あなたのおうちはどこですか?
作 井出英次
登場人物
タクヤ
夢 子
コンピューターの「チャーリー」
石油ストーブの「アイちゃん」
炊飯電子ジャーの「カマ太郎」
扇風機の「そよかぜ」
ラジカセの「ドルビー」
業者の男
借金取りの男
軽快な音楽とともに幕が上がる
リサイクルショップ「夢屋」の倉庫
古い電化製品や家具が雑然と置かれている
台車の荷物を押してくる男
男 じゃあ、これで最後ですから
夢子 御苦労様。えーっと、その辺に置いといてもらえるかしら
男 全部でこんなふうになりますが
夢子 はい、はい
男 領収書いります?
夢子 そうね、お願いするわ
男 あて名はどうします?
夢子 「リサイクルショップ夢屋」
男 リサイクルショップ夢屋様・・・と、はい。どうも毎度様でした!
夢子 またよろしくね・・・さてと、どれから直そうかねえ
トースターを抱え去る夢子
置かれたロッカーの中から少年(タクヤ)が這い出てくる
あたりを見回し、大きく深呼吸
大の字に寝転ぶタクヤ
陰から現れる「アイちゃん」
アイちゃん ねえねえみんな!新入りが来たみたいよ
次々に現れる「もの」たち
ドルビー し、し、
そよかぜ 新入り?
カマ太郎 いやん嬉しい!
チャーリー どんなひとかな?
少年の回りを取り囲み
そよかぜ 見たことねえタイプだな
カマ太郎 何なんだろうねえ、いったい
ドルビー ど、ど、
そよかぜ どこか壊れてる・・・ようにも見えねえしな
アイちゃん 電気コードがないわね
カマ太郎 きっとバッテリーで動くのよ
チャーリー すいっちわ、どこにあるのかな?
ガバッっと飛び起きるタクヤ
一瞬の静寂
タクヤ 何なんですか!?いったい。さっきからごちゃごちゃとうるさいなあ
そよかぜ 何だ偉そうに
カマ太郎 新入りのくせに生意気よねえ
タクヤ 新入り?僕が?・・・あなた達は何者なんですか?
アイちゃん 他人のことを聞く前に、自己紹介が先なんじゃないかしら
カマ太郎 そうよ、ねえ
タクヤ 僕の名前はキムラタクヤ
カマ太郎 何かどっかで聞いたことある名前だわねえ
アイちゃん ・・・さあ
タクヤ 本日、家出を決行するために、粗大ゴミのロッカーに入り、ゴミ置き場に隠れていた。そしてトラックに乗せられてここに運ばれてきた。以上
ドルビー い、い、
アイちゃん 家出?
そよかぜ 自分の意志で家を出た?
ドルビー こ、こ、
カマ太郎 壊れたわけでもないのに?
チャーリー しんせいひんが、でたわけでもないのに?
一同 いったいどうして?
タクヤ いったいさっきから何を言ってるんです?「スイッチがどこにある」とか「新製品がどうのこうの」とか
そよかぜ お前ひょっとして・・・
カマ太郎 もしかして・・・
アイちゃん 要するに・・・
ドルビー に、に、
チャーリー にんげん・・・なんですか?
タクヤ は?・・・当たり前の事聞かないでくださいよ
ただならぬ雰囲気の「もの」達
そよかぜ お前、俺たちの姿が見えるのか?
タクヤ は?何言ってるんですか?
カマ太郎 あらま、びっくり
アイちゃん へえー私達のことを見ることができるニンゲンもいるのねえー
タクヤ あ、あなた達、ひょっとして・・・ホームレスの方ですか?(襟を正し)あの、今日から仲間に加えていただけませんか?お願いします!
肩を寄せ合い、ひそひそ話をしている「もの」達
タクヤ あのー・・・
アイちゃん チャーリー、この子に説明してやってよ
チャーリー ここわ、「ゆめや」といって、すてられているものを、しゅうりして、りさいくるをしてうるおみせです。ここにはまいにち、たくさんのものがやってきます。ここは、しゅうりされるまえのほかんじょで、ぼくたちはここでしゅうりされるじゅんばんをまっていて・・・
そよかぜ あー、つまりよ、志し半ばで捨てられてしまった我々電化製品たちが、次ぎなる働き場にたどりつくまでの仮住まいの場所。それがこのリサイクルショップ「夢屋」っちゅうことよ
タクヤ 我々電化製品・・・?
アイちゃん そう、ここで修理されるのを待ってるのよ
タクヤ つまり皆さんは、ひょっとして、もしかして、要するに・・・
そよかぜ ひょっとしなくても
カマ太郎 もしかしなくても
アイちゃん 要さなくても
ドルビー で、で、
チャーリー でんかせいひんです
タクヤ じゃ、じゃあ、あなた達は、ゴ、ゴミなんですか?
アイちゃん ゴミっていう言い方は無いわよね
カマ太郎 私、炊飯電子ジャーの「カマ太郎」と申します。以後お見知りおきを
アイちゃん オカマなのよ
カマ太郎 ヒドイ!
