統計では昨年度は200人。
実に150人以上の開きがあります。
一体なぜなのでしょうか。
食い違う統計の裏に何が隠されているのか。
追跡が始まる。
(テーマ音楽)札幌から北東に200km。
私たちはある手がかりを基に北海道の遠軽町に向かいました。
文部科学省の自殺統計。
小・中・高校生別にまとめた全国の自殺者の人数を公表しています。
その中で注目したのは平成20年と21年度。
小学生の自殺は1件もなかった事になっています。
ところがこの間に遠軽町で小学6年生だった女の子が自殺。
両親が町などを相手取って裁判を起こしている事が分かりました。
自殺したのは平成20年4月3日です。
この女の子の自殺を巡って一体何があったのか。
失礼します。
どうも。
NHKの鎌田と申します。
両親の…
(鈴の音)一人娘だった彩花さん。
4年前自宅のトイレで首にひもを掛け命を絶ちました。
警察では彩花さんの死はどう扱われているのか。
「自殺」となっています。
ところが…。
事故報告書ってこれは学校が出したものですか?
(富治)はい学校が出したものです。
学校が教育委員会に提出した事故報告書。
死亡の原因の欄には「多臓器不全」。
「自殺」とはどこにも書かれていません。
こちらです。
彩花さんはどんな思いで命を絶ったのか。
両親は担任の教師の行き過ぎた指導が原因だと考えています。
(道代)これは夏休みの宿題ですね。
5年生の夏休みのドリルです。
同じ図形を描き写す問題。
角度がずれていると何度も描き直しを求められました。
同じ問題の描き直しは2か月半も繰り返されました。
これ当時使われてた彩花ちゃんのランドセルですね。
(道代)はいそのまんま。
「忘れ物をするのが怖い」と彩花さんは毎日全ての教科書をランドセルに入れて通っていました。
担任は忘れ物をした子に20分叱責し続けた事がありました。
忘れ物をすると怒られる。
それが彩花の頭の中におびえと一緒に刻み込まれてたんだと思います。
6年生でもこの教師が担任をする事になりました。
初めての登校日の前日彩花さんは自殺を図りました。
学校側は「担任の指導は彩花さんを死に追い込むほど厳しいものではなかった」としています。
彩花さんは運ばれた病院で意識不明の状態が丸一日続きました。
その時両親は担任から「子供たちにどう報告したらいいか」と問われ彩花さんが学校に戻りやすいようにこう答えたと言います。
翌日彩花さんは亡くなりました。
その3日後今度は校長から電話で申し入れがありました。
そう断ったと言います。
両親が学校の報告書に「自殺」と書かれていない事に気付いたのは2年後。
教育委員会に何度もかけあいようやく訂正されました。
ところが今年9月に公表された文部科学省の統計。
いまだに平成20年度の小学生の自殺はゼロのままです。
なぜ統計は変わらないのか。
私たちは札幌にある北海道教育委員会に直接聞くと言う両親に同行しました。
教育委員会の説明は両親が訂正を申し出た時期が遅すぎたというものでした。
彩花さんがどんな気持ちを抱えて死を選んだのか向き合ってくれる所はどこにもないと両親は感じています。
今野さんのような思いを抱えた親は他にもいるのではないか。
自殺や事故で子供を亡くした親たちが集まる会があると聞き訪ねました。
多くの親たちが口にするのは学校の不誠実な対応です。
18年前小学6年生の息子を亡くした…警察だけでなく裁判でも「自殺」と認定されたにもかかわらず学校と教育委員会はいまだに自殺を認めないと内海さんは言います。
内海平くん。
担任の教師から体罰を受けた直後自宅の裏山で木にひもを掛け自ら命を絶ちました。
内海さんが学校の責任を問いただした裁判の判決文です。
裁判所は「良識をもって判断すれば自殺である事は明らかだ」とした上でその原因は教師の体罰であると認定しました。
平くんは自殺する直前にささいな理由で担任から口の中が切れるほど激しくたたかれていたのです。
ところが平くんの死についての学校の報告書では18年たった今でも事故死とされたままです。
一体なぜなのか。
内海さんは当時学校が一刻も早くふだんの状態を取り戻そうとするあまり平くんの死がないがしろにされたと感じています。
平くんの死から3週間後に体育館で開かれた学校と地域の住民による集会の録音です。
平くんが亡くなる前に教師による体罰があった事は一切話されませんでした。
学校への信頼を損ねる体罰の事実には触れず事態の沈静化が図られていったのです。
兵庫県内の教育委員会に勤めていたある人物が私たちに証言をしてくれました。
自殺から1年後平くんが亡くなった当時の教育長と学校指導課長が説明に来ました。
「平くんの死が自殺である事。
その背景に教師の体罰があった事を認めてほしい」。
そう訴える内海さんに思いも寄らない発言をしました。
こうして平くんは「事故死」と報告され自殺そのものがなかったかのように扱われたのです。
私たちの追及に2人は自殺だったと認めた上で18年間変えなかった報告書の記載についてこう話しました。
(相沢)いかがでしょうか?そう。
それと…警察や裁判所が自殺だと言ってもなかなか認めようとしない教育現場の実態。
文部科学省はどう受け止めているのでしょうか。
我々は…警察庁と文科省の間で…。
最終的に数字の食い違いってそこに出てるわけですからそこのところのすりあわせなどはないんですか?「警察が自殺とした場合は学校も自殺として扱う」と明言した文部科学省。
しかしこれだけで問題は解決されるのか。
私たちは昨年度「自殺」として報告された200件に注目しました。
いじめが原因とされているのは僅か4件。
