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2011年11月04日       

TPP:ISD条項は治外法権か?

 いよいよ11月、霜月を迎えました。暑がりの私も、やっと冬用の掛け布団に替え、風邪などひかぬよう注意しています。皆様はお変わりありませんか。

 TPP(環太平洋経済連携協定)に関連してさまざまな主張が飛び交っています。私の考えは以下の通りです。

 関税の撤廃にはおおむね数年から十数年かかることが予想されることもあり、現在の日本経済にとっては円高デフレへの対応がはるかに重要だと思っていますが、「わが国の国民皆保険制度や郵政システムをはじめとする制度はどうしても守らなければならない。しかし、お互いの国の関税はできる限り引き下げて自由貿易は積極的に進めて、農業を含めたわが国の産業の競争力を引き上げていくべきだ」と考えています

 さて、このTPPの協議事項にISD条項(国家対投資家の紛争処理条項)があります。このISD条項は投資家や企業が相手国に不平等な扱いを受けたときなどに相手国をその企業が訴えることができるという条項で、日本政府も、法的制度が整わない発展途上国に対して投資や貿易をおこなう際にはぜひ必要だと考えている制度です。

 ところが、TPPに反対する皆さんは、このISD条項が、TPPに導入された場合、わが国が一方的に外資系企業から訴えられ、不利益をこうむるものだとして、「治外法権」だとか、「不平等条約」などとしています。この、ISD条項が「毒まんじゅう」条項だという主張はどうも数年前に米韓FTAに韓国内で反対する勢力が使い始めたらしいのですが、はたしてこのTPP反対派の主張は正しいのでしょうか?

 反対派からの情報ばかり世の中に氾濫していますので驚かれるかもしれませんが、ISD条項はTPPではじめてわが国に導入されるものではありません

 わが国では既に25を超える国と投資協定などを締結していますが、ISD条項は、先方がその採用を拒否したフィリピンを対象とする協定以外には実はすべて含まれています。しかし、わが国が訴えられた例は過去にありません

 米国とは未締結ですが、過去にたばこのフィリップモリス社が香港と豪州の投資協定を使って、豪州を訴えたように米国企業が締結相手国で営業していればわが国を訴えることが可能です。が、それでもまだ1件もわが国は訴えられていないのが現実です。

 投資家が国家を訴えた訴訟については、昨年末までに全世界で390件あり、トップは、対アルゼンチンの51件、続いて対メキシコ、チェコ、エクアドル、カナダ、ベネズエラと続きます。対米国の訴訟は対ウクライナと並んで14件で同率7位。くどいようですが対日本はゼロです。上位には北米を除き発展途上国がずらりと並びますが、この状況をみれば、ISD条項導入はわが国企業が法律の整わない発展途上国で活動する上で有益なものとなるであろうことは誰もが予想できることです。

 米韓FTAでISD条項を「米国が韓国に押しつけた」とする人もいますが、片務的なものでなく当然米国も韓国企業から訴えられます。では米国は韓国に対して、反対派が言うように「治外法権」を認めたのでしょうか?さらに、韓国もほぼ全てのEPA・投資協定でISD制度を入れる努力をしていることも忘れてはならないポイントです。

 また、TPP参加国でも豪州はISD条項に反対をしています、その理由は先進国には整った裁判制度が既にあるからであり、決して一部の論者が主張するような「治外法権」だから反対しているわけではありません。TPPの協議に参加してISD条項の導入にわが国が反対するのなら、豪州などと連携して反対すればいいはずです。

 TPP反対派が、ISD条項が治外法権に他ならないものであることを示すためによく例に挙げているのが、カナダ連邦政府を米国化学企業の現地子会社が訴えた事案です。この子会社はメチルマンガン化合物(MMT)を製造していました。1997年加連邦政府がMMTの流通を禁ずる新法を作ったところ、米企業がそれにより甚大な被害をこうむったとして2億5100万ドルの支払いを求めて加連邦政府を訴えました。

