アベノミクス・安倍経済政策:期待と課題 TPP交渉参加急げ 東大教授・伊藤元重氏
毎日新聞 2013年01月05日 東京朝刊
−−環太平洋パートナーシップ協定(TPP)について、米国など交渉参加11カ国が年末までの妥結を目指す一方、安倍政権や自民党は参加に慎重です。
◆日本の交渉参加は早いほどいい。米欧アジアの主要国が(貿易自由化を目指して)世界的な経済連携を進める中、日本だけが流れに背を向けることはできない。閉塞(へいそく)した日本経済の活性化には、市場をオープンにし海外の成長を取り込む必要がある。米国が主導するTPPはアジア太平洋地域だけではなく、世界全体の新たな通商ルールにつながる流れになるかもしれない。日本はルール作りにいち早く関与し、自国の立場を反映させるべきだ。
−−農業団体などは交渉参加に猛反対です。
◆(日本農業が壊滅するとか、医療保険制度が崩壊するなど)反対派の主張は実在しないのに「お化けがいる」と脅かしている面がある。交渉参加による日本の農村地域への影響を考えれば、交渉不参加の場合の打撃も大きい。多くの農村世帯は兼業農家で農業の傍ら、その地域の工場などで働き、生計を立てている。日本のTPP不参加で、輸出が不利になれば、メーカーは地域の工場をたたみ、TPP参加国に生産を移転する。電機や自動車など日本の産業の集積地になっているタイも昨年、TPP交渉参加を表明した。日本が参加せず、タイがTPPに加盟すれば、日本の製造業はタイへの生産シフトを加速させるだろう。そうなれば兼業農家も苦しむことになる。
−−交渉参加には国内農業対策がカギです。
◆農地の大規模化や担い手育成、専業農家に集中した戸別所得補償などが課題になる。安倍政権を支える自民党は「(民主党政権のバラマキ型の)戸別所得補償から、農地を維持する支援策への転換」を訴えている。これまで着手してこなかった農業強化のための真の支援策をしっかり講じるべきだ。TPP参加は(日本の経済競争力維持など)「国の形」を決める問題だ。10年後、20年後を見据えて取り組んでほしい。【聞き手・種市房子】=随時掲載
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