刑事未成年者の利用と間接正犯
裁判員のための一口判例解説 2010年6月11日 更新
~最高裁昭和58年9月21日判決~
「あれ、とってこい」
こんな風に、ある人間が誰かに指示して物を盗ませたとき、その行為はどう評価されるのでしょう。
ちょっとそそのかしただけで、犯行は実行した他人の主体的な判断に基づくと考えるのでしょうか?他人をそそのかして犯罪を起こす意思を生じさせ、実行させる、このような犯罪の形式を教唆犯といいます(刑法61条)。
それとも、あくまで自分が盗む意識で、他人に実行行為を担当させたと考えるのでしょうか?事情を知らない者や善悪の判断ができない者などを一方的に支配・利用し、犯罪を実現するような場合を間接正犯といいます。
今回の事案では、刑事責任を問うことができる年齢に達していないものの、是非善悪の判断能力を持っている者を利用して犯罪を行なった場合、その者は教唆犯なのか、それとも間接正犯なのかが問題となりました。
被告人Xは、3度目の結婚で妻の連れ子Yを養女に迎えました。
しかし幸せな生活は続かず、妻がXの暴力に耐え兼ね家出し、Xの実子が交通事故死したことから、Xは12歳のYを連れて、遍路姿で四国八十八か所札所および霊場巡りの旅に出ましたが、そのうち宿泊費用などに窮するようになりました。
そこでXは、Yに巡礼先の寺などから金銭を盗ませようと企てます。
Yには、日頃から、少しでも自分の言動に逆らう素振りを見せれば顔面にタバコの火を押し付けたり、ドライバーで顔をこすったりするなどの暴行を加えて、意のままに従わせていました。
この関係を利用してYに窃盗を命じ、約2ヵ月半の間に13回にわたって、納経所等から現金計約79万円などを盗み取らせたのです。
第1審判決および原判決は、Xの行為は間接正犯にあたるとして、窃盗の正犯と認定しました。これに対して弁護人は、12歳のYには盗みが許されない悪事だとよくわかっていたはずであるし、Xの命令も未だ、Yの意思を押さえ込んでしまうだけの絶対的強制の程度には至っていないから、被告人が窃盗の教唆犯となるのはわかるが、窃盗の正犯にはならないと主張し、上告しました。
最高裁は、上告を棄却。
Yは、Xに上記のような暴行を日常的に加えられていたために、Xの日頃の言動に恐れおののき、意思を抑圧されている状態であったと判断しました。
その上で、そのような状態のYを一方的に支配・利用して窃盗を行ったと認められる以上、たとえYに是非善悪の判断能力があったとしても、YはXの意のままに行動したにすぎないと考えたのです。
したがって、やはりXは本件各窃盗を自らの意思で行ったと認定し、間接正犯を成立させました。
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