 この件は、同時並行でカナダ・アルバータ州が、新法が国内通商協定(AIT)に違反するとして専門委員会に提訴し、委員会での検討の結果、新法は国内通商協定に違反すると認定されました。また、MMT自体については流通を完全に禁止する必要のあるような危険な化学物質ではないことも明らかになりました。この専門委員会の判断をカナダ連邦政府は受け入れ、翌年法律を廃止することになりました。それに伴い連邦政府は米社に仲裁費用と遺失利益として和解金1300万ドルを支払いました。

 これで明らかなように、カナダが連邦制という特殊な政体を採っていることから生じた政府の失策により、禁止すべきでない化学物質の流通を十分な検討もなしに誤って禁止したことが原因であり、ここから化学物質に対して十分な検討をせず規制を課すべきではないという教訓を引き出すなら分かりますが、TPP反対派の主張しているような「カナダ国内で禁止されている有害な化学物質を強制的に輸入させられ、かつ法外な和解金をむしり取られた」という表現はミスリーディングであることはいうまでもありません。この例は、むしろ逆に投資先国の失政からわが国の企業を守る上でISD条項が大変有効であるということを示しているわけです。

 しかし、なぜ誰がこのような歪曲した事実を垂れ流しているのでしょうか。じっくりと考える必要があります。その目的はなんでしょうか。その背景には自由貿易に反対する勢力があるのではないでしょうか

 EU、米国や中華人民共和国と比較して国土面積にも資源埋蔵量にも市場規模にも劣るわが国にとってなによりも大切なものは、広く海外に活動が可能となる「自由貿易」です。特に食糧とエネルギーの確保です。戦前のわが国はいわゆるABCD包囲網により石油、くず鉄など必要な物資を輸入することができなくなりました。これが開戦を余儀なくされた直接の理由の一つです。

 中華人民共和国によるレアアースの輸出制限が話題となりましたが、食糧や資源などの戦略物資の対外輸出制限行為の禁止はTPPの中で議論されるべき項目です。この項目が確保できれば安全保障上大きな前進となります。

 わが国の長期的な国益の実現のためには、TPPをテコとして、さえぎられることのない自由貿易を実現しなければなりません。目先の利害にとらわれていてはならないのです。

 

(メールマガジン平成23年11月3日号より)

 

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コメント (14)

明日のジョー:

戦前のわが国はいわゆるABCD包囲網により石油、くず鉄など必要な物資を輸入することができなくなりました。これが開戦を余儀なくされた直接の理由の一つです。
未だに戦争をひき起こした理由を上記のように述べているのに、呆れ返ります。
日本が朝鮮、中国を侵略したことが、国際的な包囲網を築かせたことになったのです。
これでは、犠牲になったアジアの国々は日本を信用できないでしょう。

トラックバックさせていただきました。

TPPという毒饅頭は米国の侵略行為。 平和で美しい日本が、取り囲まれ弄(なぶ)り啜(すす)われようとしている。

オーストラリアはかつて、米国とのFTAでISD条項を拒否している。最初、ISDが入りそうになったが、
途中から、「オーストラリアの国民がその危険性に気付いて大騒ぎ」をした。 政府は、その国民の反対運動に屈してISD条項を受け入れなかったが、
しかし、危なかった状況だった。

☆ 米国の毒饅頭:TPPで日本懐国へ:
http://blog.goo.ne.jp/deception_2010/e/39b2ec967b6b08417176f7231fb16148

Shiba:

金子議員殿

ご存じのとおり、TV番組やネットには経済学や国際法の初歩知識すら無視された暴論空論がはびこっており、それにだまされてしまう人も出て被害が拡大していそうな雰囲気です。

そんな捻じ曲げられた世論で、日本の未来を左右する政治決断が曇らされてしまいかねません。

こんなことで良いのでしょうか?


