大きめの本屋さんならば、まだ置いてあるのではないかと思います。
タイトル:瓶詰の地獄
ジャンル:漫画
作者:丸尾末広
発行:エンターブレイン
言わずと知れた、倒錯した美を描いたら右に出る者なしの丸尾末広先生最新作です。
とにかく美しく妖艶なその絵、そして、不条理で退廃的なストーリーが魅力的ですね。
絵柄的には昔の児童向け小説の挿絵のような感じだと思います。「怪人二十面相と少年探偵団」とか「ルパン」とかの、美しいのに、ちょっと暗さというか薄気味悪さの感じる挿絵のイメージ。
@瓶詰めの地獄
夢野久作作品のコミカライズです。
こんなブログを書いているのに恐縮なのですが、原作は未読です。不勉強ですみません。ドグラマグラと少女地獄(短編集)は読みました。少女地獄が大好きです。……すみません、話題が逸れました。
原作との比較という観点でのコメントは書けないのですが、所感を記しておこうと思います。
まずは、その絵のクオリティと描き込み量に脱帽です。昔の作品より線が繊細になったのではないかと思います。その分、濃密に書き込まれているイメージ。この作品はストーリーよりも絵を楽しみました。
エロティクスfでの古屋兎丸先生との対談で、丸尾先生はアシスタントを入れないとおっしゃっていましたが、だからこそのクオリティですね。この凝った背景は丸尾先生以外描けないのではないかと思います。楽園的な華やかさがありつつ、気味悪くもあるのです。
人物の描き方も素晴らしいです。子供の頃の、色白でいい服を着た良家のお坊ちゃまとお嬢ちゃまから、南の孤島の環境に順応し、男児は逞しく日焼けした男性に、女児も日焼けして丸みを帯びた体型の女性に成長し、その美しいこと。女性の天使的でもあり、悪魔的でもある肉体美(男性側もそうですね)。人物のポージングが絵画的であったりするところにも目を惹かれました。
ストーリーは、船の遭難により二人だけ無事で南の無人島に辿り着いた兄妹の、罪深い想いの話。
クリスチャンである二人の兄妹の葛藤が、美しくも不気味な南の孤島の情景、海に流した瓶詰めの手紙の内容と共に描かれています。
最初は子供らしい無邪気さで平和な無人島生活を送っていた二人が、成長するにつれ、段々とお互いの性を意識しだします。兄と妹の間の許されざる恋――がメインテーマなのだろうと匂わせる内容なのですが、オブラートに包んだ言い回しですし、直接的な描写はほぼないので、丸尾先生の作品の中では比較的安全な作品なのではないかと思います。
光あふれる美しい無人島風景の描き方に新鮮さを感じますね。どちらかというと、丸尾先生の漫画はアングラな暗いイメージがあるのですが、パノラマ島綺談とかこの作品なんかは一部の情景描写に明るい光を感じます。この光の風景と、暗く不気味な風景との対比、人物の美しさと抱え込む闇との対比、みたいなものが先生にとっての新たな試みなのではないかなと考えたりしました。
作品の最後に作者(丸尾先生)によりストーリーへの矛盾にツッコミが入っていますね。原作を知らないので何とも言い辛いのですが、原作を読む機会があれば、また追記したいと思います。
A聖アントワーヌの誘惑
この作品集の中では一番短い漫画ですね。
聖人の伝説・絵画をモチーフに、日本人の神父に襲い掛かる不条理な試練を描いた作品。
(もとの伝説は悪魔の誘惑に勝つ聖人のお話のようです)
神父の出会う不条理な不幸の数々、まるで悪夢のような、けれど、非常に滑稽な試練。私はこの作品集の中で一番丸尾先生らしい臭いを感じたのですが、いかがでしょう。
B黄金餅
古典落語のコミカライズです。
戦後間もなくの時代なのでしょうか?
とある按摩がえらく金を貯めこんでいるらしいという噂を聞きつけ、同じ長屋に住む青年(按摩の隣人)は恋人とその兄と協力して、これをなんとか自分のものにできないかと考えている。
按摩は余命いくばくもないのだが、自分の稼いだ金を誰にも渡したくない。死んでも渡したくない。そこで按摩は死後も金を独り占めする方法を考える(ややグロイ方法。グロというほどでもないか)。
その方法を壁の穴から覗いていた青年は、按摩の死後、さらにもっとグロイ方法でこれを強奪する。
しかし、実際、金を手に入れられたのは? 死後も金を独占しようとした按摩の執念が・・・。
どちらかと言うと、怪談テイストの落語なのでしょうか?
登場する人物が次々とエゴを押し出し、利己的に振る舞いますね。いっそ清々しいほどです。
テーマとしては「因果応報」ということになるのでしょうか。
Cかわいそうな姉
お姉ちゃんが本当にかわいそうなお話です。滑稽なほどの、悲劇。
丸尾先生のオリジナル作品ですね。
舞台は戦後の日本がまだ貧しい時代、ぐらいでしょうか。(古めかしい薬屋の広告とか見れるのですが、着物の人が少ないのでそう判断しました)
父親が再婚し、新しい母親に苛められて暮らす貧しい少女。
母親違いの弟が生まれるが、知的な障害もっており、責任をなすり付け合った両親は離婚。二人はしばらく父の下で暮らすが、父は姉を女衒に、弟は四肢を切り落として見世物小屋に売ろうとする。
それを察知した姉は弟を連れて逃げる。(姉は弟のことを本気でかわいがっている)
姉は春をひさいで金を稼ぎ、弟を育てる。しかし、父や国際的女衒(?)の魔の手が迫り……のような感じ。
管理人は基本的に、このテの誰かを騙して誰かが得をするようなストーリーは苦手なのですが、これは読まされてしまいました。
姉はいい子なのですが、春を売るなかで擦れた心の部分が描かれたこと、擦れたからこそ父に対するちょっとした復讐ができたこと、その辺りが描かれたから、ある程度バランスが取れたのかもしれませんね。ちゃんと親切な方も出てきましたし。
最後の方で、18歳になりながらも姉の世話にならざるを得ない弟(しゃべることもほとんどできないと思われる)が、子供向けの絵本を読みながら姉の帰りを待っているシーンがすごくいいです。弟が攫われたとき、家に残された絵本の描写も。
弟の絵柄は、単行本表紙では可愛らしい男の子なのですが、本編ではなかなかエグイ描き方です。でも、それがいいのです。それこそが、丸尾先生のリアリティ。あの顔・体型で、あのかわいい洋服を着た弟の姿に、何故かひどく惹かれるのは、何故なんでしょうか(私だけですか?)。
(関係ないですけど、弟の服は姉の見立てなんだと思いますが、すごくかわいいと思います)
弟と無事二人で暮らしていけたとしても、最終的には悲劇的な状態になったのではないかなあと予想されるので(金銭問題や介護疲れ、弟の性的関心の問題などが生じるかも?)、美しい思い出だけ持って弟と別れられたのは、もしかしたら、そこだけは幸せだったのかな、と少しだけ考えました。最後のコマを見ながら、少しだけ、です。
それでは、また次の記事でお会いしましょう。
たどほみ
タグ:丸尾末広