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相棒 Season7:15 密愛

第15話 密愛

右京は大学時代の恩師、
宇佐美悦子が住む長野の別荘地を訪ねた。
悦子はフランス文学の権威で、大学を辞めた後はフランス文学第一人者として有名な人物、
つい最近も成功した女性として雑誌に紹介されていた。

紅茶は切らしているの、といいながら悦子右京にコーヒーを出し、
今日右京を呼んだ理由を語り始めた。


悦子は独身、この立派な別荘に一人で住んでいた。
ある日、何者かに追われ、悲壮感を漂わせながら寒さに震える榊敏郎と出会ったのだ。
何も語らず、ただひたすらに何かにおびえるに、とりあえずの寒さしのぎと、
悦子は物置にしていた離れに住まわせる事にする。

庭掃除、そして買出しと、使用人的に仕事をこなすようになったが、相変わらず
どこの誰とも知れない状況は変わらない。

そして、しばらくして、は毒を飲んで死んだ。

毒薬シアルリンの入った瓶は机の上に置いてあり、の指紋だけ。
部屋は内側から鍵が掛けられ、いわゆる密室状態。
長野県警察は自殺と断定したようだ。

の身元を示すものは運転免許証ただ一つ。荼毘に付され、骨となったをどうすればいいか
悦子は悩んだ末、大学時代の教え子だった右京に相談したのだ。

身元を探る数少ない情報は、がかつて都内の宝石店を経営していた事。
人のいいは友人に言われるがまま保証人になってしまい、結果借金取りから
追われるようになったという事。宝石店も失い、
妻は心労がたたって心臓発作で亡くなった事。
夜逃げをするも借金取りに捕まってリンチを受け、その途中で逃げ出してきたのだと、
榊敏郎は話していたという。

悦子に語っていた通り、には他に親類もなく、右京の捜査でも結局誰一人の関係者を
見つけることは出来なかった。


最初に悦子の家を訪ねてから2日後、右京は再び別荘を訪ねた。
何も得るものがなかったという右京の報告に、仕方ないわねと納得する悦子
しかし右京は、が生前住んでいた離れから見つけた盗聴器の仕込まれた万年筆、
ベッドの上のクッションの下から見つかった、カタカナで手書きのルビがふられた
フランス語詩集、そして2日前にここを訪ねた際に、庭に捨てられていた
ハーブティーを元に、一つの仮説を披露する。


******************
何者から逃れるように、一人暮らしの女性の家に転がり込んだある男性(ジュリアン/Julien)
彼は次第にその女性(キャテリーヌ/Catherine)に惹かれる。
キャテリーヌは聡明で冷静な大人の女性、ジュリアンよりはだいぶ年上だが
すれ違う学生が皆振り返った若き日の美貌は衰えていない、そしてフランス語が堪能。
そんな彼女の気を引こうと、ジュリアンは必死にフランス語の愛の詩集を覚える。
辞書で調べながらカタカナでルビを打ち、たどたどしくも執拗に、愛の言葉と唱え続ける
ジュリアン
キャテリーヌにとってジュリアンは決して、その眼鏡にかなうような人物ではない。
しかし
ジュリアンの素朴ながらも熱い思いに次第にキャテリーヌは心のバリアを解き、
二人の距離は少しずつ近づいていく。
ところどころ修正されたルビは恐らく、キャテリーヌが訂正してくれた箇所だろう。

瓶に"The de l'herbe Un melenge Etsuko.(エツコブレンド)"と手書きで記された
ハーブティーは、ジュリアンキャテリーヌの為に
特別にブレンドしたものだったのだろう。スペル間違いがそれを物語る。
一つまみ持ち帰った右京が鑑識に依頼した結果、内容は
カモミール/ローズマリー/セージ/マリーゴールド
味はいろいろな味の混ざり合った、決して美味しいとはいえない代物だった。
だがきっとこれを飲みながら二人はどんどんその距離を縮めていったのだろう。
むしろキャテリーヌの方が積極的にジュリアンを求めるようになっていく。
そして恋の炎は女性を嫉妬という疑心に狂わせる。


******************

ここまできて悦子は、右京の仮説に矛盾点を見出す。
冷静で頭のいい、大人の女性キャテリーヌ、そんなイメージの彼女がどうしていくら
愛の詩を捧げられたからといって
どこの馬の骨とも分からぬジュリアンにそう簡単に心を許したのだろうか。
そして我を忘れて盗聴器を仕掛けるほどのめりこむなど、ありえるのだろうか。

右京はその疑問にも、更なる仮説を用意していた。

******************

キャテリーヌはフランス文学の研究者で、知性と気品にあふれ、かつて教鞭をとっていた
大学では男女問わず、学生たちのあこがれの的だった。
しかし彼女はこれまで本当の愛を知らない、うぶな乙女だった。
もしかしたら何らかのコンプレックスを体に抱え、男性と肌を重ね合わせる事はもちろん、
恋をすることさえできない人生を送ってきたのではないだろうか。
愛だの恋だのを論じるフランス文学に傾倒していったのも、あるいは虚構の世界でしか、
それを経験することができないからだったのではないか。

