コラム:「1ドル90円台」への遠い道のり=唐鎌大輔氏
唐鎌大輔 みずほコーポレート銀行 マーケット・エコノミスト
[東京 12日 ロイター] 2007年夏以降、約5年半にわたり続いてきた円高局面はついに終焉を迎えたとの声が日増しに強くなっている。現状、日本の政治要因などを受けて実現の疑わしい政策期待を踏まえながら円相場が下落している面もあって、足許の円安の勢いをそのまま鵜呑みにするのは危険だ。しかし、過去5年半と照らして、「今までとは違うこと」がいくつか散見されるのも確かで、相場の転換点を検討すべき時期に差し掛かっていることは否めない。
結論から言えば、円安基調に至るための「帆」は拡がりつつあるが、その基調を加速させるための「風」が不足している。拡がりつつある「帆」にたとえられるのは圧倒的な貿易赤字に根ざした需給環境の変化だ。これに応じて変化しつつあるIMM通貨先物取引やリスク・リバーサルなどに現れる市場参加者のリスク認識、各種テクニカル指標そして国内政治環境なども「帆」の一角をなしている。
だが、円安基調を加速させるための「風」にあたる日米金利差が決定的に小さい状況が続いており、円安一辺倒の動きがどこかで止まる可能性も考慮したほうが良いだろう。
<貿易赤字は通年で史上最大に>
過去5年半と現状を比べて「今までとは違うこと」を挙げるとすれば、第一に貿易収支の赤字定着は外せない。前回のコラム「需給の変化が迫る円安シナリオ」(here)で述べたように、基礎的需給の円安方向への傾斜が昨今の円安相場の主因と考えて差し支えないだろう。
年初来の貿易赤字(1―10月)は約5.3兆円で、すでに昨年通年の約2.5兆円の倍に達している。10月時点までの合計で過去最大であり、日本の対外経済部門には「今までとは違うこと」が明確に起きていると言って良い。
海外市場参加者は「貿易赤字」の次に「経常赤字」、そして「国債暴落」という三段論法に飛びつきやすく、後述するIMM通貨先物取引などに現れる海外投機筋の円売りには強いモメンタムを感じる。まずは、来年1月24日に公表される12年通年の貿易赤字発表に伴い「過去最大の貿易赤字」とのヘッドラインが飛び交い、海外時間に入った後に円売りが加速するような展開を警戒したい。 続く...