余録:アジアには二つの国名を持つ国が二つある。一つは…
毎日新聞 2013年01月05日 00時12分
アジアには二つの国名を持つ国が二つある。一つはミャンマー。軍事政権時代の国名変更をアウンサンスーチーさんら民主化勢力が認めず、ビルマ(英語はBURMA)を使い続ける厳しい政治的事情がある▲もう一つの国は日本だ。漢字で書けば同じだが仮名にすると「にほん」と「にっぽん」。両者の併用は遅くとも室町時代には始まっていたといわれる。一本化をもくろむ動きもあったが、09年に内閣は国会で「いずれも広く通用しており統一の必要はない」と答弁した▲私たち日本人は二つの呼称を時々の状況や文脈に応じて使い分けてきた。戦前戦中は大日本帝国(だいにっぽんていこく)に象徴されるように「にっぽん」が圧倒的だった。戦争が終わり平和が訪れると「にほん」が主流に定着した▲ところが次第に「にっぽん」の使用頻度が高まってきたようだ。「ニッポン、チャチャチャ」や「がんばれニッポン」。政党の名称でも90年代半ばの政権交代を担ったのは日本新党(にほんしんとう)だったが、昨年結成された新党では日本(にっぽん)の冠が目立つ。自民党のキャッチフレーズは「日本(にっぽん)を取り戻す」▲柔らかく穏やかな響きを持つ「にほん」に対し、促音(そくおん)と破裂音(はれつおん)が重なる「にっぽん」は威勢良く響く。スポーツの応援にはもってこいだが、それ以外の多用は最近の元気のない日本の裏返しなのかもしれない。人を元気づけるのは大切でも、国民を鼓舞しすぎて戦前のムードに回帰してはいけない▲日本的なものに触れることが多いこの時季、良き伝統を見つめ直す好機だ。国名に二つの読み方を併せ持ってきた言語文化の豊かさをかみしめ、言葉の響きを確かめながら使っていきたい。