貿易自由化に反対し関税で平均年齢65歳超の零細農家の保護を続けるなんて、すでに年金貰っている高齢者を優遇する代わりに比較優位産業の成長を阻害して若者の雇用を奪い、世代間格差を拡げるようなもの。

なぜ若年層ほど反対が多いのでしょう、滑稽としか言いようがない。ワケが解りませんね。。。


与党、政府は説明が足りないと思います。盛んにメディア露出してウソ八百を振りまくたった2人に、物量で負けていますよ。

Shiba:

カリフォルニアさん

MMTに関する紛争とは、Ethyl事件のことと思います。経緯は次の通り。

ガソリン添加剤MMTの健康被害を懸念したカナダ議会議員はMMT使用を禁止したいと考えた。
しかしカナダ国内法の環境保護法が求める条件を満たしておらず(健康被害を立証する充分なデータがなかった)、健康被害そのものを理由に禁止できなかったため、別の方法、すなわち輸入と流通を禁止した。
MMTを生産していたのはEthyl社のみだったので、Ethyl社狙い撃ちの規制措置になった。

要するに、自身の国内法の要求すら満たしておらず何ら根拠もないのに規制を実施し、特定企業狙い撃ちで損害を与えたケース。
健康被害対策も確かに大事ですが、だからといって根拠のない横暴をしても良いということになるはずがありません。

尚、本文に書かれている通り、本件はカナダ州政府と連邦政府間で締結された協定に違反するとしてカナダ国内で州政府に提訴され、国内法の下で連邦政府が敗訴し規制は撤回された。そのため連邦政府はISDに訴えていたEthyl社に和解金を支払い、和解が成立。したがって、ISD手続によってNAFTA違反と判断されたのではありませから、ISD批判の根拠として取り上げること自体がおかしい。


http://www.twnside.org.sg/title/eth-cn.htm

未だにデマに踊らされている人がいますね。

>ISD条項の理念自体が民主主義・民族自決の理念に反しているので良いとは思いませんが

ISD条項でできることは協定違反に賠償金というペナルティを科すことだけです。
言い替えると、ISD条項は協定違反をさせないための抑止力となるだけです。
よって、ISD条項では「民主主義・民族自決の理念に反している」行為は原理的に実行不可能です。

>実際にISD条項を使って訴えた数、勝訴した数を調べたらわかりますがアメリカ有利です

「訴えた数、勝訴した数」を調べても「アメリカ有利」な証拠にはなりません。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/pdfs/tpp02_06.pdf
NAFTAの事例では不明・係属中を除くと米国企業は5勝7敗3和解です。
仲裁判断・管轄判断では勝率42%、和解を勝ちに入れても勝率53%です。
以上、この数値からは米国企業が有利であるとする根拠はありません。
米国政府は6勝0敗ですが、これは協定違反の有無も考慮する必要があります。
もしも米国政府が協定違反を全く行なっていないなら無敗なのは当然です。
米国政府が協定違反をした証拠がなければ無敗が不自然とは言えません。
以上、この数値からは米国政府が有利であるとする根拠もありません。

>仮に日本政府を賠償した額と日本の企業が賠償金を得た額がイーブンだったとしましょう
>この時に損をするのは税金を払っている国民で得をするのは企業です、企業が利益追求をするのは当然ですが
>国策企業じゃないんですから政治の力で儲けるのはやめてもらいたい、あなたは企業の顧問じゃなく国民の代表でしょう?

協定違反をしなければ日本政府が支払う賠償額はゼロなので、イーブンという前提はあり得ません。
日本政府が支払う賠償額はゼロなら、日本の「税金を払っている国民」が損をすることもあり得ません。

>TPPである必要無いですよね?
>個別にEPA、FTAを結んでいけばいいじゃないですか。
>それにASEAN+3+6等もあるわけですし。
>TPP反対=自由貿易反対みたいなレッテルを貼るのはおやめになったほうがいい。

