純粋和牛:「ブランド」の始祖復興へ 宮崎の農家が奮起
毎日新聞 2013年01月03日 11時32分(最終更新 01月03日 12時24分)
全国のブランド和牛の始祖とされる牛「竹の谷蔓(たにづる)」。その復興に、10年の口蹄疫(こうていえき)で大きな被害を受けた宮崎県川南町の和牛肥育農家、森木清美さん(64)が仲間と共に取り組み、今年2月にも第1号の牛を出荷する。竹の谷蔓は外来種との交配がない希少な「純血種」とされているため、専門家も注目している。
農林省の外郭団体「家畜改良センター」(福島県)によると、「蔓」とは江戸時代後期、血統の近い牛を掛け合わせて開発された牛群の呼称。ツルに生える植物の様に、親と子の体つきが極めて近くなるため、この名がついた。明治以降、各地の「蔓」は肉量を増やすため外来種との交配が進んだが、体が元々大きかった竹の谷蔓だけが純血種として残ったという。しかし、その数は年々減り、現在は原産地に近い岡山県新見(にいみ)市神郷(しんごう)地区で十数頭が飼われているだけだ。
口蹄疫で全76頭を殺処分された森木さんは、再開の途上にあった11年初め、知人の紹介で神郷地区を訪れ、竹の谷蔓に巡り合った。肉質は、霜降りが重宝される和牛では珍しく脂身の少ない赤身。しかし一口味わった森木さんは「豊かな肉本来のうまみがある。目指していた肉だ」とほれ込んだ。
雪解けを待って、11年春に子牛5頭を購入。順調に育ち、2月にも1頭目を食肉として売り出せる見通しだ。
同時に、森木さんは宮崎の和牛農家仲間の河野和央(かずひさ)さん(64)と、竹の谷蔓の繁殖にも取り組む。山間地にある神郷の畜産業は高齢化などで衰退が著しいため、肉の売り上げから竹の谷蔓復興基金を積み立てる計画も進める。森木さんは「商売のためでなく、純粋和牛を守るためにやっている。最終的には岡山に竹の谷蔓を戻したい」と語る。
一方、家畜改良センターは、在来種としての竹の谷蔓に注目し、今年から専門チームで遺伝子レベルの研究を始める。センターの酒井豊理事は「竹の谷蔓は古来の特徴を持ったままの牛。宮崎の取り組みは非常に楽しみだ」と話している。【門田陽介】