十勝毎日新聞社ニュース
女性代議士誕生秘話
2013年01月05日 13時53分
衆院選の第一声を終えた後、雪と氷の地面に土下座する中川郁子さん。周囲を驚かせたその行為は、約20秒間続いた
自民党新人の中川郁子氏(54)が初当選し、十勝初の女性代議士が誕生した昨年末の衆院選。石川知裕、渡辺紫の両氏との激しい戦いで最大の転機となったのは、郁子さんが選挙戦初日(昨年12月4日)に見せた突然の土下座だった。周囲を驚かせたこの行為には、志半ばで亡くなった夫の中川昭一氏(元財務・金融相)や義父の中川一郎氏(元農水相)の遺志を継いで十勝を継続発展させていく−との郁子さんの強い思いが込められていた。同時に、昭一氏を失った悲しみを乗り越えていく。その覚悟を示す有権者への「決意表明」でもあった。
郁子さんの選挙戦の土下座は、実は今回が初めてではない。昭一氏によるローマでの“もうろう会見”(2009年2月)の後、同年8月、劣勢の中で戦った衆院選。昭一氏と別行動をとっていた郁子さんは、帯広市工業団地内での企業回りの際、地面に膝をついた。
土下座にはある因縁があった。前日、昭一氏との食事中、選対幹部から電話が入った。昭一氏に対して「このままでは、危ない。土下座するように」という要請だった。
電話を切った後に、「私が土下座したらどうしますか」と郁子さん。昭一氏は「お前が土下座したら俺は死ぬ」と答えた。
「夫は絶対に死ぬはずがない」。その思いが、翌日の工業団地内での土下座につながった。
昭一氏の落選から1カ月後の10月4日朝、郁子さんは、東京の自宅で夫の亡きがらを発見した。「お前が土下座したら俺は死ぬ」と言った昭一氏の言葉がすぐ、よみがえった。
「私が土下座したことは夫に伝えなかったが、神様は見ていたんだと思った。夫が亡くなったのは私のせい…」。後悔の念がつきまとった。
土下座をめぐっては、関係者のさまざまな思いが交錯した。前回も選対本部長を務めた矢野征男氏は「前回の終盤の戦況は、本人(昭一氏)が土下座して、断酒宣言して、自分をさらけ出してもらわないと戦えない状況だった」と振り返る。一方で郁子さんには、昭一氏が土下座をできない分、「自分が」との思いがあった。
陣営動かす
昭一氏の急死を経て、衆院選への出馬を決めた以上、昭一氏の汚名をそそぎたい−。そんな願いも強くなった。「(土下座したことで)死ぬなんてことがあり得るはずがない。私自身が死ぬ気で選挙を戦えば…」と気持ちを奮い立たせた。
結果的に、前回の土下座と昭一氏の死去は、郁子さんにとって「今日まで来られた原動力の一つ」(郁子さん)になり、ひいては今回の土下座の背景にもなった。この土下座が、多くの支援者の心を揺り動かした。「陣営が引き締まった」(谷脇正人選対幹事長)という通り、郁子さんが独断で行った土下座が選対の機動力を格段に向上させた。
当選後に郁子さんは語った。「2人の(霊)前に座った時、『険しいいばらの道を選んだんだから、命懸けで頑張るように』と言われたように感じた。とっさに土下座という行動に出たこととすべてつながっているのかもしれない」
矢野氏は「前回選挙で負けた昭一氏が亡くなったことで、心身共に疲れた様子があった。相当つらい、苦しい、悲しい思いをずっとしてきたと思う」と郁子さんの心中を思いやる。その上で、「土下座で吹っ切れたのだと思う。当初のわれわれの心配、不安は完全にぬぐい去られた。本当の強さを持っている人だった」と国政での活躍に期待する。
議員バッジを着けて10日。「メーンテーマは農業。農業予算を獲得し、食料政策が国の真ん中に来るよう頑張っていく」。そう語る郁子さんの表情に迷いはなかった。