他のもの達によるハミングの中
カマ太郎 聞いてくださいまし、私の話を・・・私が買われていったのは、とある御家庭でございました。お美しい奥様と、お優しい旦那様。そして、電球の玉のような可愛いお坊ちゃま。つつましくも、それはもう、とてつもなく、まったくもって幸せな御家庭でございました。駆け落ち同然で結ばれた旦那様と奥様は、小さなアパートにかまどを構え、ひとつひとつ暮らしに必要なものをおそろえになっていったのでございます。その記念すべき第一号に選ばれたのが、私、炊飯電子ジャー「カマ太郎」なのでございます。コシヒカリにササニシキ、あきたこまちにきらら・・・五目ご飯にお赤飯・・・私も大張りきりで仕事に励んでおりました・・・しかし、その幸せも長くは続きませんでした。あのお優しかった旦那様が交通事故にあわれ、生きるか死ぬかの瀬戸際をさまようこと数ヶ月・・・
タクヤ ・・・それで?
カマ太郎 結局、旦那様は帰らぬ人となったのでございます。そして、そして・・・奥様も、旦那様を失った悲しみに耐えられず・・・旦那様の後を追って・・・自害なされたのでございます・・・せめて、せめて一度だけでも、マツタケご飯を炊きたかった・・・(泣き崩れる)
アイちゃん 話が大げさなのよねえ、このオカマ
カマ太郎 しゃもじチョップ!
そよかぜ 俺は扇風機の「そよかぜ」ってもんだ。俺のいた家の旦那は小さな工場で働いたんだけどよ
他のもの達によるハミングの中
そよかぜ 何年か前までは、景気も良くてよ、工場も大急がしだったんだ・・・旦那も休みなく働いていた。でも、そのうち、工場への注文も減ってきて、次々に工場の人がクビになっていった
アイちゃん バブル崩壊後の「リストラ」ってやつよ
そよかぜ バブルだかバルブだか知らねえが、とうとう俺の旦那もクビになっちまってよ・・・不景気で次の仕事もなかなか見つかんねえし、がん首並べてクビをひねって考えたって、天から金が降ってくる訳でもねえ・・・仲の良かった旦那と奥さんも、しょっちゅう喧嘩するようになったんだ。俺は二人の間に入ってよ(首を大きく振りながら)「あのー、奥さんも旦那さんもちょっとは冷静になったらどんなもんでしょう。頭を冷やして考えれば、きっと道は見つかるはずだと思うんでございますが」・・・とその時、奥さんが投げつけたやかんが俺の頭にカーン・・・それ以来、俺の首は回らなくなっちまった。旦那も借金に借金を重ねて首が回らなくなっちまって、とうとう夜逃げよ
タクヤ それであなたは捨てられた・・・
そよかぜ 首の回らねえ扇風機なんて、持ってく気にならなかったんだろうよ
タクヤ ・・・
アイちゃん 夫婦喧嘩に首をつっこむからそんな目にあうのよ。ほらドルビー、あんたの番よ
他のもの達によるラップの中
ドルビー ぼ、ぼ、僕は、ら、ら、ラジカセの、ド、ド、ドルビーといいます
アイちゃん モーターの調子がちょっとおかしいのよね
そよかぜ それによ、今の御時勢、カセットテープなんて流行らないんだと、何てったけな?
ドルビー し、し、
アイちゃん CDとか
ドルビー え、え、
アイちゃん MDとかに仕事を取られちゃってさ
そよかぜ 結局、俺たちと同じようにポイっと捨てられた、とまあそういう訳よ
ドルビー ど、ど、どうぞ、 し く
アイちゃん そして私がこの「リサイクルショップ夢屋」のアイドル、石油ストーブの「キララ・アイ」です
そよかぜ よっ!アイちゃん!
アイちゃん 私は北国産れの北国育ち
カマ太郎 アイドルっていうよりも、どちらかっていうと演歌系よね
他のもの達によるハミングの中
アイちゃん 私の仕事は、その家庭をポカポカと温めることでした。人一倍寒がりで、お仕事のお忙しい御主人が寒い思いをすることのないように、朝は「お目覚めタイマー」夜は「おやすみタイマー」と、私も精一杯気を使っていたわ。ご主人のお仕事ぶりが認められて部長に昇進したときには、そのお祝いに、とろ火でコトコト三昼夜、ビーフシチューを煮込んだこともあったの・・・ところが
「そよかぜ」が主人役となり
そよかぜ 母さんただ今。今日は雪でも降るんじゃないかな、うー寒、寒・・・(ストーブにあたりながら)あー母さん。例の転勤の話、決まったよ
アイちゃん ・・・転勤?どこへ?
そよかぜ 常夏のオキナワ
アイちゃん げっ
うちひしがれるアイちゃん
盛り上がるハミングコーラス
アイちゃん 私がじゃまになったのね!捨てるの?私を捨てるの!?・・・いいわ。いいわよ!好きにしなさいよ!・・・え?クーラーを買うですって?「白クマ君」?冗談じゃないわよ!何がクーラーよ!クーラーで一家団欒ができるかってんだ!ひとつのストーブを囲んでの弾む会話!それが家族の絆を深めるんだろうが!冬にストーブ炊かなくてどうするっていうんだよ!オキナワ行こうがアフリカに行こうが、ガンガンストーブ炊いてみろってんだ、この根性なしが!うっー(と、倒れる)
カマ太郎 アイちゃん、アイちゃん!(おでこに手を当て)あつっ!熱があるわ、アイちゃん、しかっりして!
そよかぜ ちょっと熱くなりすぎなんだよ
胸のつまみを下げられるアイちゃん
アイちゃん あら、ごめんなさい。捨てられてから、温度調節の方がうまくいかなくなっちゃったのよ
タクヤ ・・・あのひとは?
