2013年をどう生きるか、直木賞作家・石田衣良さんに聞く。テーマは経済。「どん底から見える日本の希望」について語ります。(聞き手=フリーライター・神田憲行)
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--今年の経済、景気はどう見ますか。
石田衣良:まあ、大底、どん底の年になると思いますよ。円安にするのはいい手ではありますけれど、輸出企業がどんなに儲かっても、将来が暗いので経営者も怖くて給料をあげてくれませんよ。賃金そのままでモノの物価だけが上がるので、みんなの生活が苦しくなる。我慢の1年ですね。
--なにが問題だと考えていますか。
石田:少子化で人口が減っていることと、世界で売れる製品が作れなくて、日本人ひとりひとりの稼ぐ力が落ちていることです。解決するには恋をして結婚して子どもを作り、コツコツと目の前の仕事をこなしていくしかないですね。
--日本の家電メーカーがのきなみピンチですもんね。
石田:象徴がダイソンとルンバです。本来はああいうちょこちょこした掃除機みたいなのは日本のお家芸だったはず。スマホもパソコンをギュッと小さくするのは日本が得意だった。世界に流通するフォーマットを作り出したのは、もうゲーム機をのぞいてないんじゃない?
でもアメリカの電気メーカーもそうやって日本にやられて、テレビを作っている会社が無くなったわけですから、次は順番からいって、中国や韓国のメーカーに日本の家電メーカーが潰される可能性は十分にある。そこを見極めた上で次に出て行くなり、鍛え直すことを考えた方が良い。でもね、僕が考える「大底」は「明るい大底」なんです。
--明るい最低なんですか。
石田:ヨーロッパの債務危機もなんとか片が付きそうだし、オバマ大統領も再選狙いでなく歴史に名前を残すような大きな仕事をしそう。みんなヨーイドンでどん底からスタートするんですよ。底を打つと矢印が上に向くしかないから、逆に明るくなるんですよ。
日本はいいポジションにいるんですよ。人口がある程度いて、中国のような巨大市場に近い。でもそれに完全に飲み込まれない形でアメリカとかスーパーパワーと仲良くしている。中国もアメリカも日本を相手側に追いやりたくないので、なんだかんだいいながら丁寧に扱っている。日本人がそうそう自信を無くす状況ではないですね。
--中国との関係が不安ですが……。
石田:必ず良くなると思います。そうでないと日本が生き残る道が無くなるから。
昨年、ブックフェアの招待で初めて上海に行ったんですよ。会場でもの凄い行列を見て「あれはなんですか」って訊ねたら「石田さんのサイン会を待っている人たちです」といわれました。カートがしなるくらいばんばん本をかっている人も大勢いて、世界でいちばん本が売れている現場じゃないかと思いました。
僕の作品は中国では「アキハバラ@DEEP」がドラマ化されているし、韓国でも月島がないのに「6TEEN」が映画化されました。もうなんで受けてるのか謎です。
でも今の日本はそういうポジションで、文化財では東アジアの中心になれる。イギリスの経済市場調査によると2050年に世界の富の5割とか6割が東アジアにギューと集まるそうで、そうなったら東京はハリウッドみたいになりますよ。中国の若い子たちは日本のファッションとか文化に本当に興味があるんです。世界の富の半分くらいがアジアに集まった30年後くらいに、日本でも映画の脚本代が1本2億とかとれるようになりますよ。なのでそういう時代目指して、いま音楽とか小説とか目指している人は、どんどん技を磨いていけばいいんじゃないですかね。
ただそこで若い人にいいたいことがあります。
--なんでしょうか。
石田:去年、朝井リョウ君(「桐島、部活やめるってよ」著者)と対談したんだけれど、朝井君のような23歳の若者と歳下の20歳ぐらいの人がまた消費態度が違うと話をしていた。朝井君の世代はまだかろうじてお金を出してモノやサービスを買うけれど、20歳ぐらいの人はまず「無料」でないか探す。あれば不便であっても、我慢して使う。有償にアップグレードすることはしない。もし無料で使えるサービス、モノがなければ諦めるというんですよ。そういう人たちが大人の世代になってきたら、どうなるんだろう。
いま音楽家とかもなかなか食えない時代ですよね。YouTubeで無料動画だけみて満足している人も多い。でも適正なものにお金を払って、その作り手を大切にするって大事なことだと思います。いろいろプロの現場でちゃんと仕事をしている人を尊敬して、お互いの仕事に敬意を払うことが、回り回って自分を豊かにするんですよ。