創造的な「IT作品」を生み出した学生のみなさん、地域や企業で活躍する学生の皆さんなど、ITジュニアの「今」を伝える当協会発のコーナーです。
19回目を迎えた今大会は、初日の11日は晴れ・最高気温25℃、2日目の12日も晴れで21℃と、爽やかな秋日和に恵まれたが、会場となったいわき明星大学は全国から参集した高専生の熱気で満ちあふれた。
初日は課題・自由両部門ともプレゼンテーションとその審査、翌日にデモンストレーションの審査が行われた。今回の課題部門のテーマは「ゆとりを生み出すコンピュータ」。 幅広い解釈が可能なテーマであったことから、各チームとも「ゆとり」をどのように解釈して作品を創造したか、その意義付けに苦心の跡がうかがえたが、結果的には例年になくバラエティに富んだ作品が出展された。
プレゼンとデモに加え、操作マニュアルの適正さとプログラミングリストをチェックする厳正な審査の結果、課題部門では米子高専の「BOOK・ON」が最優秀賞(文部科学大臣賞・情報処理学会若手奨励賞)の栄誉に輝いた。
この作品は、円形のバーコードを印刷した本型入力装置(白紙の本、またはノート)をぱらぱらとめくることによって、PCからページ番号情報を取り出し,文書ファイルや画像ファイルの該当ページを表示するもの。
子供やお年寄りにPCを扱う上でゆとりを持たせたいという発想から考案されたシステムで、ページ番号情報を取り出すために4本の同心円から構成される円形バーコード(サークルコードと命名)を独自に開発し、このサークルコードをPCディスプレイに設置したUSBカメラによって読み取るという工夫を凝らした。
実演でもページ数の多い文書の中身を探すときに、ページの検索や全体の見通しについてキーボードやマウスといったインタフェースに比べて、快適な操作性が得られていた。
卒業研究で取り組む5年生2人に3年生の有志が加わった混成チームの米子高専は、「受賞はまったく予想外でした。現段階では文書・画像のビューワーですが、審査員の先生方から、もっと手を加えれば漫画が読める電子ブックになるとか、発展性や可能性を高く評価されたことが、この結果につながったと思います」と喜びを語った。
【写真上:福島高専の遠藤周平君が選手宣誓】
【写真下:審査員の厳しい目が光るプレゼン会場】
◆優秀賞は僅差で弓削商船
長野高専など4校に特別賞
課題部門の優秀賞は弓削商船高専の「Heartful Alarm」が受賞した。この作品は、心機能異常検知対応の自動緊急通報システム。
いつ、どんな時に発作が起こるかが分からない心疾患の患者が安心して暮らせるように携帯型端末で心臓の異常を監視し、緊急時に早急に各機関へと通報するシステムで、脈拍・心電波形の計測と解析、異常を検知した場合の通知(本人・近隣・119番等)機能、心肺蘇生法の支援機能などを備えている。
惜しくも2年連続での最優秀賞は逃したが、米子高専の「BOOK・ON」とは最後までしのぎを削った。
また、特別賞は長野高専の「Space Flow」(フロー理論に基づくゆとり体験を実現しつつ、Web上の情報を収集するブラウザシステム)、詫間電波高専の「さんぽでまんぽ」(日常生活の歩行データを用いて、四国一周八十八ヶ所札所を巡礼するバーチャル旅ゲーム)、徳山高専の「ボクとどうぶつのひととき」(動物=イルカと気軽にたわむれる場所を提供するシステム)、豊田高専の「足壺機械 あしつぼまっすぅい〜ん」(足つぼマッサージの学習支援のためのシミュレーター)の4作品が受賞した。
高専プロコンは発足当初から国際交流を目的の一つとして掲げてきたが、今回も海外勢として大連東軟情報学院(中国)、ハノイ国家大学(ベトナム)、モンゴル国立大学(モンゴル)の3校が参加。とりわけ東軟情報学院チームは「Fishing Time」というリール竿を使った釣り体験ゲームを出展し、バーチャル技術に強いところをアピールした。
なお、大連東軟情報学院には特別賞(技術賞)、ハノイ国家大学校とモンゴル国立大学にも特別賞(国際交流賞)が授与された。
【写真上:熱気が溢れるデモ会場(詫間電波高専のブース)】
【写真下:東軟情報学院(中国)はバーチャルゲームを出展】
◆もっと設計制作の意図を伝える工夫がほしい
審査委員長/神沼靖子氏(情報処理学会フェロー)
大会を重ねるごとに作品のアイデアや完成度が上がっているように見受けられるのは喜ばしいが、皆さんには提出原稿、プログラムリスト、実際のデモについて、いくつか要望したい点がある。それは、自分たちが作った成果物を第三者に伝えることに、もっと留意してほしいということだ。
まず、制作や設計の意図が他者に分かるように、システムの仕様やアーキテクチャーを明確に提示してほしい。審査員はそれを見た上でプレゼンを受け、実際のデモで適切な成果物になっているかどうかを確認・判断するわけで、皆さんには会社が取引先に提示するような気持ちで、われわれに制作や設計の意図を伝えてほしいと望む。
ソースコードについては、利用したツールのコードは含めずに自分たちが書いたプログラムだけを提出すればいいが、プログラムの中にきちんとコメントを入れて置くことが望ましい。また、共同でプログラムを制作するに当たってチームワークが重要なことは言うまでもないが、今大会ではそのチームワークのあり方がよく分かる作品が、おおむね好成績を収める結果となった。
最後に、仕上がった作品をテストする際に、どんな点をクリアすれば成果物として十分なのかを考え、テスト項目をしっかり作ってクリアさせてほしい。 審査員一同は、こうした点に留意してもらうことにより、来年はさらに完成度が高く、強くアピールできる作品に出会えるものと期待している。
【写真:閉会式での講評/神沼靖子審査委員長(情報処理学会フェロー)】
(2008年10月23日掲載)
取材・文/写真 佐々木 潔
◇関連動画
【「第19回高専プロコン」ダイジェスト Part 1】
(映像提供:全国高等専門学校プログラミングコンテスト委員会)
【「第19回高専プロコン」ダイジェスト Part 2】
(映像提供:全国高等専門学校プログラミングコンテスト委員会)
『ITジュニアの広場チャンネル@YouTube』
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課題部門は米子高専、自由部門は詫間電波が制す
◇全国高等専門学校プログラミングコンテスト公式ホームページ
コメント (0) | トラックバック (0) 2008年10月23日 18時10分
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