TPPと比較して個別にEPA、FTAを結んだ場合の各交渉項目について具体的に比較し、
個別にEPA、FTAを結んだ方が優れていることを示してTPPに反対するなら
それは自由貿易反対論ではないのでしょう。
たとえば、TPPにはデマではないデメリットもあります。
http://www.iwate-np.co.jp/ronsetu/y2011/m11/r1109.htm
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/0309.html
漁業補助金交渉では現在のTPP参加国からは四面楚歌状態です。
日本案に賛同するEU、韓国、台湾はTPPに参加していません。
よって、漁業補助金交渉については、TPP参加は得策でないと言えます。
そうした各交渉項目について具体的に懸念を指摘すれば良いでしょう。
しかし、そうした具体的比較論なしに闇雲にTPPに反対するなら
自由貿易反対論だと言われても仕方がないのでは?

カリフォルニア:

アメリカのカリフォルニア州では、
ガソリンにMMTの添加を禁止していますが、
そのことをご存じですか?

アイ:

TPPである必要無いですよね?
個別にEPA、FTAを結んでいけばいいじゃないですか。
それにASEAN+3+6等もあるわけですし。

TPP反対=自由貿易反対みたいなレッテルを貼るのはおやめになったほうがいい。

Shib:

teyakunoさん、メキシコの件て、これのこと?


Metalclad

1992年:メキシコ環境省が20,000トンもの不法投棄されている有害廃棄物を発見。
    米Metalclad社に処理の許可を出した。地元当局にも申請していたが音沙汰なし。
1993年:米Metalclad社が埋立地を買収。
    地元から環境汚染につながっている旨反発を受ける。
1994年:環境調査の結果、処理は適切であることが確認され、作業継続が認められた。
1995年:Metalclad社は正式認可を受ける。ところが、地元当局が許可を出すことを
    拒絶したため、事業中止に追い込まれた。

Metalclad社はメキシコ中央政府の許可を受け、環境調査もクリアしてちゃんと正式認可を得ている。
ところが自治体は、以前から受けた申請を無視していたあげく、後になって不許可を
言いだした。

http://en.wikipedia.org/wiki/Metalclad

由井:

今まで日本がISD条項を結んできた国は日本がODAを出すなどする小国でした
ISD条項の理念自体が民主主義・民族自決の理念に反しているので良いとは思いませんが
小国相手とアメリカ相手では違います、これは別に陰謀論や反米ではありません
実際にISD条項を使って訴えた数、勝訴した数を調べたらわかりますがアメリカ有利です
仮に日本政府を賠償した額と日本の企業が賠償金を得た額がイーブンだったとしましょう
この時に損をするのは税金を払っている国民で得をするのは企業です、企業が利益追求をするのは当然ですが
国策企業じゃないんですから政治の力で儲けるのはやめてもらいたい、あなたは企業の顧問じゃなく国民の代表でしょう?

>なぜ誰がこのような歪曲した事実を垂れ流しているのでしょうか。
>その目的はなんでしょうか。

恐らくある韓国人が米韓FTAを誤訳したことが発端でしょう。
さらにNAFTAのISD条項の偏った知識が重なって
ISD条項=罠,毒素という誤解になったのでしょう。
そうして韓国で流行ったゴシップを某准教授が鵜呑みにして
事実関係を検証せずに勘違いした正義感で誤情報を流布してしまったと。

以下、コメント欄について。
実際の仲裁事例を調べれば基準は明確で中立的な判断が下されています。
無茶苦茶な判断が為された事例はなく、米国寄りなどという事実は存在しません。
Pope&Talbo事件、Methanex事件、UPS事件では米国企業の訴えを退けています。
http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/epa/pdf/FY20BITreport/NT.pdf
↑NAFTA関連では6例掲載されています。
1例で決めつけるのがミスリーディングと言いながら1例も出さないのでは話にもなりません。
国内企業と外国企業に扱いの間に差が生じない場合はNAFTAでも訴えは通りません。
自分で調べて考えればデマだと分かる稚拙な捏造談話を
検証もせずに鵜呑みにしてドヤ顔で流布するなんて馬鹿げています。

