DRUG STAR.1
コツコツコツコツ---------------
暗い暗い洞窟の中。
月の明かりも星の光も闇にのみ込まれ、目の前の闇の中に手を伸ばしても先を見ることはできない。
湿気と草の匂いが交じり合った生暖かい風がどこからともなく流れてくる。
そんな中を1人、俺は歩いていた。
ぼうっと先に淡い光が見えた。
俺は足を止め、「ニッ」と口元を上げる。
風にあいつの匂いも混ざっていた。
「よぅ。」
「・・・・・・・・・・やっぱりお前か。何だよ。」
「何だよとはゴアイサツだな。せっかく来てやったのに。」
「せっかくって・・・・・・・・お前が言ってもありがたみも何もねぇよ。」
「まぁ、飛ぶだけだからな♪」
ここは海の果てに浮かぶ無人島。
地図にも載っていないらしいが、この高度技術が進んだ世の中でそんなことありえるのか?と思ったが、
それはどうやら本当らしい。
誰にも見つからない島。
それを作り出したのがコイツだ。
白衣に身を包み、カチャリとはずしためがねからは大きなアーモンドアイが現れる。
ナカイマサヒロ。それがこいつの名だ。
「ご要望のものならまだだぞ。こないだやったばっかだろ。」
「あぁ。大量にもらったら当分ダイジョーブ。つーかお前、もうちっと明るくしたら?ココ。」
「必要最小限で十分。それにお前なら見えてんだろ。必要ねぇ。」
「・・・・・・・・・そりゃ見えてっけど、明るい方がちゃんと顔見えるし、、、、」
「あ?」
「イエ、何でも・・・。」
確かに暗い中でも顔ははっきり見える。
フツーの人間なら、ナカイがドコにいるかも、この部屋(洞窟?)の中に何があるのかもわからねぇだろうな。
フツーなら。
「お前、吸血鬼ならもうちょっとそれらしい格好したら?」
「これ結構良くない?かっこいい〜とか言われちゃったんだけど。何?マントとかバタバタさせてた方が良かった?」
「・・・・・・・・・即捕まるな。お前。」
「ひでぇ;;」
そう。俺は吸血鬼。名前はキムラタクヤとこいつに付けられた。
もう何百年もこの姿でこの世界に留まっている。
仲間たちも大分減ってしまった。
銀の杭を打たれ、太陽にさらされ。
それでも少数の仲間たちは世界各地に散らばっている。
吸血鬼は気ままだから。
それなのに俺はもう20年以上、こいつと一緒にいる。
人間であるこいつと。
「で、調子は?」
「いいよ。別に何ともない。目の前を美女が通ってもなぁ〜んも食指が働かない。」
「・・・・・・・ある意味異常な気もするが。ま、いっか。」
吸血鬼の生きる術はただ一つ。人の血を吸うこと。
それがこの不老不死を保つ唯一の方法。
要は食事だ。
こいつに出会う前は世界中を飛び回っていたが、ある時、この島でこいつに出会った。
20年以上も前だから、こいつはまだ10代。
目が合った瞬間、離れられなくなった。
懐かしい気持ちと愛おしい気持ち。
こんなことを感じるのはいつぶりだろう・・・・・・そんなことも思い出せないくらい昔だ。
それから俺は、人の血を吸うのをやめた。
この頃からすでに吸血鬼の研究を始めてきたナカイは、俺を「ちょうどいい実験体を見つけた」とでも思ったんだろう。
すんなり俺を受け入れ、この地に留まることを許した。
そうして今なお、その研究は続いている。
吸血鬼が人の血を吸わなくても生き続けられる研究を。
「そういやシンゴは?」
「あいつ連絡つかねぇんだよ。どっかの無人島にいることはわかって・・・・・・あ、やっと連絡寄こしやがった。」
pipipipi-------------
洞窟内に不意に電子音が響いた。
ナカイは大きなスクリーンの前に立ち、じっと前に見つめている。
ウ゛ウ゛ンッッ------------
『ナカイくんやっほー。』
そしてそこに映し出されたのは・・・・・・・・・・・・・・・・・原始人だった;;
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」
『ちょっと、二人してフリーズしなくたっていいじゃんよ。結構頑張ってるよ。オレ。』
口調は自分たちの知っているヤツだ。
が、姿形は・・・・・・長い髭に毛皮を全身に巻きつけ、とどめには手に石斧を持っている。
後ろには・・・・・ワラか?