カマ太郎 ほらチャーリー。自己紹介なさいよ
チャーリー こんにちわ。ぼくわ、こんぴゅうたあのちゃーりーごーどんといいます。ごねんまえまで、だいがくのけんきゅうしつで、すとらうすはかせや、にーまーきょうじゅといっしょにはたらいていたんです
アイちゃん 悪いひとじゃないんだけど、ちょっとこっちの方が足りないみたいなのよ
カマ太郎 かわいそうなチャーリー
そよかぜ こいつらの世界は入れ代わりが激しいからな。何せ毎月のように新製品が出てきてよ、ちょっと型の古い奴はすぐお払い箱だ。こいつも新しく出てきた頭のいい奴に仕事をとられちまって
アイちゃん 気がついたらここに来ていたっていうわけよ
カマ太郎 栄枯盛衰は世のならいとはいえ、むごいわよね
アイちゃん チャーリー、きっと夢子さんが直してくれるからさ、元気出しなさいよ
便器を出すチャーリー
アイちゃん チャーリー「元気」出してって言ったのよ。あんた便器出してどうすんのよ
そよかぜ ほら、今度はお前の番だぜ
タクヤ え?
カマ太郎 聞かせてちょうだいな、あなたの話
アイちゃん そうよ、さっきの話しじゃ、自分から家を出たっていうじゃない
そよかぜ 何でまたそんなことになっちまったんだ?
タクヤ ・・・僕も・・・僕も、捨てられていたんです
ドルビー す、す、
アイちゃん 捨てられて?
そよかぜ だけどお前、さっき「家を出てきた」って・・・
タクヤ 赤ん坊の時に僕は捨てられてたんだ。警察の方でも僕を捨てた親を捜してくれたみたいだけど、手掛かりは僕の服に刺繍してあった「タクヤ」っていう名前だけ。本当の父さんや母さんは結局見つからなかった。僕は施設に入れられて、そのあと、今のおじさんの家に引き取られたんだ
しんみりとした間・・・が
アイちゃん うらやましいわ!
タクヤ え?
アイちゃん リサイクルされたんでしょ?いいわねえ。私も早く修理されて働きたいわ
カマ太郎 でもさ、せっかくリサイクルされたのに、何でまたその家を出ちまったんだろうねえ
そよかぜ きっと、折檻でもされたんじゃねえか?
アイちゃん 吹き荒れる家庭内暴力の嵐!嫌あねえ
タクヤ おじさんもおばさんも良くしてくれるよ!
アイちゃん じゃあ何でかしら?
そよかぜ 商売がうまくいかなくなってよ、借金こさえて夜逃げしたとか
カマ太郎 そりゃあんたの場合でしょうが
アイちゃん ねえねえあんたんとこの御主人は何の仕事をしているの?
タクヤ ・・・電気店
そよかぜ で!?
カマ太郎 ん!?
アイちゃん き!?
ドルビー て!?
チャーリー んー?
そよかぜ お前が家出した理由がそれでよーくわかったぜ
タクヤ え?
カマ太郎 かわいそうよねえ、よりによって電気屋なんて・・・そんな悲惨な家庭で育ったら、誰だって家出するわよ
タクヤ ・・・どういう意味です?
アイちゃん あいつらなんて、ろくなもんじゃないわよ。私達の調子がちょっとでもおかしくなって呼ばれても、ろくに見ようともしないでさ
そよかぜ 「あー旦那さん、こりゃそうとういかれてるねえ。修理するより、新しいの買った方が早いわ」だもんな
カマ太郎 そりゃ、新しいの買ってもらった方が儲かるかもしれないわよ
アイちゃん だけどさ、私達にとってみりゃ生きるか死ぬかの瀬戸際なのよ。使えるだけ使ってもらって、それで壊れたんなら、まだ諦めはつくわよ。だけどね、まだまだ充分働ける私達をお払い箱にするなんざ、百万年早いってんだよ!だいたいあいつら、修理しようにも、頭も腕も持ち合わせて無いんだよ!電気屋なんて皆、馬に蹴られて吹っ飛んで、豆腐の角に頭ぶつけて、へそ噛んで死んじまえってんだ!
カマ太郎 アイちゃん。アイちゃん、落ち着いて
タクヤ おじさんはそんな人じゃない!