ISD条項に関して
「米国も韓国企業から訴えられます」
とありますが、反対派が危惧しているのはその訴えが退けられるリスクが強いことにあります。

仲裁センター(世界銀行)はアメリカ寄りになっており、審議は1回、非公開とのことです。
米側が勝訴した例として、米韓FTAやカナダの例が挙げられているのです。(注1)

反対派は自由貿易に反対しているという指摘がありますがそれは思い過ごしでしょう。
関係各国の相互の利益関係を考慮しない破壊的な自由貿易には反対ですが、貿易相手国とwinwinの関係を結べる自由貿易ならもちろん歓迎します。
関税を撤廃することが自由貿易の目的になっては本末転倒ですよ。

(注1)
「日本と米国のISD条項においての非対称性」
TPP問題まとめwikiより(11月11日現在)

てつや:

アメリカとアメリカ以外の国とISD条項を締結するのは雲泥の差があるわけですよ。
それは主に以下の理由によります。
・仲裁機関がそもそもアメリカの多大な影響下にある。
・ISD条項による訴訟の30%強がアメリカの投資家、ないしアメリカ企業によるものであり、訴訟額に換算すればそれ以上である。
(アメリカは言わずと知れた訴訟国家ですよね)

ISD条項を治外法権と見なす事の反証としてカナダの例を挙げていますが、その1例で治外法権ではない、とする事も逆にミスリーディングじゃないでしょうか?
その例はカナダの政策が稚拙だっただけの事で、それ以上でもそれ以下でもありません。

もし米国との間にISD条項が締結されれば、日本にとってどういう影響が出るかまで議論するべきです。

簡保や郵政、医療制度についてISD条項でも訴訟を起こされる可能性が皆無といえますか?

tamayaohkawa:


                            平成23年11月10日

民主党 参議院議員
金子洋一 様


----- Original Message -----
From: "かねこ洋一"
To: "tamaya様"
Sent: Thursday, November 03, 2011 6:13 PM
Subject: ◇◆参議院議員 かねこ洋一メールマガジン◆◇


拝啓
TPPに関する貴議員のお考えを拝見いたしました。
貴議員のお考えに対する疑問として、何点か、述べさせて頂きたいと存じます。

第一に、冒頭の「我が国にとって、円高デフレへの対応が(TPP問題よりも)はるかに重要であり、国民皆保険制度や郵政システムをはじめとする制度を守って行かなければならない。しかし、自由貿易は積極的に進めるべきであって、農業を含む産業の競争力を引き上げていくべきだ」とのお考えについて

円高デフレへの対応が(TPP問題よりも)はるかに重要であるとするならば、尚の事、TPPには参加することは出来ません。何故なら、TPPはデフレを促進するからであります。これはTPPにおける最も重要な論点の一つであって、貴議員は先刻ご承知であるにも拘らず、それを逆の論理で使用するのは遺憾と思われます。

又、国民皆保険制度(注1)や郵政システム(.注2)を守るのであれば、既に米政府は見直し要求を明言しているのですから、守ると云う方策を論じなくてはなりません。「掛け声」のみに終わっているのでは説得力も無いと云わざるを得ない。

更に、自由貿易を進める事とTPPに参加する事とは、その意味合いが全く異なります。我が国はWTOに加盟してその発足当初から自由貿易を進めるべく、TPPとは関係なく、推進努力しているのであって、それに対し、TPPとは、関税、及び、非関税障壁の撤廃、それにISD条項の締結を目指す多国間の協定を指しています。

尚、ISD条項とは、『企業・投資家が相手国との間で紛争に陥った場合、現地の裁判所に訴えるまでも無く投資紛争解決国際センター(ICSID)に執行を求める権利をその企業・投資家に与え、相手国政府の行為から保護される』と云うもの。

つまり、TPPに参加する・参加しないと云うことは自由貿易の推進とは別次元の話なのであって、TPPに参加しない事が、あたかも、自由貿易を積極的に進めない事に繋がるかのような論調は事実に反すると云わねばなりません。

