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土井香苗の無知と偏見 - 人権最悪で非民主国の親日
NHKで放送された『2013 世界とどう向き合うか』の第二の問題点。
番組
では、独仏が歴史認識を共有する努力を積み重ねた過程が紹介され、日中間の交流でそれが可能かという議論がされた。独仏の高校生が両国の首脳に直訴し、共通の歴史教科書を作るよう提案した話は聞き覚えがあるが、その映像をテレビで見たのは初めてだ。そして、討論の結果、中国は民主主義の「価値観」を持った国ではないので、独仏の関係をそのまま日中に投影して友好関係を構築するのは無理だという結論に至った。日中関係を独仏関係と同じにするためには、先に中国を民主化しなくてはならず、中国が民主化されない以上、二国間で独仏的な対話や成果を期待するのは困難だとする共通認識で纏められた。この議論を終始リードしたのは、ヒューマン・ライツ・ウォッチの土井香苗だったが、NHK(柳澤秀夫)のシナリオとメッセージがここにあったことは明瞭で、孫崎亨を含めて誰も異論を唱える場面がなかった。しかしながら、実際のところは、日中間で歴史認識の溝を埋めようという努力は、民間レベルだけではなく政府レベルでも具体的に取り組まれている。国民の税金を使って、有識者による
委員会
が設置され、何年にもわたって議論が進められている。その目標とし手本とするところは、当然ながら独仏間での営為と達成に他ならない。土井香苗とNHKは、現実に国家間で行われている努力を一瞬で否定した。
土井香苗とNHKに対する反論として、まず最初に言わなくてはいけないことは、本当に二国間の歴史認識の対話と協調を阻んでいるのが、民主主義という「価値観」の有る無しの問題かということだ。前回の記事での結論に引き続いて、ここにも死角がある。NHKによる巧妙な隠蔽と操作がある。世論を誘導する情報工作がある。土井香苗という、美貌で若くてニュートラルなイメージを使って説得力を醸成したところの、NHKの狡猾な洗脳プロパガンダの手法がある。土井香苗の主張は、一つの簡単な事実を反証として返すだけで、瞬時に、決定的に崩れてしまうものだ。それは韓国である。誰もが知るとおり、歴史認識の問題で最も厄介で難渋を極めるのが、韓国と日本の間での近現代史をめぐる齟齬と角逐である。日本は韓国との間で歴史認識の溝を埋められず、逆に対立は深まるばかりで、歴史認識をめぐる政治的緊張は、中国との関係と同じかそれ以上に高まっている。言うまでもなく、韓国は民主主義の国家である。土井香苗や安倍晋三が声高に喧伝するところの「民主主義の価値観」を日本と共有する国だ。韓国には「民主化」の必要はない。必要条件が満たされているはずの韓国との関係で、なぜ日本は歴史認識の溝を埋めることができないのか。対話は成功しないのか。日韓関係は独仏関係と同じ友好関係を実現できないのか。この一言を土井香苗に投擲すれば、土井香苗は論破されて沈黙せざるを得ない。
中国に民主主義という「価値観」がないから、日本との間で歴史認識の対話は成立しないという主張は、実は全くスリカエの論法でしかない。この論理では日韓関係での歴史認識の対立を説明できない。NHKの番組では、この論点の脈絡で日韓関係は一言も触れられず、日中と日韓の二つで歴史認識の衝突がある問題が誰からも提起されなかった。討論を見ながら、不審に思った視聴者は多かっただろう。NHKが土井香苗を登壇させ、中国の「民主化」水準の未熟にフォーカスしたのは、日本の右傾化の事実から国民の目を逸らすためである。日中で歴史認識の共有が進まず、両国関係が独仏的な蜜月にならないのは、中国に全面的に責任があると視聴者に印象づけるためだ。ここ数年、NHKは中国の共産党独裁に対する批判キャンペーンに血道を上げ、それへの敵意と憎悪を日本国民に植え付ける作業に余念がない。共産党政権の存在が絶対悪で、そこが全ての障害や不全や厄難の発生源であり、その病根を手術で除去しないかぎり何も問題解決しないという刷り込みだ。簡単で分かりやすくはある。分かりやすい説明の正体こそが、危険な単純化であり、イデオロギーの言説の中身である。本当は、日中・日韓の関係が急速に悪化しているのは、東アジアの中で日本一国が極端に右傾化を強めているからであり、日本の独善的ナショナリズムが過激になっているから、過去に侵略戦争と植民地支配に遭った隣国の反発が高まっているだけだ。
土井香苗を番組に持ち込んだところに、NHKの周到な細工が透けて見える。土井香苗の関心事は人権問題で、もっぱらその判断基準で各国を評価づけする。土井香苗の持論と視角からすれば、中国の共産党政権などは論外で最悪の存在で、そのような国と日本が善隣関係を組むのは不可能で、その必要も意味もないと言いたいところだろう。その土井香苗の未熟な外交観からの主張に対しても、実はきわめて有効で決定的な反論材料がある。私が記事で何度も言い挙げていることだが、それは日本とサウジアラビアとの友好関係だ。土井香苗的な人権至上主義のクライテリアを適用すれば、サウジアラビア王国は中華人民共和国と同じ最悪の国家だろう。イスラムの戒律が支配するサウジでは、女性は服装も厳しく制限され、車の運転もできず、自由に一人で街歩きすることもままならない。企業で働くこともできず、許される職場は病院と学校のみ。強姦された被害者の女性が、親族以外の男性と車に同乗したことを姦通罪に当たるとされ、何と鞭打ち200回の刑の有罪判決を受けている。サウジに民主主義はなく、今日の世界で希少となった絶対王政の世襲支配が続いている。土井香苗に訊きたい。中国とサウジアラビアとどちらが「民主化」基準で上位の国なのか。そのサウジと日本は長年の友好国である。サウジアラビアは中東屈指の親日国だ。両国の絆は深く固い。すなわち、サウジアラビアという一例を挙証するだけで、土井香苗の人権を論拠とした中国批判は崩れてしまう。日中関係の不全を中国の責任だと決めつける主張(偏見)は一蹴される。
