ADR裁定:東電社員にも賠償 避難区域外転居に柔軟対応
毎日新聞 2012年12月22日 15時00分(最終更新 12月22日 15時04分)
東京電力福島第1原発事故による避難区域からの避難者への精神的賠償を巡り、区域内の持ち家に住んでいた人を除き区域外へ転居した時点で賠償対象外とする東電の基準について、同原発で働く社員が原子力損害賠償紛争解決センター(ADR)に不服を申し立て、認められていたことが分かった。事故当事者の東電社員にさえ賠償を認めるこの決定は、東電基準の見直しを求める意味を持ち、一般被災者の賠償請求にも影響を与えそうだ。
申し立てたのは独身の20代男性社員で、事故を受けて警戒区域内の社宅から区域外の社宅に避難した。事故当初は東電の基準が明確でなく、賠償を受けていたが、昨年11月までで打ち切られた。男性は今年6月になって未払い分を請求すると、東電側は「アパートや社宅にいた場合は避難区域外に転居した時点で本人も家族も避難は終了し、賠償対象外」と退け、「一般被災者も同じだ」と回答した。男性はADRに不服を申し立て、9月に「避難は継続中」との判断で請求の全額を認める決定を受けた。東電は男性と和解し、請求額を支払っている。
東電は一般被災者にも同じ基準を適用。抗議などを受けて支払いに応じるケースはあったが、社員に対しては、基準を厳格に適用してきた。東電によると、社員のADR申し立てが認められた初ケースとみられる。
文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会の中間指針(昨年8月)は、避難を余儀なくされた場合を賠償対象と定め、持ち家かアパートかといった居住実態への言及はない。
複数の社員によるとこのADR決定は社内でも知られていない。今月12、13日開催の初の社員向け賠償説明会でも、同社はADR決定には触れず、基準を貫く姿勢を示した。
同原発で働く社員は地元採用が大半で、若い社員ほど社宅やアパート暮らしが多い。説明会を聞いた社員は「持ち家があるのは幹部だけだ」などと批判の声も上がっていた。【栗田慎一】
東電広報部の話 社員も一般被災者も同じ基準で判断している。(ADR決定後も)基準の考え方を変えるつもりはない。一般被災者は生活や勤務の状況が分からない場合が多く、(対象外でも)支払う場合がある。