(注1)http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=10331
医療自由化目標 「入手していた」 米国文書で厚労相 (10月28日) 日本農業新聞

(注2)http://www.47news.jp/CN/201011/CN2010110501000142.html
米、郵政法案に懸念 自民が面会記録入手 47NEWS 2010.11.05


第二に、「ISD条項(国家対投資家の紛争処理条項)における「治外法権」「不平等条約」という反対派の主張は正しく無い」とのご指摘と、「法的制度の整わない発展途上国への投資や貿易ではぜひ必要である」、「既に我が国はフイリッピンを除く25カ国超の国々とISD条項をむすんでおり、一度も訴えられた例が無いこと」について
3点に亘って反論したい。
① 我が国で投資家との紛争が起きたなら、我が国の司法手続きで争う事が主権国家の大前提であって、ISD条項が、我が国の司法手続きをする必要も無く(つまり、無視して)、第三者仲裁機関に提訴を認めるのは、わが国の主権に優先する権利を認めることであり、「国家主権の否定或いは侵害」である
② 「法的制度の整わない発展途上国への投資や貿易に必要」であるからと云って、相手国の主権を無視しても良いと云うことにならない
③ 「一度も訴えられた例が無い」ことが、このTPPにおいても、同様に、訴えられない事の担保にならないのも、同様に、自明である。まして、このTPPが実質上の日米二国間協定と同様であるならば、尚の事、訴訟頻発の予想されるのは、過去におけるアメリカの対カナダ、対メキシコへのたび重なる訴訟状況、更には対日要望書に沿った内容であるTPPの自由化項目からも明らかであると云わざるを得ません。


第三に、「豪州はISD条項に反対しており、その理由は先進国には整った裁判制度があるからであって、「治外法権」だから反対している訳では無い。又、TPPの協議に参加してISD条項の導入に我が国が反対するのなら、豪州と連携して反対すればいいはずである」について、

投資家対国家の紛争解決Wikipediaでは、オーストラリア政府の対応について、この様に述べている。すなわち、
『2011年、オーストラリアのギラード政府は、途上国との間で締結する貿易協定に、投資家・国家間の紛争解決条項を入れる運用は今後行わないと発表した。発表の内容は次のとおりである。「法の下において外国企業と国内企業は同等に取り扱われるべきであるとの内国民待遇の原則は支持する。しかしながら、我々政府は、外国企業に対して国内企業が有する権利と比べてより手厚い法的権利を付与するような条項は支持しない。また、我々政府は、それが国内企業と外国企業を差別するようなものでない限り、社会、環境、経済分野に係る法規を定立するオーストラリア政府の権限を制限するような条項も支持しない。政府は、たばこ製品に健康に関わる警告文を付すか、又は無地のパッケージにする等の要件を課すことが可能であり、また、医薬品給付制度を継続していく権限も有している。これらに対して制約を課すような条項は認めていないし、今後認めることもない。過去において、オーストラリア政府は、オーストラリア産業界の要請を受けて、貿易協定を途上国との間で締結するにあたり、投資家と国家間の紛争解決手続条項を規定しようとしてきた。ギラード政府は、かかる運用を今後行わない。オーストラリアの企業が取引相手国のソブリンリスクを懸念するのであれば、それを踏まえて、企業において当該国への投資を行うべきか否かを自ら評価し判断する必要があるだろう。オーストラリアに投資する外国企業は、国内企業と同等の法的保護を受ける権利を有している。しかし、ギラード政府は、投資家-国家間紛争解決条項を通じて、外国企業により大きな権利を与えることはない』
(赤字は筆者が作用  投資家対国家の紛争解決Wikipediaより)

「法規を定立するオーストラリア政府の権限」とは、オーストラリア政府の主権であります。又、「(医薬品給付)制度を継続していく権限」とは、オーストラリア政府の行なう規制と云う主権行為に他なりません。
つまり、「治外法権」だから反対しているのである。

