発明の名称 |
アルミニウム安定化複合超電導導体 |
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発行国 |
日本国特許庁(JP) |
公報種別 |
公開特許公報(A) |
公開番号 |
特開平9−73821 |
公開日 |
平成9年(1997)3月18日 |
出願番号 |
特願平7−229121 |
出願日 |
平成7年(1995)9月6日 |
代理人 |
【弁理士】 【氏名又は名称】松本 孝
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発明者 |
細野 史一 / 鈴木 隆洋 / 稲葉 彰司 / 清藤 雅宏 |
要約 |
目的
構成
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特許請求の範囲
【請求項1】アルミニウム安定化超電導導体がSn−Ag系半田を介して強度メンバー内に埋め込まれていることを特徴とするアルミニウム安定化複合超電導導体。 【請求項2】Sn−Ag系半田におけるAg濃度が0.5〜10重量%である請求項1に記載のアルミニウム安定化複合超電導導体。 【請求項3】sn−Ag系半田における不可避的な不純物組成として、Sbが1重量%以下、Cuが0.08重量%以下、Cdが0.05重量%以下、Bi+Zn+Fe+Al+Asが0.35重量%以下である請求項2に記載のアルミニウム安定化複合超電導導体。 【請求項4】強度メンバーが銅合金である請求項1又は請求項2に記載のアルミニウム安定化複合超電導導体。 【請求項5】強度メンバーが、Ni濃度が0.5〜5重量%のCu−Ni系合金である請求項4に記載のアルミニウム安定化複合超電導導体。 【請求項6】Cu−Ni系合金の不純物組成として、Feが0.5重量%以下、Mnが1.5重量%以下、Pが0.5重量%以下、その他の不可避的な不純物が0.5重量%以下である請求項5に記載のアルミニウム安定化複合超電導導体。 【請求項7】強度メンバーがアルミニウム合金である請求項1又は請求項2に記載のアルミニウム安定化複合超電導導体。
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発明の詳細な説明
【0001】 【発明の属する技術分野】本発明はアルミニウ安定化複合超電導導体に関するものである。 【0002】 【従来の技術】大電流を要する超電導導体を作成する場合、一般的には超電導線の複数本を束ね、それを一般的なPb−Sn半田を介して強度メンバーの中に埋め込む構造が採用されている。ここで強度メンバーとは、導体をコイル化して通電することで磁場を発生させたときに導体に強大な電磁力が働くため、導体を強化するために用いられるものである。 【0003】アルミニウム安定化複合超電導導体の代表的な例として、Cu−2重量%Ni合金で被覆されたアルミニウム安定化材とNb−Ti系超電導撚線とを銅製の強度メンバー内にPb−Sn半田で埋め込んだものが知られている。 【0004】また、実績は見当たらないものの、強度メンバーにアルミニウム合金の活用が検討された例がある。これは、アルミニウム合金製の強度メンバーの中にアルミニウニ安定化超電導導体を半田を介して埋め込んだ構造のもので、アルミニウム安定化超電導導体としてはNb−Ti系超電導撚線を高純度アルミニウムで被覆したものが用いられ、半田としてはアルミニウム用として一般的なSn−Zn系半田が用いられる。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】強度メンバーに銅を用いた場合、銅とアルミニウムとの間のホール効果により、得られる電気抵抗率(比抵抗)が複合則で得られる価より大幅に大きなものとなってしまう。その対策として、アルミニウム安定化材の外周にCu−Ni系合金が被覆されるが、この構造では製造工程が多くなり、コスト高となる恐れがある。 【0006】一方、アルミニウム合金を強度メンバーとして用いた場合、アルミニウム合金とアルミニウム安定化超電導導体を複合する際に用いられるSn−Zn系半田のZnが、複合化の際、強度メンバーであるアルミニウム合金内の粒界に侵入して応力腐食割れを発生させることがある。