その場に外交のプロである孫崎享がいたのだから、サウジアラビアとの蜜月関係を例示して、土井香苗を毅然と論駁すべきだった。これまたブログで何度も言ってきたことだが、元来、戦後日本はそうした異質で異端な国との外交が得意だったのである。欧米諸国から不当視され、政治社会の制度や慣習が先進国とは異なるところの、いわゆる全体主義国家や前近代型国家と仲良く付き合うことが、寛容を身上とする戦後日本の妙技だった。戦後日本は相手に対して腰を低くして接するのが上手で、決してこちらの「価値観」を一方的に押しつけることをしなかった。土井香苗的なクライテリアとは無縁だった。相手国の立場や伝統や思想を尊重し、イーブンでフラットでオープンな関係を組むことに腐心した。相互の経済的利益を優先し、平和的な信頼関係を築いて固めて行った。そうした日本の戦後外交を、まさに現場で仕事して見ていたのが、69歳の孫崎享その人ではないか。戦後の日本外交がどのように成功し、敗戦国から出発して世界諸国から信頼を得たのかは、私などより孫崎享の方がはるかによく承知しているはずだ。視野狭窄で反共バイアスの土井香苗に、一国の外交とは何かを教諭してやるべきだった。価値自由(Wertfreiheit)な日本の戦後外交こそ、相手を思いやる心とか、相手の立場を理解し内在する姿勢とか、そうした日本人の持ち味が国家政策に反映された姿である。そのような日本外交は、あの小泉訪朝時の日朝平壌宣言までは連綿と続けられ、確実な成果を上げて国益を実現してきたのだ。
同様のことは、日本とタリバン政権のアフガニスタンとの外交関係にも言える。これなども、土井香苗的な観点からは不都合な事実だろう。私見を踏み込めば、中国の民主化について、そのインプルーブの鍵を握っていたのは日本だった。日本との善良な関係の継続が、彼らのオプティミスティックな将来設計の前提だった。日中友好が緊密に続き、その枠組で中国が経済発展すれば、胡錦濤体制の後半で、何らかの新しい試みが模索されたかもしれない。1990年代までの中国が、ずっと日本をモデルとした国づくりを進めていたのは事実で、当時、朱健栄は、中国共産党は日本の自民党を目指すというユニークなプランを語っていた。すなわち、内部に多様な派閥を包摂し、万年与党の地位は譲らず、外側に監視用途の万年野党を配すという政治体制。それを、先行して北京と上海で導入し、実験しつつ徐々に省レベルへ広げ、現在の(省・市県における)党書記と党委員会の権限を直接選挙の首長や議会に移管する。そのようなデザインが社会科学院の一部で検討されていたのだろう。しかし、小泉靖国参拝によって日中友好が終焉を遂げた後、中国の政治権力のあり方はデモクラシーとは逆の方向となり、規準と針路を見失った感がある。何と言っても、改革開放からの中国を要所で主導したリーダーは、日本語のできるテクノクラートたちであり、社会建設のあらゆる面にわたって、欧米と中国の中間にあると思われた日本が手本だったのだ。現在、中国の民主化も停滞して政治は混迷の様相を呈しているが、皮肉なことに、手本だった日本の民主主義が不全になり、次第に中国的な全体主義へと接近(逆行)している。
中国の人々には、その真相がよく見えていることだろう。
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thessalonike5
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2013-01-04 23:30
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hoshiryo
at 2013-01-04 19:50
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番組は観てないですが、そもそも「歴史認識の共有」って言ったって、日本側のお偉いさんたちが南京事件否定みたいな大ボケかまさないくらいになればそれで十分なわけで、民主主義がどうこうとかそういう話は別だと思いますね。
歴史の細かいの話についてはそれこそ専門家たちが地道に議論したり協力したりすればいいし、この細かい部分で民主主義とか自由主義の問題が出てくるかもしれませんが、このへんは「日本側のお偉いさんが大ボケかます」とかとは全然別次元かと。
Commented by
カプリコン
at 2013-01-04 21:15
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今年もよろしくお願いします。
昨日と今日の記事も興味深く読まさせていただきました。
帰省中で「2013 世界とどう向き合うか」見逃したのですが、明日の午前中に再放送しますね。見てみようと思います。
NW9の冒頭で、寒波襲来の寒々とした映像が流れてすぐ「しかし」と株価上昇の華やかな映像に切り替わりました。
どこの,誰が景気がよくなって恩恵を受けているのでしょうね。
くだらないです。速攻でチャンネル変えて「ハウルの動く城」を見ながらコメントしています。
「風の谷のナウシカ」の放送してくれないかな・・・。
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