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香川県立高松工芸高校1年生214人の皆さんへ。
現代社会の授業で「社会保障と税の一体改革」に関する社説に感想文を書いていただき、ありがとうございました。
おととし12月28日付の「オトナはわかってる?」という社説でした。日本の政府が大きな借金をしていることを、そのツケを回される将来世代になりかわって嘆く内容でした。
返事を出したら、また一人ひとりが感想を書いてくれて。
とてもうれしく思いました。この交流を通して、大きな希望を見いだせたからです。
■「お任せ」はもう限界
こんな一文がありました。
《大人は自分勝手だと文句をいうだけでなく「今の大人ができなかったこと」を考えることが、私たちにとって大切だ》
今の大人ができなかったことって、何だろう。
社会学者の宮台真司さんの言葉がヒントになります。
「日本は、引き受けて考える社会でなく、任せて文句を言う社会」
具体的には、こんな考え方じゃないだろうか。
――社会保障と税なんて難しい問題は、官僚や政治家が決めること。普通の私たちは文句をいうことしかできない。
――選挙で政治家に任せた。最後はエライ人がつじつまを合わせてくれるんでしょ。
日本では、税金で集めるお金より、国が使ったり配ったりするお金が多いので、つじつま合わせに借金をしてきました。
でも、借金はいつまでも続けられない。消費税とか、税金を増やすのも簡単じゃない。
一方で、介護や年金など社会保障を必要とするお年寄りはどんどん多くなる。
「お任せ」は、もう限界みたい。そこから脱するために、まず社会保障がどうやって成り立つのか、考えてみる。
■つながりをつくる
君たちが暮らすご近所を見回してみると、孤独な人が増えてませんか?
お年寄り。体力がなくなって外出が難しくなる。記憶力が衰え、周りのことがわからなくなると悲しいだろう。
若者。仕事や学校をやめてしまうと、つきあいが減る。いじめられて、引きこもったりしたら、孤独だろう。
子育て中の親。家の中で、子どもとだけ過ごしていたら寂しく、イライラすることもある。
人とのつながりがなくなるのが一番、不幸せじゃないかな。 そこをなんとかする。人と人のつながりをつくっていく。
《ああ、そんなことでいいんだ。ふだんからできそう》
《一つひとつ直していけば、幸せな人が増えるのでは》
《自分の身のまわりも国の一部なんだ、と気づきました》
君たちが感想文に書いた、こんな「支え合いの思い」。これこそ、社会保障の土台です。
支え合いが必要だと思えば、まず自分たちやご近所で、できることをやる。専門的な医療や介護は、プロにやってもらうため、お金を出し合う。
ところが、オトナになると、損得勘定に敏感になる。
――自分は生活が苦しい。お金は、もっと余裕がある人に払ってもらいたい。
――こんなに困ってるのだから、もっと助けてほしい。
――支え合いに「ただ乗り」している人を甘やかすな。
対立する意見があり、あちらが立てば、こちらが立たず。この調整が難しい。
■みんなに出番がある
《テレビに出る政治家は、自分の意見を言い始めたら、人の意見をまったく聞かない》
なるほど、そうだ。政治とは本来、対立する意見を調整する仕事なのにね。
――みなさんの負担を増やさず、社会保障をよくします。
そういう政治家もいる。
でも、そんな夢のような解決策はありっこない。
お任せをやめ、自分たちに引きつけて、よく考え、話し合うしか道はない。自分が「こうしたい」と思っても、相手のことを考えてゆずったり……。
人の話を聞いて、黙々と行動する人も欠かせない。
《私は主張するのが苦手で、他の人の意見を聞いてばかりいるけど、大切なことは言わないといけないのかな》
そう。大切だと思うことは勇気を出して言ってみる。
みんなに「出番」がある。腕まくりして取り組み、話し合うなかから、「問題解決」が色々な場所で起こってくる。
《政治家だって国を悪くしようとしている人はいないと思います》
確かにね。そんなぎりぎりの信頼感を胸におさめて、まず自分ができることを引き受ける。
支え合いの力と思いを身につけた君たちが有権者になれば、政治もきっとよくなるはずだ。政治は私たちの周りで起きていることの鏡なのだから。
おおいに期待しています。