又、「TPPの協議に参加してISD条項の導入に我が国が反対するのなら、豪州と連携して反対すればいい」とは、巧妙なレトリックであって「ISD条項の導入に我が国が反対するのなら、TPPの協議に参加して豪州と連携して反対すればいい」と云うことであり、まず、「参加しなさい」と述べているに等しい。貴議員はこの様なレトリックを承知の上で御使用されている。

ISD条項の導入に反対するのなら、そもそも、「参加しない」ことが「ISD条項と云う不当な主権侵害」を避けることの出来る、一番簡便で、誰からも文句の出ない穏やかな方法であるのは、自明である。


第四に、「メチルマンガン化合物(MMT)を製造している米国現地子会社が、カナダ連邦政府を訴えたこと、その経過を縷々お述べになっている」ことについて、

貴議員はその経過について詳細に述べられています。しかし、その事実経過が重要なのではありません。繰り返しになりますが、紛争の発生したその当該国の司法手続きをすることも無く(つまり、無視して)、投資家(グローバル企業)に対し第三者仲裁機関への提訴を認めること自体が、当該国の主権に優越する権利をその投資家に認めることになるのであります。そこまで自国の国家主権を軽んじるとは、どういうことでありましょうか。カナダ政府のした事(主権行為)が不服だからと云って、カナダ政府の国家主権を無視して良い訳がありません。

つまり、ISD条項とは、投資家(グローバル企業)の権利を守るためには、紛争国の国家主権を無視する権利を投資家(グローバル企業)に与えると云うことであります。


第五に、「(なぜ、この様な歪曲した事実を垂れ流しているのか)自由貿易に反対する勢力があるのではないか」、「何よりも大切なものは…『自由貿易』であって、戦前のABCD包囲網による輸出制限が改選の原因」、「レアアース等輸出制限行為の禁止はTPPの議論項目であって安全保障上の大きな前進となる」について、

これも前述の様に、自由貿易に反対している訳ではありません。TPPという協定に反対しているのであります。又、ABCD包囲網とは市場の囲い込みであって究極のブロック経済でありました。TPPも、まさに、市場の囲い込みであることは間違いありません。TPP反対派は自由貿易反対派だからその主張に正当性が無いのではなく、それどころか、むしろ、TPPそのものが一種のブロック経済(排他的経済圏)であることは、識者のみならず、小生の様な一般大衆を含めて周知の事実であるからこそ、TPPに対して懐疑的になるのではないでしょうか。
又、戦略物資の輸出制限は明確なWTO違反であって、必ずしもTPPで無ければ解決し難いと云うものではありません。現に多国間における外交交渉・圧力によって解決している処であります。


縷々申し述べて参りました。失礼の段お詫び致します。私は反民主党の立場でありますが、貴議員が、党の見解がどうであれ、自らの信念でご発言をなさっているお姿を拝見し、大変素晴らしいなと思っている次第です。どうか、今後とも、益々ご活躍なさってください。

                             以上

teyakuno:

なぜメキシコの地下水汚染の事案は列挙されないのですか?
同等に不都合な事案も挙げて検討するべきではないのでしょうか?

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このページについて

このページは「金子洋一「エコノミスト・ブログ」」の記事のひとつです。

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金子洋一プロフィール


現在、民主党参議院議員(神奈川県選出)、生活支援カウンセリング協会理事長。

これまでに、経済企画庁(現・内閣府)
OECD科学技術産業局エコノミスト
青山学院大学大学院国際マネジメント研究科兼任講師などを経る。

専門は、マクロ経済(景気)と消費者問題。詳細なプロフィールはこちら

 なお、このブログの記事内で意見にわたる部分は、私の個人的見解です。いただいたメッセージは私本人が必ず読ませていただき、今後の政策作りの参考にさせていただきます。直接ご返事を差し上げる場合もありますので、できればお名前とメールアドレスをお書きください。

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