産業の視点から2012年を振り返ると、戦後の日本の成長をけん引した家電産業の失速が誰の目にも明らかになった年だった。自動車などなお強い部門もあるが、それも拠点の国際展開が進み、国内における事業の裾野は徐々に小さくなる方向だ。
産業ピラミッドの頂点に立つ一握りの大企業が日本全体の競争力や生産性を引き上げる。そんな20世紀型の成長の構図は通用しなくなりつつある。
隠れたチャンピオン
いま求められるのは、新たな成長の担い手だ。「人口が減るので日本の停滞はやむを得ない」といった宿命論を排して、足元を見つめ直せば、成長の芽はあちこちに眠っている。
その一つが世界に通用する技術やサービスを持った中堅・中小企業群だ。見過ごされがちな彼らの真価に気付いているのは、むしろ海外企業かもしれない。
米ゼネラル・エレクトリック(GE)は有望な技術を持つ日本企業を発掘し、その情報を全世界のGEの技術者に発信して、新たなビジネスに結びつける「ジャパン・テクノロジー・イニシアチブ」という取り組みを始めた。
航空機エンジン向けに耐熱性の高い新素材を生産するために、中堅素材メーカーの日本カーボンと合弁会社を設立するなど既に成果も上がっている。米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)も日本で同様の試みを進め、ビジネスのタネ探しに余念がない。
自ら世界に飛躍する企業も多い。工作機械などに使われる位置決めセンサーを製造するメトロール(東京都立川市)は従業員100人の中堅企業だが、海外展開を始めて15年で、アジアや欧米で1200社の顧客企業を開拓した。
ホームページで注文を受け、クレジットカードで決済し、国際宅配便で発送する。松橋卓司社長は「優れた商品と経営者の意欲、そして多少の英語力とIT(情報技術)のスキルがあれば、資本力のない企業でも簡単に世界に売り込める時代が来た」という。
ドイツには「隠れたチャンピオン」と呼ばれる企業群がある。規模は小さいが、ニッチ分野に特化し、世界市場で高シェアを誇る。そんな無名の企業群がシーメンスなどの大企業と並び、独製造業の競争力や雇用創出を支える片方の主役である。
日本でも世界に飛び出す中堅企業が増えれば、新たな成長の核になり得るだろう。
もう一つの成長の担い手は、ゼロから業を起こすベンチャー企業だ。長らく日本は「ベンチャー不毛の地」といわれたが、その常識は徐々に変わり始めた。
昨年は求人サイトのリブセンスが東証1部に上場し、村上太一社長(26)は1部上場の社長として最年少記録を更新した。
若者だけではない。リチウムイオン電池を生産するエリーパワーの吉田博一社長は元住友銀行副頭取で75歳。ソニーのカリスマ技術者として知られた近藤哲二郎氏(63)はアイキューブド研究所を設立し、テレビの解像度を高める「4K」技術で世界をけん引する。
リスクマネーの確保を
起業の流れを太く確かなものにするには、リスクマネーの確保が欠かせない。中小企業金融円滑化法のような不振企業の延命策ではなく、新しい産業を生み出すために資金を振り向ける、という発想の転換が政府にも必要である。
農業などの非産業セクターにも成長の手がかりはある。福島原発事故に直撃された福島県川内村で建設の進む「野菜工場」は、レタスの収穫量が通常に比べて3割以上増えるのが特徴だ。
発光ダイオード(LED)の光をうまく調整することで光合成を促し、レタスの成長を早める。
野菜工場はコストの高さが弱点だったが、日本が強いLED技術と世界最先端の水耕栽培ノウハウの融合で突破口が開けた。農業用水の節約にもつながり、中東などへの輸出も有望だ。異分野の「知」を混ぜ合わせることでイノベーションが生まれる典型である。
安倍晋三首相は昨年末の就任会見で「政権の使命は強い経済を取り戻すこと」と述べた。だが、経済の活性化は政治の力だけで達成できるものではない。実際の経済の担い手である企業や個人が新たな挑戦に踏み出すところから、日本経済の再生が始まる。
吉田博一社長は、ゼネラル・エレクトリック、松橋卓司、日本カーボン、村上太一、担い手、安倍晋三、P&G、シーメンス、リブセンス、ソニー
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