先日上場したユーグレナの出雲社長の手記が出版されています。読書メモをご共有。
ミドリムシで世界を救う
・ミドリムシが地球を救うというのは、何一つ偽りがない、本当のことだ。植物と動物の間の生き物で、藻の一種でもあるミドリムシは、植物と動物の栄養素の両方をつくることができる。その数はなんと59種類に及ぶ。しかも体内に葉緑素を持つため、二酸化炭素を取り入れ、太陽のエネルギーから光合成を行うことができる。すなわち、CO2削減という意味でも、救世主となりうる。さらにそれだけではなく、ミドリムシが光合成により作り出し、知あないに蓄えた油を石油と同じように精製すれば、ロケットやジェット機の燃料として使えるバイオ燃料が得られる。食料、栄養、地球温暖化、エネルギー。これら途方もない問題は、ミドリムシが解決するのだ。
・バングラデシュの子どもたちに足りないのは、コメのような炭水化物ではなく、たんぱく質やミネラル、ビタミンなどの栄養素だ。(中略)できるかぎり栄養価の高い、まさに「仙豆」のような食材を見つけ出さないと—僕はそんなことばかり考えるようになっていた。
・「ミドリムシはね、本当に難しいよ。この論文はね、全部「培養できたら」という仮定の話なんだ。つまり「培養後」の未来を描いた論文で、ミドリムシの培養には、世界でまだ誰も成功していないんだ」
・いったいなぜミドリムシの培養は、そこまで難しいのだろうか?調べてみると、その理由がわかってきた。簡単にいえば、ミドリムシは「美味しすぎる」のだ。生物学では「バイオロジカリー・コンタミネーション」(生物的な汚染)と呼ぶが、培養している間に、他の微生物が侵入してきて、あっという間にミドリムシを食い尽くしてしまうのである。
・すぐに創業しなかったのは、ミドリムシの培養の目処が立たなかったことや、事業資金のあてがないという現実的な理由もあった。でも本当は、自分の精神的な弱さが理由だ。(中略)結局銀行を辞めてからも、「35歳にして立つ」という自分への言い訳を続けていたのだ。
・100人の社長のカバン持ちをお手伝いする中で、先ほど言ったような「やりたいことをガツガツ追求する肉食タイプ」「自分のやりたいことをコツコツ追求する草食タイプ」など、いろんな社長とおつきあいするようになった。しかし一人だけ、どの枠にも入らない、まったく別次元の経営者がいた。それが、元ライブドア社長、堀江貴文さんだ。
・ミドリムシにはほとんど何の影響も与えないが、ミドリムシ以外の生き物は侵入できないような培養液を人為的に作り出すことができれば、別にクリーンルームでなくても問題がないんじゃないか。そうすれば、屋外で大量に培養することが可能になる。当然、高価な投資の費用もかからないから、安く大量にミドリムシを増やすことができる。
・しかしこの1月17日から、すべての風が逆向きに吹きはじめた。マスコミは連日、堀江さんとライブドアのことを徹底的に叩いた。(中略)その攻撃の矛先は、ユーグレナにも及んだ。「ライブドアと沖縄の闇」といったおどろおどろしいタイトルが表紙に踊る週刊誌で、我々が石垣島で行っていたミドリムシの培養実験が、何か怪しいビジネスであるかのように書かれていたのを見たときは、心底驚くとともに、正直心が折れそうなほどショックだった。人々は少しでもライブドアと関わりのあった人や会社を、まるで腫れ物に触るかのように忌避するようになった。ミドリムシも、ライブドアとの関わりによって、あらゆることがネガティブに取られるようになっていった。
・僕には、いつでも財布に入れて持ち歩いているものがある。それは2006年2月17日の日付が入った、銀行の振込明細だ。その日、僕はユーグレナを続けることを決めた。ライブドアに出資してもらっていた分の株式を、自分の貯金で買い取り、関係を断つことにしたのだ。
・僕たちはそれまで、あまり堂々と「ミドリムシ」という名前では、自分たちの商品を売ってこなかった。それは繰り返し述べてきたように、ミドリムシという語感から、青虫やイモムシの仲間だと思われて、イメージが悪くなることを恐れたためだった。そのため製品名にも「ユーグレナv22」という名前をつけていた。
・創業してからこれまでの7年を振り返って思うのは、日本は極端すぎる、ということだ。アントレプレナー文化が育たないのも、このあまりにも極端すぎる日本の空気のぶれ方があるのではないか、と思う。僕たちのようにひとたび「ライブドア関連だからダメだ」と見なされたら、そこから這い上がるのにはたいへんな努力と時間を必要とする。しかし「これはいける」となったら、今度は我先にと雪崩を打つように押し寄せる。
・ライブドア事件とその後の辛酸を味わった約3年間を通じて、学んだことがある。それは、人類の進歩に資するテクノロジーには「サイエンティフィカリーコレクト(科学的な正しさ)」と「エモーショナリーアグリーメント(感情的な共感)」の両方が必要だということだ。
・思いきって銀行を辞めて、夜行バスに乗ってミドリムシの研究者を日本じゅう尋ね歩いているうちに、いつしかある一つの確信がめばえてきた。それは「今世界で、自分ほど、ミドリムシについて真剣に考えている人間はいないはずだ」という思いだった。(中略)ライブドア・ショックのあとで、会社をたたむか、全財産をつぎ込んで事業を継続するか迷ったときに最後の一押しをしてくれたのも、この確信だった。そして、ここで諦めたら後の人生ずっと後悔する、ということも明白だった。本当にそれぐらい好きなことであれば、世界じゅうの人が止めても、誰一人応援してくれなくても、そのことをやりつづけるべきだということを、僕はこの7年で学んだ。
企業に至るストーリー、ライブドア事件の顛末など、物語として普通に読み応えがある一冊です。ハラハラドキドキ感があり、引き込まれます。起業家本はけっこう読んできましたが、これはピカイチですねー。
ユーグレナ、上場したこともあり、今後はさらに勢いを付けていくのでしょう。今後の飛躍に期待です。
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