社説:2013年を展望する 強い経済は構造改革で

毎日新聞 2013年01月04日 02時30分

 すでに長期金利が上がってきていることに注意しなければならない。長期金利が上昇すれば、国債は借り換えも新規の発行も難しくなり、ギリシャ化への第一歩を踏み出すことになる。長期金利の上昇だけは避けなければならない。

 過去10年の日本の実質経済成長率を平均すると0.9%だ。日本銀行は少子高齢化による経済の構造的マイナス要因と、技術進歩などによる経済拡大要因を差し引きすると、いまの日本経済の潜在成長率(実力)は1%にやや届かない程度、と見ている。

 ◇ミニバブルを志向?

 ということは、これまでの日本経済はほぼ実力相応の成長をしてきたということだ。無理がない。だからこそ国債市況は安定し、ひとびとは「幸せな不況」にまどろむことができた。「それではダメ。強い経済を取り戻す」というなら、物価の引き上げでなく、構造改革で潜在成長率の引き上げを目指すのが筋なのだ。

 まずは年金・医療・介護の社会保障制度を維持可能なものにし、国民が安んじて消費を拡大できるようにする。財政改革に道筋をつけ着実に実行する。企業活力を引き出すため雇用、税制を中心に大胆な規制緩和を行う。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に参加しアジアの活力を取り込む、等々だ。

 ギリシャやスペインなど南欧諸国の体たらくを人ごとだと考えているとすれば、それは大きな間違いだ。財政が行き詰まり金融政策にも手立てがなくなり、彼らはついに身を切る改革に踏み出した。

 10年前に、いや5年前に改革に踏み出していればここまでつらい思いをしなくても済んだかもしれない。そういう悔悟にさいなまれつつ。

 安倍首相の政策が効果ゼロとは思わない。日銀に社債や株式を買わせれば、物価は反応せずとも株価や地価があがり、ミニバブルにすることが可能だ。それが狙いなのかもしれない。だが、それは資源配分をゆがめ、かえって経済の健全な発展を阻害しかねない。

 安倍政権に集まる人々は国債市場のXデーは当分先と楽観的に考え、かつ、万一の場合にも対応可能と考えている。だが、政権担当者の最大の仕事はリスク回避であって危ない経済実験をすることではない。

 過去の失政の責任をなにもかも日本銀行に押し付け、金融緩和しさえすれば強い経済を取り戻せるというのがアベノミクスであるらしい。それは「幸せな不況」を「不幸せな不況」にしてしまうおそれがある。

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