私たちは、栃木県内に住む一般市民です。震災と原発のことを機に情報交換などをするなかで、地元放送局である株式会社とちぎテレビ(以下、とちぎテレビと略)による以下の放送について、やはり地元住民としてもこれを看過すべきではないという合意のもと、この放送を行ったとちぎテレビに対して、まず、経緯と現状について、公に説明してくださるように求めることから行動することといたしました。
『全然問題ありません!稲博士の緊急提言』 http://www.youtube.com/watch?v=aKSpY8nT4PA』
稲博士の主張の内容については、すでにインターネット上などで様々な方がその主張の問題点などを指摘しておられるところですが、そもそも、ではなぜ、その主張のその方を選んで連れてきて、公共の電波を使って放送したのか、というところにもまた、大きな問題があると私たちは考えています。
つまり、世には諸説あり、その中には質のよいものと質の悪いものがあるわけですが、情報源を選んで市民に情報提供したのはとちぎテレビであるからです。
株式会社とちぎテレビは、栃木県が関わる第三セクター(行政と民間双方からの出資の半官半民組織)であり、主要株主は、栃木県、栃木県市長会(14市)、栃木県町村会(13町)、足利銀行、下野新聞社、北関東綜合警備保障です。栃木県唯一の県域テレビ局であり、1995年の阪神淡路大震災をきっかけとして1996年に開局構想が浮上して、当時の知事であった渡辺文雄氏が出資の呼びかけをするなど行政主導で1999年に開局されました。株式会社ではありますが完全な民間ではない第三セクターで、「民放」ではなく、「半官半民放送局」であり、当然ながら高い公益性が求められます。
もともと、震災をきっかけとしたセーフティネットとしての地域内情報インフラとしての役割がコンセプトにあって設立された経緯からも、3月11日からの震災後は、災害時など非常時における地域情報の周知という設立当初からの使命を果たすべき、重要な局面にありました。
このような時期において、税金の出資を受けている第三セクター放送局が、とくに県民の生命の安全に関わる情報提供に関わる事案についてどのような放送を行ったのかは非常に重要なことであり、仮に、その提供情報が間違っていたとすれば、訂正していただかなければなりません。また、第三セクターである以上、その放送内容については、行政にも責任があります。
私たちが今回、問題としているのは、2011年3月23日のとちぎテレビ放送の稲博士の主張についてです。
これは、東京電力の福島第一原発の事故による影響があるのかないのか、どのような対応をすればいいのかという報道で、緊急時対応に関する専門家によるレクチャーであり、すなわち命に関わる重要な情報提供でありました。
この放送において、すでに周知の通り、稲博士は、国による注意の呼びかけすら否定して、今回の原子力発電所の事故による健康への影響は今も、そしてこの先もまったくないので、安心して外で子どもを遊ばせてもよいし、なにも心配することはないと断言しています。ゲストは稲博士だけでしたから、反論もなく、放送局側からの制止もおこなわれませんでした。(なお、その後、とちぎテレビ報道部長の沖杉光美氏におたずねしたところ、訂正放送なども行われていないということでした。)
いうまでもなく、放射能による健康被害は住民の生命に関わることがらであり、その情報は、地域住民の生命の安全を左右しかねない重要な情報です。
であるからこそ、このことについて、とちぎテレビの現在の見解や今後の対応について正式に伺わなければならないと思いました。また、それは私たちの会だけが知っていればよい問題ではなく、県民全体、ひいては国民全体の問題でもあるので、公開の説明会を開いて説明をしていただきたい、という申し入れをさせていただいた次第です。
もちろん、私たちの行動の背景には、私たちもまた、市民としての責任を果たすべきであるという考えがありました。
マスメディアは、公の放送網を使って、膨大な数の人たちに、一気に情報を流布する力を持っています。マスメディアは情報を取捨選択し、一般市民はマスメディアによって恣意的に選ばれた情報をおおむね信じて、これをおおいに参考として行動することが多いのです。とくに、中高年や子どもにはマスメディア以外の情報源が非常にとぼしいのが現状です。
このようななか、市民の側にも、マスメディアによって流される情報をきちんと検証し、間違ったことがあれば間違っていると指摘し、ともに改善策をさぐり、よりよい情報提供がされるように働きかけ、ともに成長していく義務があるのではないかと思っています。
私たちは、今後、この件に関しては、地道に経緯・経過・問題点・改善策などを検証・研究し、そのプロセスと結果をすべて、公開していく予定です。それが、ささやかながら、次回、なにか地域住民の生命に関わるような重大なことが起きた時、同じ間違いを繰り返さないために地域住民としてできる、私たちの責任であると認識しています。
なお、私たちからの書面による説明会開催の申し入れ(5月8日付)、とちぎテレビからの回答(5月15日付)、その検証のプロセスについては、別紙にてご報告をいたします。
2011年5月16日
原発報道におけるメディアの責任を問う会
代表 荻野夏子