ワラで組み立てられた小屋の中に原始人がいた。
「・・・・・・・・何だお前?」
「何したいのお前?」
『はっはー(笑)やっぱり二人の視線がイターイ!!』
こいつはナカイの第一助手カトリシンゴ。
代々助手として仕えているらしいが、こいつは小さい頃から一緒に育っているからか幼馴染のような感覚らしい。
まぁ、オレからしても弟のようなカンジ。
「オレはお前に『土』を探せっていったよな?誰が狩りをして暮らせって言った!!」
「・・・・・・・お前なら本気で暮らせそうで怖えぇよ(笑)」
『もちろんちゃんと仕事はしてるよー。ここの土ならナカイくんのお目に適うと思ったし。』
「じゃあ、さっさと持って帰れよ。」
『でもさぁ、そっから土器を作るんでしょ?ナカイくん芸術センスないし、オレがここでいろいろ作って送った方が早いと思うんだよねー。』
「くっくっくっ(笑)」
「キムラ・・・・(怒)」
確かにこいつの芸術センスは壊滅的だ。
いや、ある意味芸術かもしれない。
けど、長く生きてきてあんな生き物見たことないし、あんな人間見たことないし。
そういうわけならシンゴの言い分もわかる。
「で、何で『土』なわけ?」
「あぁ・・・・・じいさんの古いレポート見つけたんだよ。薬を調合すんのにある土地で取れる土を使った土器がいいっていうから・・・・。」
「だからシンゴをその土探しに出させたんだ?」
「こっから反対側の無人島らしい。その報告まではして来たんだけど、そっから連絡つかねーし。」
『あ〜ごめん。家作ってた。』
「・・・・・・・・・・コイツ・・・・・。」
『厚みとか高さとかはわかってるから、とりあえず何個か作ったらまとめて送るからー。』
「人の話を・・・・・・・・・・・・・。」
pipipipi-------------
そしてまた洞窟内に電子音が響いた。
今度はあっちかとため息をこぼして、隣のスクリーンの前に中居が立つ。
ウ゛ウ゛ンッッ------------
『あ、キムラくんもいたんだー。』
『おっつよぽーん♪』
『シンゴ〜♪久しぶりー♪』
一気に和やかモードが洞窟内に広まった。
さっきまで真っ暗闇の中の陰気臭い洞窟内だったのに、この何でもないような空気を出せるのはこの二人の特殊な力だとオレは思っている。
「ツヨシ。お前の方はどうなんだ?」
『こっちはバッチリー。次はどこなの?早く指示出してよ。』
『ちょっと。ナカイくんこそサボってんじゃないのー?こっちばっかり体力仕事させてさー。』
久しぶりに顔をあわせたのか、久しぶり4人が揃うことにテンションがあがっているのか。
いつもはナカイの顔色を伺いながら話すくせに、目の前にいないのをいいことに攻撃的に話し始めた。
あーぁ。知らねぇぞ。
『ひどーい。』
『鬼畜ー。』
「・・・・・・ぁ?」
(あーぁ。ま、こんな顔も好きなんだけどーvvオレとしては嬉しい(笑))
ナカイににらまれて「目の前にいないし余裕ー」という顔をしていた2人も一瞬にして凍りついた。
電波を通しても、こいつのオーラは伝わるらしい。
にしても、あんなニラんでもオレにしてはかわいいだけだけどねぇ。うんうん。
『で・・・・で!!オレは次どこに行けばいいんでしょうか!?すいません!!』
『オレはこっちで作り続けていいでしょうか!?すいません!!』
そして二人一斉に頭を下げた。
(クスクスクスクス(笑)だーから、ここが好きなんだよ。オレは。)
オレがここに居る理由。
もちろん一番はナカイの側にいたいことだけど、こいつらが作る雰囲気も好きなんだと思う。
今までオレの周りにはなかった空気だから。
幸せな。
でも、馴れ合いじゃなくて一人一人のパワーが集まる場所。
そんな場所にオレもいれることで、『生きてる』って思えているのかもしれない。
不老不死の吸血鬼のハズなのに。