そんな彼女をジュリアンは真正面から受け止めてくれた。
彼女のコンプレックスである体のアザをもいとおしんでくれたジュリアンとの甘い日々。
キャテリーヌはどんどん幸せを感じる中で、これまで愛を知らない日々があまりにも長く
続いた事からの猜疑心から、つい、ジュリアンの愛情を確かめたくなった。
そして彼女は、万年筆に仕込んだ盗聴器で、彼の本心を知る事となる。

ある日街中でキャテリーヌは、ジュリアンが男と喫茶店で話している姿を目撃する。
相手はかつてジュリアンを追って屋敷まで押しかけてきた取立て屋の男だ。
顔を寄せ合った話す二人の様子、キャテリーヌジュリアンが胸ポケットに入れた盗聴器で
二人の会話を聞いてしまう・・・・。

「どうですか、うまくいきそうですか・・・」
「ああ、もう落ちてる。すぐに結婚まで持っていくって。」
「シアルリンはどのくらい飲ませました?」
「だいぶ飲ませたよ。持ち歩いて割っちまうといけないから部屋の引き出しの
 中に置いてある。」
「ぽっくりいくまでせいぜい相手してやって下さい。
 若いの欲しい時は、俺が都合つけますから。」


信じられない思いで家に戻ったキャテリーヌは、ジュリアンの言った通りの場所で
毒薬を発見する。

今までキャテリーヌのためにと入れてくれたハーブティー、それに毒を仕込んで毎日少しずつ
飲ませていたのだ。そして"エツコブレンド"のあの味も香りも分からない雑多なブレンドは、
毒・シアルリンの混入をごまかす為だと気付く。
女性成功者として雑誌に取り上げられ、高級住宅地で一人暮らしの女性、年も若くない。
格好のターゲットとしてジュリアンは最初からキャテリーヌの財産目当てに近づいたのだ。

これまでの愛が全て偽りだったと知ったキャテリーヌは、ジュリアンの隠していた毒を
ジュリアンに飲ませ、殺した。


******************
右京の捜査によると、かつてが妻と経営していた宝石店、その向かいでふとん店を営む
女性は、の裏にある悪人の姿を知っていた。
"羊の顔をかぶった悪党"
は優しく妻の体を気遣い毎日お茶を入れていたが、ある日そのの手が
何かを湯飲みに混入させている姿を目撃する。
一度気になりだすとその行動が頻繁に行われていることに気付く。
そしてほどなく、どんどん体調が悪くなる妻、ついに倒れたまま帰らぬ人となってしまった。

いたわる振りをして妻を毒殺し、その宝石店を売って金を手に入れたは、
次のターゲットに悦子を選び、また毒殺しようとした。
裏切られた事を知った悦子は反対に、その毒でを殺害した。
そしてその事件は自殺として処理され、悦子の殺人事件は知られる事なく
闇に葬られるはずだった。


しかし謎はまだ残されている。
なぜ部屋は密室になっていたのか。
そして、
なぜ悦子右京を呼んだのか。



悦子が死んだ後、すぐに病院で精密検査を受けた。
そして知ったのだ、毒など盛られていなかった事を・・・・。

最初悦子の財産目当てにが近づいたのは間違いないだろう。
フランス語が堪能な悦子に、フランス語を使って巧みに取り入ったのも
の計画のうちの一つだったはずだ。

しかしは、悦子を本気で愛してしまった。
心から悦子を愛おしいと思い、どうしても計画を実行に移せずにいた。
そして悦子が自分に毒を持った事を知り、同時に自らの計画に
悦子が気づいてしまったことも悟る。

部屋に鍵をかけたのは自身だった。
薄れ行く意識の中で必死には、毒薬の瓶を拭き自分の指紋だけを残し、
更に部屋に鍵をかけ、あたかも自殺のように見せかけようとしたのだ。

全ては悦子が犯人であると知られぬ為・・・・・・。
最後の最後、命消え行くその寸前まで、悦子への愛だけを糧にしたのだ。

「男女の愛においては、どんな信じられないことも起こりえるのではないでしょうか。
 聡明で冷静な女性でさえ、激情にかられ我を失ってしまうのですから・・・。」


が用意していた"エツコブレンド"・・・・。
その中に含まれるハーブは全て美肌効果があるといわれるものだ。
悦子のコンプレックスを少しでも解消させようと、"エツコブレンド"を作ったのだった。
このブレンドの雑多な味は、毒をごまかすためではなく、恋人を想う、愛の結晶・・・。

良心の呵責に苛まれ、真実が闇に葬られることに罪悪感を感じている、
だから自分を呼んだのだろう、そう言って右京は自首を勧める。

"死者たちが戻ってこなかったからには、いまさら何を生者たちは知りたいのか?
死者たちがもはや黙っていられないからには、生者たちも沈黙を守ってよいものか?"

悦子右京の推理の間違いを、一ヶ所だけ指摘した。

「私があなたを呼んだのは、良心の呵責でも、罪悪感でもない。
 誰かに知って欲しかった。私がこんなに愛されたっていうことを。
 自分の命をかけてまでの愛をもらったということを・・・。」


*************
出典協力
ジャン・タルデュー「空席」(安藤元雄訳):岩波文庫「フランス名詩選」
撮影協力
駿河台大学
財団法人日本ナショナルトラスト
旧安田楠雄邸庭園
(有)カワヒト
あさひや

ジャンル:
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