静寂
タクヤ おじさんは、そんな人じゃない・・・夜遅くに修理の依頼がきても、「お客さんが困っているだろうから」って言って出かけてくんだ。「どんな物でも、使えるうちは使ってやることが大事なんだ」っていつも言ってる。そりゃあ儲けは少ないよ。おばさんも、毎日のように「もう少しお金があったらねえ」ってこぼしている。だけど、そう言っててもおばさんは楽しそうに笑ってる・・・おじさんもおばさんも本当にいい人なんだ・・・
アイちゃん へえー、今時そんな電気屋もあるのねえ
そよかぜ 古き良き町の電気店・・・俺もそんな店で扱ってもらいたかったぜ
アイちゃん だったらなおのことさ、あんたどうして家出なんてしてきたのよ
タクヤ 僕の頭の中で「この家は本当のお前の家じゃない」って、そんな声がするんだ。おじさんやおばさんが優しくしてくれればくれるほど、その声が強くなっていくんだ。おじさんやおばさんのことを何度も「お父さん」「お母さん」って呼ぼうとした・・・だけどどうしても言えないんだ。僕が「おじさん」「おばさん」って呼んでても、二人とも変わらずに優しくしてくれるよ。だけどやっぱり、ちょっと寂しそうな目をするんだ・・・僕の本当のお父さんやお母さんは、どうして僕の事を捨てたんだろう・・・それが、それがどうしても知りたいんだ。どこかで生きているんなら、どうしても会ってみたいんだ。だから・・・だから
そよかぜ 家を出た・・・ちゅう訳か
タクヤ ・・・
そよかぜ けっ、贅沢なやつだよ。・・・お前、今の家で大事にされているんだろうが。必要とされてるんだろうが。お前のことを気遣ってくれてるんだろうが。だったら昔の事なんてどうでもいいじゃねえか
アイちゃん あんたみたいに単純なやつとは違うのよ
そよかぜ どうせ俺は単純だよ
カマ太郎 それでさ、いったいどうやって見つけるつもりなのよ。本当の両親ってやつをさ
タクヤ え?いや、それは・・・これから
アイちゃん あきれた、あんた何の当ても無いのに家出なんてしてきたの
カマ太郎 狭いようで広い世の中
アイちゃん 捜そうと思ったって、見つかるもんじゃないわよねえ
そよかぜ やっぱりお前、どっかいかれてんだよ。頭ん中のネジが一本抜けちまって、心のどっかがぶっ壊れちまってんだよ。人間なのに俺達の姿が見えている・・・それがその証拠だよ
タクヤ ・・・
カマ太郎 そんな言い方しなくたっていいじゃない、ねえ
アイちゃん ほんとデリカシーってもんがないんだから
そよかぜ おうおう、どうせ俺は古いふるーい扇風機だからよ。そんな横文字のハイカラな機能はついてねえんだよ
アイちゃん これだから昭和生まれの製品は嫌なのよね
そよかぜ その電気屋はよ、実の子でもねえお前のことを引き取って、面倒みてくれてるんだろ?言うなりゃ俺らん所の夢子さんみたいなもんだろうが。何かお前の話聞いてるとよ、夢子さんが馬鹿にされてるようで・・・俺はやっぱり許せねえんだよ
夢子が家電製品を修理している姿の中
タクヤ ・・・夢子さん?
アイちゃん ここのお店のオーナーよ
カマ太郎 旦那が入院して以来、女の細腕でこの店を守っているの
タクヤ 旦那さんが、入院?
そよかぜ あー何つったけな?
ドルビー び、びっくり
アイちゃん がっくり
そよかぜ じっくり
チャーリー ゆっくり
カマ太郎 ぎっくりよ、ぎっくり
そよかぜ そうそう。タンス担いだ途端に、そのぎっくりになっちまってよ、今修理してんだよ、その病院って所でよ
カマ太郎 旦那さんが入院してからもう二週間、夢子さんもけっこうまいってるみたい
アイちゃん それにあの電話
そよかぜ おう、ここんとこしょっちゅう掛かってくるんだよな
カマ太郎 電話のあった後、何だか夢子さん、特に元気が無くなるのよね
男が現れ携帯電話を掛ける
店の電話が鳴る
アイちゃん ほら、噂をすれば、またあの電話
電話に出る夢子
夢子 はいもしもし「夢屋」です。(男の声は聞こえない)・・・はい、・・・はい
カマ太郎 相手の声、何とか聞けないかしらねえ
アイちゃん ドルビー、音に関しちゃあんたが専門なんだから、何とかならないの?
ドルビー や、や、やってみます
傘を広げ集音マイクを作るドルビー
男 ・・・だから何度も言ってるけどさ、困るんだよね夢屋さん。うちも慈善事業でやってるわけじゃないからさ、貸した金は利子つけて返してもらわなきゃ、旦那さんが入院して大変だっていうのはわかるけどね、借りた金は返す、それが道理ってもんでしょ。リサイクルだかリバイバルだか知らないけどさ、そんなちまちましたことやってて借金返せんのかい?「地球にやさしく」はいいけどさ借金取りにも優しくしてもらわなきゃ。いっそのことさそこの土地売っぱらって一気にきれいにな体になった方が、奥さんも楽になるんじゃないかねえ
夢子 誰が何と言おうが、ここの土地は売りません。お金はきちんと返します
男 奥さん、いや夢子さんって言ったっけ、その返事は何度も聞いたよ。返事はいいからさ、金返してくんねえかな。じゃないとさ、こっちも別な方法考えなきゃいけないからさ
夢子 別な方法?
男 私もね、うちの会社「ニコニコローン アクム」の中じゃあ「無情君」って言われている男だからさ・・・奥さん、いや夢子さん。せいぜい体の方を大事にしてくださいよ。最近物騒なこと多いから
夢子 ちょっとそれどういう意味で・・・
男 ラララ無情君ラララ無情君ララララ、アクム
電話を切り、去る男
ため息をつく夢子
そよかぜ 借金・・・か
アイちゃん てことはこのお店も危ないってこと?
カマ太郎 夢子さんが元気がない理由はそれだったのね
物音を立ててしまうチャーリー
夢子 誰?誰かいるの?・・・いくら脅かされたって、この店は渡さないからね!こそこそやってないで出てきなさいよ!私は逃げも隠れもしないから!
固まる「もの」達
しかたがなく姿を現わすタクヤ
タクヤ あ、あのこんにちは
ほっとする夢子
夢子 もう、脅かさないでよ・・・何か用?あんまりみかけない顔だけど
タクヤ え、いや、あの・・・何かいい物ないかなと思って・・・
夢子 あら、お客さん?だったら店の方に来てくれたらよかったのに。ここはまだ修理する前の物が置いてあるだけだからねえ。それで?何か気に入ったものあったかい?