「はぁ。シンゴはまかせる。勝手にやれ。ツヨシは帰って来い。」
『ふぇ?』
「何情けない声出してんだよ(笑)博士サマから帰還命令が出たぞー。」
「次の採取場所は東京だ。」
『・・・・・・いぃやったぁーーーっ!!帰れる帰れる〜vvやっと帰れる〜vv』
『つよぽんって今どこにいんだっけ?って、踊り出したよ。ちょっと聞いてる!?』
「こいつは今ロシアだな。湖の近くに咲く花の採取に行ってた。」
スクリーンに再び目をやれば、小躍りしてるツヨシの後ろには雄大な湖が映っていた。
ツヨシは世界中を旅している。
ナカイが指示する薬草やら野草を探して。
「観光なんてしないし、飛行機なんて寝るだけだから。」と荷物は必要最小限でランナーみたいな格好で飛び回っていた。
『あっ!!そういえばこないだこっちにゴロさんが来たよ。ウキウキしながら来たから何だと思ったらまぁたカラオケの話だった。』
『ほんと好きだよねー。ゴロちゃん。つーか、気軽にいきなり来られるのもメーワク。』
「えーそぅ?僕はみんなに会いたくてわざわざ行ってるのにvv」
『『「「っっ!!」」』』
ギュッ--------------------
不意に中居の後ろに黒い影が現れ、すっぽりと中居を覆ってしまった。
後ろから急に抱きすくめられた中居は、得意のグーパンチも出すタイミングを失ってしまったらしい。
「離れろ。」
「おっキムラくんも久しぶり〜vvねぇねぇ聞いてよ♪90点は平均で出せるようになったんだよ〜♪」
襟首を捕まえられ、引きずられるように中居から離されたというのに喜々として話始めたこいつはやっぱり変わってると思う。
そりゃそうか。
だってこいつも吸血鬼なんだから。人とは違うハズだ。
「お前気配消して近づくのやめろよ。」
「みんな話に夢中なんだもん。気づいてくんないからさぁ〜。」
こいつの名前はゴロー。昔から呼ばれている名だと自分から名乗った。
世界中を飛び回っているといろんな仲間に出会う。
敵対するものもあれば、片田舎でひっそりと暮らしているものもいる。
こいつは最近までヨーロッパで眠っていたらしい。
それがどういうわけが急に目覚め、気がつけばこの島にたどり着いていたという話だ。
「食事は済んでるようだな。」
「あ、うん。ツヨシのとこ行ったついでにウチ寄ってきたから。」
人間の血を飲むのをやめてしまったオレだが、こいつはオレよりも吸血鬼意識が高い。
本場育ちだから〜なんて本人曰く血を選ぶ好みもあるらしいのだが、、、、まぁ、それはわからないでもないけどさ。
「うちの一族が残してくれたものがまだ大分あるからね。ワインのように芳醇で心地いい食事のひと時だったよ♪」
最近では人を襲うというリスクをおかすよりも、自分の一族が残しているという「血のワインセラー」のような場所で食事を済ませいるようだ。
本人もそのスタイルが気に入っているようだし、人を襲うわけでもないからナカイも何も言わないんだろう。
『ほんと、うちの吸血鬼は平和的だよね〜。』
『吸血鬼を従えてるナカイくんが一番怖い気がするよ〜(笑)』
「ツヨシ。東京は坂が多いから気合い入れて頑張れよ。」
『えっ!?そ、それってどーゆぅ・・・・まさかっっ!!』
「がんばれー。」
「がんばれー。」
『がんばれー。』
『みんなめちゃくちゃ他人事!!!うわーん(泣)』
こんな生活がずっと続くんだと思ってた。
人間に永遠なんてないから、ずっとということ自体オレにとってはあっという間のことだってわかってる。
それでも、この幸せというものが続けばいいと。こいつらが消えるまでオレはこの幸せにひたっていたいと。
そんな小さな祈りがあんなことになるなんて・・・・・。
じわりじわりと過去がオレに迫っていた。
何百年という時を超えて。
10.10.29
まずはプロローグ。設定説明です(笑)