ソウル高裁が3日、靖国神社に放火した容疑で日本側から身柄引き渡しを要求されていた中国人の劉強元受刑者(38)について引き渡し拒否を決定したのは、同元受刑者を「政治犯」と見なしたためだ。
「当該犯罪者の犯罪が政治的事案であるため、引き渡しを求めてきた国に引き渡せば迫害を受けることが予想される場合は引き渡しを拒否できる」という韓日間の犯罪人引き渡し条約などに韓国の裁判所が従ったものだ。
高裁は政治犯だという判断の根拠として、犯行の動機や目的、犯行の対象である靖国神社の持つ意味合い、被害の程度などを挙げた。
高裁は、劉強元受刑者の放火の動機について「日本が犯した歴史的事実に関する認識・怒りに起因したもの」と判断した。「劉強元受刑者の犯行は政治的大義(日本による植民地支配に対する政治的抗議の意思表示)のため行われたもので、犯行と政治的目的の間に有機的な関連性が認められる」というのだ。
さらに、「劉強元受刑者の認識と見解は韓国の憲法理念や国連などの国際機関、大多数の文明国が目指す普遍的な価値と脈絡を同じくしている。同元受刑者を日本に引き渡すことは、韓国の政治的秩序や憲法理念、そして大多数の文明国の普遍的な価値を否定するもの」と述べた。
また、靖国神社については「法律上は宗教団体の財産ではあるが、国の施設に相応する政治的象徴性がある」と判断した。日本の侵略戦争を主導した戦犯たちが合祀(ごうし)されており、周辺国の反発があるのにもかかわらず、日本政府の閣僚たちが参拝を続けているというものだ。
高裁は、劉強元受刑者の放火による被害については「靖国神社の外にある門の一部が損傷しただけで、人命被害がない点などを考えると、深刻かつ残虐な反人倫的犯罪とは断定しがたい。犯行の法的性格は放火だが、事実上の性格は損壊に近く、公共に対する危険度は高くない」と述べた。
劉強元受刑者は捜査・裁判の過程で、自身の母方の祖母が韓国人で、旧日本軍の従軍慰安婦だったと主張してきた。裁判所も判決文で、同元受刑者の家族がたどってきた歴史を記載することにより、その主張を裏付けた。
裁判所が認めた事実によると、中国・上海で生まれた劉強元受刑者は、母方の祖母である李南英(イ・ナムヨン)さん(1985年死去)と小さいころ一緒に暮らしていたという。平壌生まれの李南英さんは大邱やソウルなどで暮らし、42年ごろに木浦港から中国に連れていかれて従軍慰安婦になった。
劉強元受刑者の母方の曽祖父であるイ・スンシクさんは1940年代にソウルで中学校教師をしていたが、こっそり韓国語を教えたという理由で西大門刑務所に連行され拷問を受け死亡したという。また、同元受刑者の祖父である劉別生さん(中国人)は抗日新四軍の隊長で抗日闘争をしていたが45年に戦死し、83年に中国政府から「革命烈士」の称号を受けたとのことだ。
劉強元受刑者は2011年、こうした家族を持つため母方の祖母の命日である12月26日に靖国神社に火を放ち、犯行時間は祖父が活動していた新四軍の「四」と「死」が同じ発音であることから早朝4時にしたと裁判所では述べている。