タクヤ あ、いや・・・この電子ジャーなんていいかなあなんて・・・一度に一週間ぶんぐらい炊けそうだし・・・
夢子 このおカマねえ、すぐ直してあげたい所だけど、ちょっと手が回らないのよ。旦那がいたらすぐやってあげられるんだけど・・・急ぐのかい?
タクヤ いえ別に・・・
夢子 そう、じゃあ近いうちに何とか修理しておくから、また来てちょうだい。あらいけない。ちょっと今店閉めて出かけなきゃいけないのよ
タクヤ 病院に行くんですか?
夢子 そう、付添の人もそうそう雇ってられないからねえ・・・私、旦那が入院してるって言ったっけ?
タクヤ あ、・・・はい。さっき
夢子 そう、私もとうとうぼけてきたのかしらねえ・・・
タクヤ あの、もしよかったら、僕が店番してましょうか?
夢子 あんたが?
タクヤ 僕、好きなんですこういう所。それに簡単な修理だったらできますし・・何しろ僕の家、電気屋ですから
夢子 そりゃ助かるけど・・・でもねえ。・・・あんた、ちょっと目を見せてごらん
タクヤ 目、ですか?
夢子 目を見ればその人のことがわかるものなのよ
気が気でないタクヤ
夢子 あんた、今日学校は?
タクヤ あ、いや・・・開校記念日で休みなんです
夢子 名前は?
タクヤ タクヤ・・・キムラタクヤ
夢子 なんかどっかで聞いたことあるわねえ・・・ま、いいわ。じゃあちょっとお願いしようかしら。二時間くらいで戻ってくるから、お客さんが来たらそう言っといてもらえる?
タクヤ はい、わかりました・・・いってらっしゃい、おばさん
夢子 私の名前は夢子。まあ、確かにおばさんだけどさ
タクヤ いってらっしゃい、夢子さん
夢子 じゃあ頼んだわね
夢子が去る
出てくる「もの」達
そよかぜ まったくどうなることかと思ったぜ
アイちゃん しっかりしてよねチャーリー
カマ太郎 でもさ、本当にどうなっちゃうんだろねえ、私達
そよかぜ この店が無くなっちまったら
アイちゃん またゴミ捨て場行きよ
そよかぜ そんでもってブルトーザーで押しつぶされて
アイちゃん その上に土をかけられて
カマ太郎 おまけにアスファルトで固められて
アイちゃん 全てはおしまいってことよ
カマ太郎 ・・・何か話が暗くなっちゃったわね
タクヤ ・・・修理しましょう、皆さんを
ドルビー しゅ、しゅ
チャーリー しゅうり?
そよかぜ 修理って誰がやんだよ?
タクヤ 僕がやりますよ
アイちゃん できるのそんなこと?
タクヤ ・・・僕は電気屋で育ったんです。簡単な修理ぐらいできますよ。それじゃあ音楽、スタート!
軽快な音楽の中修理されていく「もの」達
そよかぜ おー首が楽になたぜ。でもよこれちょっと派手じゃねえか?
カマ太郎 いやあ似合っているわよ
アイちゃん 何だか私、燃えてきたわ!よーしやったるで!ほらドルビー、あんたも何か喋って御覧なさいよ
ドルビー 「生麦生米生卵」・・・喋れる!「生肉生焼け生野菜」「なまはげ生意気生ビール」
タクヤ モーターの接続部分が緩んでたんですよ
ドルビー ありがとう
タクヤ さあ、あとはチャーリーだけですね
アイちゃん 頭を良くすることなんてできるの?
タクヤ メモリーを増設したらいいんじゃないかな
一同 メモリー?
そよかぜ 何でえそれ?
タクヤ まあ、人間でいったら脳みそみたいなものです。あっちのパソコンのメモリーをチャーリーに移植すればいいんですよ
チャーリーを寝かせ
タクヤ それではオペを開始します。麻酔は?
アイちゃん オーケーです
タクヤ 電流は?
アイちゃん 安定しています
タクヤ ドライバー
そよかぜ へい
タクヤ 汗
そよかぜ へい
タクヤ キーボード
そよかぜ へい
タクヤ キーボードカバー
そよかぜ へい
タクヤ メモリーチップ
そよかぜ へい
アイちゃん 先生大変です!電流計が乱れています!
タクヤ 電気ショック
アイちゃん はい、電圧三、二、一、オーケーです
タクヤ ボン!
アイちゃん 電流計まだ乱れています
タクヤ 電気ショック!
アイちゃん はい、電圧三、二、一、オーケーです
タクヤ ボン!
アイちゃん ・・・電流計振れません・・・先生
タクヤ 残念です
電子レンジのチン音、中からご飯を取り出し箸を立て
一同 御愁傷様です
ガバッと起き上がるチャーリー
チャーリー アルジャーノン!
一同 げっ!
チャーリー アルジャーノンはどこですか!どこに隠したんですか!
アイちゃん ・・・アルジャーノンって何?
チャーリー 僕と一緒に捨てられていたはずだ!
タクヤ ひょっとして、マウスの事ですか?
チャーリー アルジャーノンはただのマウスなんかじゃない。アルジャーノンは僕の体の一部なんだ!
ドルビー あのー、もしかしてこれのことですか?
チャーリー アルジャーノン!・・・壊れてる・・・生き返ってくれアルジャーノン!もう一度カチカチ言ってくれ!・・・ダブルクリック、させてくれ・・・
マウスを手にとり立ち上がるチャーリー
タクヤ どこに行くんですか?
チャーリー アルジャーノンを埋めてきます。何か土を掘るものを貸してくれますか?