厳しい指導など教師との関係に悩んで自殺したという報告は1件もありません。
6割近い115件は原因が分からないとされています。
「本当の原因が報告されていない」。
そう訴える遺族がいます。
はい…こんにちは。
どうも。
NHKの相沢と申します。
長崎に住む安達和美さんです。
8年前中学2年生だった息子雄大くんを亡くしました。
雄大くんはライターとたばこを持っているところを担任の教師に呼び止められました。
中が見えない部屋に連れていかれ1時間指導を受けました。
雄大くんを1人残して担任が教室を出た直後4階の踊り場から飛び降り自殺をしたのです。
安達さんは長崎市を相手に裁判を起こしました。
教師の指導が原因だと認め同じ過ちを繰り返さないでほしいという思いからです。
そういう事を先生たちが少しでも知っていれば子供の心理とかいうところできちんと勉強してもらう事もできると思うんですよ。
裁判所は「学校側の対応は違法とまでは言えない」と損害賠償の訴えを退けました。
一方で「指導がなければ自殺がなかった事は明らかだ」として指導と自殺の因果関係を認めたのです。
ところが教育委員会が提出した報告書では雄大くんの自殺の原因は今も「不明」のまま。
「教師の叱責」とはされていません。
裁判所が教師の指導が原因だと認めたにもかかわらずなぜ変更しないのか。
長崎市の教育長に聞きました。
教師の指導による自殺というこれが1件でもあれば他の先生たちも教師の指導によって生徒が自殺するって事がありうるという事に気が付く一つのきっかけになるんじゃないでしょうか。
統計に1件あげたからといって教師の意識は変わらないと言う教育長。
実は長崎市は裁判の中で教師に責任がないという事を示す根拠の一つとして文部科学省の統計を持ち出していました。
「平成11年度以降に教師の叱責を原因とした児童生徒の自殺は1件も発生していない」。
しかし安達さんは統計に1件もないのは一人一人の自殺に向き合いその原因を正しく報告していないからだと考えています。
そういう思いで私たちはもう一度きちんと認めて…。
教師の叱責で子供が死ぬという事をきちんと認めてほしいという事をずっと私が生きている限り学校が認めてくれるまで訴えていきたいと思っています。
自殺の原因が学校にあったと認め再発防止につなげようとしている教師たちがいると聞き訪ねました。
(2人)よろしくお願いいたします。
10年前小南さんらはたばこを吸った男子生徒に学校の処分の基準に従って無期限の謹慎を言い渡しました。
生徒はその夜命を絶ちました。
亡くなった西尾健司くん。
謹慎を言い渡された時下を向いて唇をかみしめていたと言います。
しっかり頑張るんやぞという事を言おうと思ったら言えるんですよ。
この出て行く場面ででも。
そのひと言がやっぱり言えなかったんですよね。
僕の中にある後悔というのはそれなんですよね。
担任だった青木俊也さん。
教師にとって通常どおりの処分であったとしても生徒が自殺したのでは正しい指導とは言えない。
生徒の心を理解しそのつど適切な指導のしかたを考える必要があると気付きました。
この子供のためにどうしたらいいのか。
この子が社会に出ていくためにどんなふうに今やっていかないといけないのかっていう目線がやはり子供から発信するような目線に私自身変えていけたかなと…。
教師たちは生徒指導の運用基準の最後に一文を書き足しました。
「基準は指導を公平に行うためのものである。
しかしそれに拘束される事なく生徒にとって最良の指導を目指すべきである」。
小南さんと青木さんはこの10年健司くんの家を何度も訪ね遺族と対話を続けてきました。
こんにちは。
こんにちは。
出迎えたのは母親の…健司くんの部屋は今も当時のままです。
裕美さんにとって息子の死の原因とも思えた2人の教師。
しかし2人が教師としての在り方を見つめ学校を変えようとした姿勢が何よりの救いになったと言います。
その思いはやはり私たちに対してもそうですし…。
全ての出発点となった一枚の紙があります。
健司くんの死について学校が提出した事故報告書。
そこには「自殺」と明記され原因は指導にあったと書かれています。
健司の場合は後で生かして頂けた。
命はないんだけど思いだけは生かして頂けたという…。
そうなったのはこの事故報告書があったからだろうなって思います。
追跡から見えてきたのは子供の自殺を認めようとしない学校のかたくなな姿でした。
しかし向き合おうとする教師たちの先に私は小さな光を見たように思います。
2012/12/26(水) 22:55〜23:25
NHK総合1・神戸
追跡!真相ファイル「“消えた”子どもの自殺」[字]
いじめや教師の指導を苦に子どもが「自殺」したにも関わらず「事故死」と報告され、文科省の統計から“消えて”いる例がいくつもある。子どもの死をめぐる学校の闇を追跡。
詳細情報
番組内容
文科省による「児童生徒の自殺統計」。この数字が警察発表と大きく食い違い、昨年度は150人以上の「自殺」が統計から“消えて”いる。取材を進めると、親が知らないうちに学校が「自殺」を「事故死」と報告しているケースが相次いでいると分かった。遺族が修正を求めても、教育委員会らから拒否されることもある。子どもの死を重く受け止め、再発防止の教訓を導くべき教育現場で、何が起こっているのか…。追跡が始まる。
出演者
【キャスター】鎌田靖,【語り】皆川純子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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