強度メンバーに残留応力があったり、複合時の温度が270℃以上で行われた場合等は特にこの現象が著しく発生する。従って、Sn−Zn系半田を使用した場合、製造時の割れ等の不良が発生する危険性が非常に高くなる。 【0007】また、アルミニウム合金とSn−Zn系半田を用いた場合、その界面に酸化物等が生成され、界面強度が著しく低下するため、コイル巻き時に剥がれが生じ、不良を起こす可能性が高い。さらに、Znを含む半田は腐食性が高く、防食が必要となる。 【0008】本発明の目的は、前記した従来技術の欠点であるホール効果による安定化材の比抵抗の増大を解消し、併せてアルミニウム及びその合金の半田接合性を改善することのできるアルミニウム安定化複合超電導導体を提供することにある。 【0009】 【課題を解決するための手段】本発明は、強度メンバーとして銅合金若しくはアルミニウム合金を用いると共に、接合用の半田としてSn−Ag系半田を用いたものである。 【0010】 【発明の実施の形態】強度メンバーとして銅合金若しくはアメミニウム合金を用いることにより、ホール効果によるアルミニウム安定化材の比抵抗の増大を解消させることができる。 【0011】ホール効果とは、磁界に対して垂直な方向に電子が電磁力で推移して電場を形成する挙動であり、その応用として磁界を測定すること等に用いられている。その電場の向きは、一般にホール係数と呼ばれるもので判断がつく。 【0012】アルミニウムと銅を複合した場合、アルミニウム及び銅のホール係数はそれぞれ+1.136及び−0.6となり、アルミニウム側から銅側に電場が形成されることになる。これは半導体的挙動のような電子とホールの関係となり、磁界と垂直方向に電流が流れて電圧が発生する。このことにより実際の比抵抗はアルミニウムと銅との複合則から求まるものより大きな値となることが知られている。従って、その対策として、本発明ではアルミニウムと同種のプラスのホール係数を有するアルミニウム合金を採用するか、ホール効果が起きても不純物による銅側の電子散乱によってホール効果を抑制できる銅合金が採用される。 【0013】この場合、アルミニウム合金としては、例えばAl−4.5重量%Mg合金、Al−1重量%Mg−0.6重量%Si−0.2重量%Cu合金等の時効材が用いられる。 【0014】また、銅合金としては、例えばCu−Ni合金、Cu−Sn合金等が用いられるが、中でもCu−0.5〜5重量%Ni合金が望ましい。この場合、Ni濃度が0.5重量%以下では強度メンバーとしての機械的性能が得られないばかりでなく、低電気抵抗となるためにホール効果が生じ易くなるためであり、5重量%を越えると熱伝導率の低下により導体の熱流束値が極度に低下して安定性が劣化し、導体に機械的もしくは熱的なじょう乱が生じてコイルとしたときにクエンチしやすくなるためである。 【0015】なお、このCu−Ni系合金における不純物はできるだけ少なく、例えばFeが0.5重量%以下、Mnが1.5重量%以下、Pが0.5重量%以下、その他の不可避的な不純物が0.5重量%以下であることが望ましい。 【0016】一方、Sn−Ag系半田を採用することの効果について見る。Al−Zn系合金の場合、270℃以上で合金が形成されることが知られている。この合金は湿った大気中で粒間腐食により、ときには崩壊する。従って、アルミニウムやアルミニウム合金を270℃以上に加熱した状態でSn−Zn系半田で半田付けした場合、上記した脆い合金が生成され、残存応力があった場合には粒界割れが生ずる。しかし、Al−Sn系合金及びAl−Ag系合金では、通常半田付けが行われている250〜300℃でそのような脆い合金が生成されることがないため、応力が残存しても母材であるアルミニウムやアルミニウム合金に割れが発生しないことになる。 【0017】この場合、Sn−Ag系半田におけるAgの濃度は、0.5〜10重量%の範囲が望ましい。それはAgの濃度が10重量%を越えると半田自体の融点が高くなると同時に、Agが高価なために工業的に価値が小さくなり、また0.5重量%以下では半田の濡れ性が悪くなるからである。 【0018】なお、このSn−Ag系半田における不可避的な不純物はできるだけ少なく、例えばSbが1重量%以下、Cuが0.08重量%以下、Cdが0.05重量%以下、Bi+Zn+Fe+Al+Asが0.35重量%以下であることが望ましい。 