カマ太郎 このしゃもじ使って
チャーリー ありがとう、カマ太郎さん
カマ太郎 いいわよ、別に
アイちゃん 何か急に人格が変わっちゃったみたいね
そよかぜ さてと、これで俺たちもまた働けるようになったしよ。後は誰かが買ってくれるの待つだけだな
和やかな一同の笑い声
そよかぜ ってちょっと待てよ。この店大丈夫なのか?
カマ太郎 あ、あの借金取り!
ドルビー せっかくまともに話ができるようになったのに、お店が潰れてしまえば僕たちは・・・
アイちゃん ただの粗大ゴミに逆戻りって訳よ
そよかぜ 何とかしねえと
アイちゃん 何とかってどう何とかするのよ
そよかぜ だからその何とかする方法を、何とか考えんだよ
カマ太郎 何とかねえ・・・
いつの間にか背後に来ているチャーリー
カマ太郎 チャーリー?
チャーリー 武器を作ってきました
そよかぜ 武器?
チャーリー はい。先ほどの電話の内容から考察すると、あの借金取りは、今後何らかの武力行使に出てくるものと思われます。そこで借金取りを撃退する何らかの対抗手段が必要になるという結論に達し、武器を作成してきました
アイちゃん ・・・で、その武器って何よ
チャーリー ロケットミサイルです。我々コンピューターは元々、ミサイルの弾道を計算するために作られたものなんです
カマ太郎 ミサイルって、いくらなんでも人殺しは嫌よ
チャーリー 大丈夫です。火薬を使う訳ではありません。空気の力で飛ぶエアーロケットです
タクヤ 知ってる。図工の時間に作ったことがあるよ。ペットボトルで作ったやつでしょ?
チャーリー はい。完全なるリサイクル製品です。「地球に優しく、借金取りに厳しく」これが私のモットーです
ドルビー そんなんで武器になるのかい
チャーリー このロケットの内部にコショウを装填し、敵の上空で炸裂させるんです
ドルビー コショウ?
チャーリー そうすれば、敵はくしゃみ連発。借金の話しどころじゃなくなる
アイちゃん うまくいくのかしらねえ。そんなんで
カマ太郎 何か話が強引よね
チャーリー 私の計算に間違いはありません。それではただ今よりミサイル発射実験テストを行ないます。準備お願いします
一同 はい
準備をする一同
ドルビー 準備終わりました
チャーリー そよかぜさん。エアーの注入をお願いします
そよかぜ へい
アイちゃん ねえ、本当に大丈夫?
カマ太郎 人に直撃!なんてことにならないの?
チャーリー 人?どこにいるんですか?
客席を見渡す一同
チャーリー 冷蔵庫に洗濯機、下駄箱、ソファーにカラーテレビ・・・大丈夫。粗大ゴミばかりです
カマ太郎 それもそうね
アイちゃん あ、あそこの冷蔵庫なんて頑丈そうだから、直撃しても大丈夫よきっと
不敵な笑いを浮かべる一同
そよかぜ 用意できたぜ
チャーリー 東南東の風、風力二。計算によれば、飛距離八十九メートル、上空二十五メートルにおいてコショウ爆弾が炸裂する予定です。発射五秒前、四、三、二、一、発射!
ポトリと落ちるロケット
チャーリー ・・・・出直してきます
そよかぜ ・・・やっぱりまだどこかいかれてるんじゃねえのか、あいつ
夢子が現れ
夢子 ただいま。ありがとうねタクヤ君。おかげで助かったわ・・・タクヤ君?
タクヤ あ、はい。こっちです
慌てて固まる一同
夢子 あら?あらあら、まあ、これみんなあんたが直したのかい?
タクヤ はい
夢子 へえ、たいしたもんね。さすが電気屋の息子だけあるわね
タクヤ ・・・いえ
夢子 何かお礼しなきゃねえ・・・そうだ、そのおカマで良かったら持ってって使ってよ。・・・遠慮しなくたっていいわよ、そんな大きなおカマ置いといたってなかなか売れないんだから・・・どうしたの?
タクヤ ・・・夢子さん、僕をしばらくここにいさせてくれませんか?
夢子 ・・・やっぱりね
タクヤ え?
夢子 タクヤ君、あんた家出してきたんだろ?
タクヤ ・・・
夢子 隠したって、この夢子さんにはちゃーんと解ってるんだから。言ったでしょ、目をみたらその人のことが解るって
タクヤ 迷惑はかけません、店も手伝います。だから・・・
夢子 それは駄目よ・・・どういう事情で家を出てきたのかは知らないけど。あんたの家はここじゃないわ。それにね、私にはもう沢山の家族がいるからねえ
タクヤ 家族?
夢子 そう。手間のかかる子供達だけどね。・・・この子達見てるとね「早く直してまた使ってちょうだい」って言ってる気がして、自分が必要とされてるなって感じるのよ・・・変かしらねえ私
タクヤ いえ、僕もそう思います
夢子 そう。ありがとうね
タクヤ 夢子さん・・・夢子さんはどうしてこのお店を始めたんですか?
夢子 私が始めたわけじゃないのよ。五年くらい前だったかしら、うちの亭主がね会社から帰って来るなり「仕事辞めてきた。リサイクルの店をやる」って突然言い出したの
タクヤ 旦那さんが?
