じっとりとした霧が辺り一面に立ちこめる。
閑散としてまばらな木々の根元はぬかるみ、水たまりでは数百年前の大戦で命を失った兵士達の骸(むくろ)が、腐りかけのまま淀んだ眼を鈍く輝かせている。
その中を、女性が1人歩いていた。
「出て来い! 私の名前はアリア・マリアンヌ。
皇王の勅命により、お前を罰する」
陰惨とした湿原に麗しく凛とした声が響く。
彼女こそはブルギリア皇国の至宝とよばれる『16騎士』の一人、帝国に跋扈する尋常ならざる超常者=魔女を狩る聖なる審問者である。
「うふふふっ。よくここまで追ってきたわね。16騎士のアリアちゃん」
汚泥が盛り上がったかと思うと死霊の影の中から一人の女が現れる。
妖しき女の名前はカラム。魔女カラムと呼ばれる邪悪な存在。
「カラム……」
「さぁ〜てっ。殺し合いとしゃれこみましょう。アリアちゃん」
魔女とは何者なのか?
人間の成れの果てだとか、悪魔が人間の女に産ませた存在だとか、人と異なる種族だとか様々な諸説が存在するが、本当のところはわかっていない。
だが魔女について、一つだけ明らかな事があった。
「神と人の敵、魔女よ。私はお前を狩るものだ」
古くから民衆に恐れられる存在として数々の伝説が物語るのは、『魔女』とは邪悪で人間の敵であるという事実。
「うふふっ。そう♪ それは楽しみ」
カラムはそういうと汚泥と骸の中から剣を取り出す。
邪剣「スネーク・ソード」、彼女の愛刀が妖しく輝く。
「1000の人の魂を、刃に塗り込めた呪われし邪剣。
この剣は限りなくどん欲で、限りなく残忍……
生ある者の命を吸い取る」
「……………」
「でもっ。ふふっ♪ この剣はまだ未完成なの。
この剣はアリアちゃんの高貴な魂を吸って完成するの」
アリアは、まるでカラムの言動を無視するかの様に自らの剣を抜く。
「固いのねっ。うふふっ。固いと周りの状況が見えなくなるわよ……」
「そうでもない……お喋りはここまでだ」
死霊たちの慟哭が周囲に響き渡り、漂う瘴気の濃度が一気に増す。
互いが必殺の間合いへと足を進める。
こうして騎士と魔女の戦いが始まろうとしていた。
アリアの運命を大きく変える戦いが……!!
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