【0019】 【実施例】以下、本発明の実施例について説明する。 【0020】図1は、銅マトリックス中に複数の超電導素線が分散配置された超電導線を撚合せた超電導撚線1を高純度アルミニウムからなる安定化材2で被覆した超電導導体3を、アルミニウム合金若しくは銅合金からなる断面門型状の強度メンバー4の中に、Sn−Ag系半田5を介して埋め込んだ複合超電導導体を示している。 【0021】また、図2は、図1と同様、強度メンバー4の中に導体3をSn−Ag系半田5を介して埋め込み、超電導導体3の上側に強度メンバー4と同じ材質の蓋材6を装着したものである。 【0022】実施例1:Al−4.5重量%Mg合金(A5083)及びAl−1重量%Mg−0.6重量%Si−0.2重量%Cu合金(A6061)の時効材からなる断面門型状の強度メンバーと、Nb−Ti系超電導撚線を99.99%の高純度アルミニウムで被覆した超電導導体を用意し、それらの表面に夫々超音波半田付けによりSn−3.5重量%Ag合金からなる半田を塗布した後、それを250℃に加熱されたSn−3.5重量%Ag半田の槽に通すことにより、超電導導体を強度メンバー内に埋め込んで図1に示すような断面構造の複合超電導導体を得た。得られた複合超電導導体を夫々コイルに成形したが、超電導導体の高純度アルミニウム及び強度メンバーに割れや剥がれは認められなかった。 【0023】実施例2:実施例1と同様の超電導導体と強度メンバーを用意し、実施例1と同様にして超電導導体を強度メンバー内に埋め込み、最終的に強度メンバーと同じ材質の蓋材を装着することにより図2に示すような断面構造の複合超電導導体を得た。 【0024】実施例3:強度メンバーとしてCu−2重量%Ni合金材を用いた以外は実施例1と同様の超電導導体及び半田を用い、実施例1と同様にして図1に示すような断面構造の複合超電導導体を得た。得られた複合超電導導体をコイルに成形したが、高純度アルミニウム側に割れや剥がれは認められなかった。 【0025】実施例4:強度メンバーとしてCu−2重量%Ni合金材を用いた以外は実施例2と同様の超電導導体及び半田を用い、実施例2と同様にして図2に示すような断面構造の複合超電導導体を得た。 【0026】以上のようにして得られた各実施例の複合超電導導体の4.2Kにおける比抵抗の磁気抵抗効果の測定値から各々の複合超電導導体における高純度アルミニウムの比抵抗を求めた。このとき、同時に各々の複合超電導導体における強度メンバーの比抵抗も求めた。以下にその結果について説明する。 【0027】比抵抗の測定は、図3に示すように、サンプル10が液体ヘリウム12中に浸漬され、バックグラウンドマグネット13によって所定の磁界が印加され、磁界中の比抵抗が測定される方式によった。なお、図3中、11は液体窒素、14はX−Yレコーダ、15はシャント抵抗、16は電源を示す。 【0028】比抵抗(ρ)は次の式から求めた。 【0029】 ρ=(L・V)/(S・I)・・・・・・・・(1) ここで、L(m)は電圧タップ間距離、S(m2 )はサンプル断面積、V(V)は発生電圧、I(A)は通電電流値である。 【0030】次に、この値を用いて高純度アルミニウムの比抵抗を求めた。その算出は次の式を用いて求めた。 【0031】 1/R3 =1/R1 +1/R2 ・・・・・・・(2) ここで、R3 は各実施例のサンプルの抵抗値、R1 は各実施例のサンプルにおける高純度アルミニウムの抵抗値、R2 は各実施例のサンプルにおける強度メンバーの抵抗値であり、抵抗値RはR=ρL/Sで表すことができる。 【0032】上記(1)、(2)式から、高純度アルミニウムの比抵抗を求めた結果を強度メンバーの比抵抗と併せて表1に示す。 【0033】表1の結果から、各実施例による複合超電導導体においてはホール効果が生じていないといえる。 【0034】 【表1】
【0035】 【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、アルミニウム安定化材の比抵抗の増大を解消し、併せてアルミニウム及びその合金の半田接合性を改善することのできる効果がある。
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