夢子 うちの人ね、大きな電気メーカーで商品開発っていう仕事をしてたのよ。新しい製品を次から次へとどんどん作ってどんどん売って・・・毎日毎日会議ばっかり。使いもしない機能の話ばかりで嫌になるってよくこぼしてたわ。「スタートします」「お洗濯が終わりました」・・・機械に喋らせることが本当に必要なこととは思えないって。理想に燃えて、あちこち借金こさえてこの店始めたのはいいけれど、なかなかうまくいかなくってさ、大変だったわ。最近やっと軌道に乗ってきたかと思ったら、今度は亭主がぎっくり腰で入院しちゃうしねえ
男が現れ携帯電話をかける
電話の呼出音
夢子 また、あの借金取りからだわきっと。まったくしつこいったらないんだから。・・・はい「夢屋」です
男 (声色を変え)あのーもしもし、こちら赤緑十字病院の者ですけど、御主人のことでちょっとお話ししたいことがありますので至急病院の方へ来ていただけませんでしょうか
夢子 あの、何かあったんでしょうか?
男 電話口では何ですので病院の方でお話したいんですけれども
夢子 はい、それじゃあすぐ行きますので
タクヤ ?
夢子 病院からだったわ。すぐ来て欲しいって
タクヤ 早く行かないと・・・店の方は僕がいますから
夢子 あんたは、早く家に帰りなさい、ね
夢子が去る
不審な動きの男
そよかぜ おい、何かあったのか
アイちゃん 旦那さんの具合が悪いのかしら?
ドルビー もしかして
そよかぜ ぽっくり
カマ太郎 ぎっくりよ。ぎっくり腰で死ぬわけないでしょ
そよかぜ いや俺は、てっきり
カマ太郎 まったく今日は次から次へと色んなことが起きる日だわねえ
チャーリー あれ、皆さん、何か焦げ臭くありませんか?
アイちゃんの方を見る一同
アイちゃん 私?私じゃないわよ。もう不完全燃焼なんてしないしさ。だいたい今、火なんて着けてないもの
店の片隅から火が出はじめる
ドルビーだけがそれに気づき
ドルビー 皆さん、か、か、か、か
そよかぜ おいドルビー、またモーターがいかれちまったのか?
ドルビー か、か、
そよかぜ か、カエル?
カマ太郎 る、ルビー
アイちゃん い、イルカ
チャーリー か、また「か」ですか?か、カサブランカ!
ドルビー か、火事です!
そよかぜ 火事、じ、じ・・・
ドルビー しりとりをしてるんじゃないんです。店が、店が燃えています!
そよかぜ 何!?お前何でそれを早く言わねえんだよ!
大きく燃え上がる炎
一同 うわっ!
タクヤ 何とかしなきゃ
そよかぜ 何とかっつってもよ
タクヤ 早く消さないと、水道はどこですか
アイちゃん あっちにあるけど
炎の中に入っていこうとするタクヤ
次第に大きくなる炎
アイちゃん 危ないわよタクヤ
タクヤ 僕がやんなきゃ誰がやるんですか・・・うわっ
そよかぜ 火の回りが早えぞ
チャーリー 早急に避難すべきです
タクヤ 店を守らないと・・・
カマ太郎 命あってのものだねよ
タクヤ 皆のお店じゃないですか
そよかぜ それはそうだけどよ
タクヤ 夢子さんが一生懸命守ってるお店じゃないですか!皆の家じゃないですか!
崩れ落ちる壁
皆に支えられ退くタクヤ
炎が店を包む
そよかぜ 俺たちの・・・俺達の「夢屋」が、燃えちまう・・・
大きく燃え上がる炎の中
ドルビー ・・・ケガありませんか?
タクヤ 大丈夫です
カマ太郎 タクヤ坊ちゃん!?
タクヤ ?
カマ太郎 その腕の火傷の跡は?
タクヤ ・・・これ?
カマ太郎 間違いない・・・今から十年前、ご飯好きの坊ちゃんが、炊飯中の私に抱きついて、吹き出す蒸気で火傷をなされた・・・
タクヤ ?
ドルビー もしかして、カマ太郎さんが働いていた家って言うのが・・・
カマ太郎 名前をお聞きしたときに思い出すべきでした。このカマ太郎一生の不覚。あの電球の玉のようにかわいらしかったお坊ちゃんが・・・こんなに大きくなられたなんて・・・
タクヤ カマ太郎さんが・・・僕の家にいた?
カマ太郎 ・・・はい
アイちゃん 広いようで狭い世の中
そよかぜ こんな偶然もあるんだな
アイちゃん あ、じゃあタクヤの本当のお父さんやお母さんは・・・
チャーリー もう、亡くなられているってことですか・・・
カマ太郎 はい。お優しい人たちでした・・・
タクヤ 僕は・・・捨てられたんじゃ無かった
カマ太郎 可愛いお坊ちゃまを捨てる親がいるはずないじゃないですか・・・これ、憶えていらっしゃいます?
汚れた縫いぐるみを渡し
カマ太郎 お坊ちゃまが一歳になられたお誕生日に、奥様と旦那様がプレゼントした縫いぐるみでございます・・・私と共に捨てられておりました。いつか、いつかお坊ちゃんと再び巡り会った時にお渡ししようと、今まであずかっておりました
タクヤ 父さんと、母さんが、僕に・・・くれた・・・
暗転
明かりが入ると焼け落ちた「夢屋」跡
タクヤが現れる
そよかぜ おうタクヤ、夢子さん、どうだった?
タクヤ 大丈夫です。元気にしています
カマ太郎 これから、どうするって?
タクヤ とりあえずしばらくは病院の方に泊りこんで、旦那さんの看病をするそうです
アイちゃん お店は?
