特集ワイド:リーダーを読む/4止 日本未来の党 嘉田由紀子代表 空気読まずに<突進>
毎日新聞 2012年12月14日 東京夕刊
◇恋した琵琶湖、転身の契機 小沢氏、使うか使われるか
新党結成の会見は変わっていた。会場はいかにも急ごしらえで、横断幕一つない。なによりバックにはホテルの窓越しに青々とした琵琶湖が広がっていた。
11月27日、滋賀県知事の嘉田由紀子さん(62)は日本未来の党を結成し、代表に就任すると発表した。知事に就任して6年、関西電力大飯原発再稼働に反対して注目されたが、全国的によく知られたとはいえない。嘉田さんを理解するキーワードを探しに、琵琶湖西岸の針江地区(同県高島市)を訪ねた。嘉田さんが環境社会学の研究者時代に何度も訪れた場所だ。大学教授としても教え子と歩いた。街角や屋内に川の伏流水がこんこんとわき出る水場、カバタ(川端)が100以上ある。
「まろやかな味だね」
竹筒のコップに入った水を口に含んだ観光客の表情がほころんだ。住民はカバタを守り、今も顔や野菜を洗う。
住民の石津文雄さん(64)は「自分たちには当たり前の暮らしが『宝物だ』と教えてくれたのが嘉田さんなんです」と笑う。
「琵琶湖に恋したのよ」。埼玉県出身の嘉田さんは、よくそう言う。出合いは修学旅行。京大に進み、探検部に入ってタンザニアを単身旅した。京大大学院時代に探検部の先輩と結婚。研究を続けながら2人の男の子を育てた。
大学院修了後、滋賀県の琵琶湖研究所職員として集落をまわり、調査を続けた。フィールドで培い、今も考えの基本となるのが「生活環境主義」だ。先人が川を利用しながら川を守ったように、伝統文化や住民の生活を基に、望ましい環境を考える立場だ。
政治家を目指した大きな理由はダムだ。嘉田さんが委員を務めていた国土交通省近畿地方整備局の諮問機関「淀川水系流域委員会」。「環境影響の大きなダムは原則建設しない」と提言し、同整備局も05年、琵琶湖・淀川水系の5ダムのうち2ダムの建設凍結方針を出す。しかし、滋賀県は「建設推進」のまま。怒った嘉田さんは、翌06年、知事選に出馬する。
次男の修平さん(33)は嘉田さんについて「自分の信念第一。空気が読めないというか、読まずに突進するタイプ」と言う。新幹線新駅やダムの建設は「もったいない」と訴え、自民、民主、公明の推薦を受けた現職を破って当選。建設中止を実現した。一方、出馬に反対だった夫とは08年に離婚した。