人口負荷社会(日経プレミアシリーズ)2013年の日本経済を長期的視野から考えてみよう。市場は安倍政権のバブル政策を見越して円安・ドル・ユーロ高に激しく動いているが、実体経済が上向くかどうかは別の問題だ。潜在成長率が上がらないのに「期待」ばかり上がると、その乖離が大きくなり、最終的には実態に合わせて期待が修正される。それがバブルの崩壊である。

では潜在成長率を制約する条件は何だろうか。大きくわけると、労働人口生産性である(資本は過剰なので制約条件にならない)。このうち日本に特徴的なのは、年率1%近い率で労働人口が急速に減少していることだ。

安倍首相は「人口が減少してもデフレでない国はたくさんある」などと人口減少の影響を否定しているが、これは浜田宏一氏の受け売りだろう。彼は「人口減はインフレの原因になってもデフレの要因にはならない」とまで書いているが、意味不明だ。

このように人口要因を否定して、日銀がすべてを解決できるという話はリフレ派によくあるが、小峰隆夫氏もいうようにナンセンスである。人口減少は経済全体にかかる税金のような負荷であり、これを無視して経済政策を考えることはできない。これを彼は人口オーナスと呼ぶ。


浜田氏が無視しているのは、日本では単に人口が減るだけではなく、労働人口が急減していることだ。上の図のように、今でも労働人口の半分を超えている従属人口(労働しない人口)は、2030年には労働人口の7割に達し、2050年には9割を超える。ほぼ働く人ひとりで働かない人ひとりを養うことになる。

もう一つは、現役世代と高齢者の資産格差である。今でも次の図のように個人金融資産の6割を60歳以上が保有しているが、40代以下は公的年金が負担超になっているので、この格差は今後ますます開く。20代以下では非正社員が労働人口の半数を超えているので、所得格差も開く。老人は消費しないので個人消費が低迷し、未来への投資もしないので金利が低下する。


この人口オーナス(人口減少と高齢化と労働人口減少)が、日本経済の長期的停滞の最大の原因なので、必要なのはこの負荷を軽減する政策である。その一つは女性の就労や移民の受け入れで労働人口を増やすことだが、もっと根本的な問題は労働生産性の向上である。

雇用規制を強化して高齢者の雇用を守る家父長的な政策は、短期的な痛みを止めることはできるかもしれないが、成長産業への労働移動をさまたげて生産性を低下させ、世代間格差を拡大する。衰退産業に税金を投入する先送り政策も、生産性を低下させて日本経済をますます衰退させる。

人口が減少しても成長を維持している国はあるが、それは一人あたり成長率(労働生産性上昇率)が人口減少率を上回っているからだ。日本のように労働人口が急速に減少する国で労働生産性が上がらなければ、経済が停滞してデフレになるのは算術的に明らかだ。このような潜在成長率の低下を、日銀がお金を配れば解決できるというのは、リフレ派しか信じていないお伽話である。

追記:小峰氏からの指摘で数字を訂正した。


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