タクヤ そのことは・・・旦那さんとゆっくり考えるって言ってました
そよかぜ 店も倉庫も、何もかも焼けちまったからな
ドルビー どうなるんでしょうね、僕たち
そよかぜ 元々、ゴミ捨て場から拾われてきた俺たちだ。またそこに戻ればいいだけの話だよ
カマ太郎 ・・・まあでもさ、ちょっとの間だったけど、夢子さんやタクヤ坊ちゃんのおかげでまた働けるっていう希望ももてたことだしさ・・・
アイちゃん でも、でももう一度だけでいいから、ポカポカとお家を温めたかった・・・
そよかぜ 熱い夏によ、さわやかな風を送りたかったぜ・・・
カマ太郎 温かい御家族の食卓に、炊きたてのご飯を出してあげたかった・・・
ドルビー ボリュームいっぱいに歌ってみたかった・・・
チャーリー この頭脳を駆使して、科学の発展に寄与したかったのに・・・残念です
タクヤ 皆さんはやっぱりまだどこかで働きたいんですか?
そよかぜ そりゃあお前、電化製品と生まれたからには
アイちゃん この命燃え尽きるまで
カマ太郎 おカマの底が割れるまで
ドルビー カセットテープがすり切れるまで
チャーリー この電子頭脳が焼きつくまで
そよかぜ 働きてえよ
タクヤ ・・・お店を開きましょう、僕たちで
アイちゃん お店って言ったって、肝心のそのお店が焼けちゃったのよ
タクヤ 僕の街の公園で、毎週フリーマーケットっていうのをやってるんです。家でいらなくなったものを売ったり、交換したりするんです。そこで皆さんを売れば、きっと使ってくれる家が見つかりますよ・・・夢子さんも言ってました。まだ使える物を使ってもらうことが、一番嬉しいんだって・・・皆さん捜しましょうよ。新しい家を
軽やかな曲の中移動する一同
フリーマーケット会場
緊張しながら、ポーズを決めている「もの」たち
タクヤ いらっしゃい。安いですよ!皆、新品同様に修理してありますから
ひとつずつ売られていくものたち
タクヤ ありがとうございます。はい、五百円になります。ありがとうございます!いらっしゃい。ありがとうございます!ありがとうございます!!
アイちゃん タクヤ、それじゃあ・・・ね
タクヤ さようなら
チャーリー あの・・・ひまがあったら、アルジャーノンの墓に花を添えてあげてください
タクヤ はい
カマ太郎 タクヤ坊ちゃん・・・くれぐれもお体を大切に
タクヤ カマ太郎さんもお元気で
ドルビー 夢子さんに、伝えてもらえますか。皆、夢子さんに感謝してるって
タクヤ はい
そよかぜ タクヤ、色々、世話になったな。ありがとうよ
タクヤ さようなら、そよかぜさん
そよかぜ タクヤ・・・あのよ、うまく言えねえけど、今自分がよ、必要とされている所・・・そこがよ手前の居場所なんじゃねえのか?
タクヤ ・・・はい
「もの」たちの姿が消えてゆく
タクヤ あれ、どうしたんだろう・・・皆さんの姿が見えなくなってきました
そよかぜ それでいいんだよ。お前の中のぶっ壊れていた部分が治ってきたんだよ、きっと
タクヤ 僕の中の壊れていた、部分・・・さようなら、みなさん・・・さようなら
走るタクヤ
焼け跡の中の夢子
夢子 すっかり焼けちゃったわね・・・(置き手紙を見つけ)あれ、何かしら?(手紙を拾い)あの子からだわ・・・「お世話になりました。家に帰ります。また遊びに来ます」・・・か。さてと私もまた一から頑張らなくっちゃね
立ち止まり、ゆっくりとドアを開けるタクヤ
晴れ晴れとした表情で
タクヤ ただいま・・・お父さん。ただいま、お母さん
まっすぐに前を見つめるタクヤ
幕・・・とおもいきや
カマ太郎とそよかぜが現れ
そよかぜ おい、カマ太郎、カマ太郎!ちょっと待てよ
カマ太郎 何よ?早く行かないとまたおいてけぼり喰らってごみ捨て場行きになるわよ
そよかぜ いや、どうしてもふに落ちねえことがあんだよ
カマ太郎 ふに落ちないって何がよ?
そよかぜ お前がタクヤにやったぬいぐるみだよ。親の形見だっていう
カマ太郎 ああ、あれね
そよかぜ あのぬいぐるみ、確か大分前にお前がゴミの山から拾ったもんじゃなかったか?
カマ太郎 それがどうしたの?
そよかぜ それがどうしたって・・・あ、それじゃあお前、タクヤの家で働いていたっていうのは・・・
カマ太郎 ・・・それが、本当の話だろうが、たとえ嘘の話であろうが、それであの子の壊れてた部分が治ったんならそれでいいんじゃない?・・・あの子は壊れていた私達を直してくれた。私はそのお返しをしてあげただけ
そよかぜ ・・・
カマ太郎 私達、家電製品の使命は「暖かい幸せな家庭を築くお手伝いをすること」・・・まあ、多少の嘘は、神様も許してくださるんじゃないかしらねえ
そよかぜ ・・・そうかもしれねえな・・・じゃあ、俺たちも踏ん張ってもう一花咲かせるとするか!
カマ太郎 あーいー
盛り上がる曲の中
幕
使用曲 S EUR PLUS! / DOMINIQUE より
JOLIE JACQUELINE [Radio Edit]
COLINDA
CASHBOX
/PHCR-1920