臭いと風

NPO法人災害救助犬協会新潟

臭いが風によって、どのように運ばれるかを知ることはAir Scent Dog を訓練するときにも、実際の捜索現場においても必要なことです。

人は落屑(ラフト)として知られる小さなコーンフレークのような形の死んだ皮膚細胞を、体から絶え間なく落としています。皮膚表面だけでなく消化管、呼吸器からの細胞の排泄も同じように起こっています。これは、1分間に約4万個とも言われています。ラフトはそれぞれが、バクテリアを付着させており、バクテリアの分解過程で生じるVapor(蒸気)が、そのひと特有の臭気を出します。これが訓練された犬が探すことになる臭いです。

これらのラフトは空気や風の流れに舞い上がり飛び散り、運ばれます。このラフトと蒸気は、臭いの源(遭難者)から、三角錐(セント・コーン)の形で流れ運ばれます。源に近づくに従って、範囲は狭くラフトと蒸気の密度は濃くなります。逆に、距離が離れるに従って、幅は広がりラフトと蒸気の数は少なくなり臭いは薄くなります。訓練された犬は、開けたフールドでは臭いの内側や外側をジグザグに、あるいは前後に移動し、まさしく臭いの三角錐(セントコーン)で作業しているのをはっきり見ることができます。

臭いの動き
臭いは、どんなにかすかなものであろうと、空気の流れにのって動きます。あるエリアの捜索をより効果的に行うために、この概念はハンドラーが単純で容易く覚えておけるルールとして有効です。どんなに単純化されたルールを適用する場合でも、決していつも同じケースはありません。しかし、それにもかかわらず、あなたが犬の行動を判断しながら、異なった状況でより効果的に作業するために役立つ、臭いの動きのルールがあります。

1)天気予報で、与えられたエリアの風向きや風速についての情報が得られます。

2)空気は夜に下降し、日中に上昇します。しかし、これは一般的なルールとして当てはまるということであって大気の法則がこれを説明しています。一方で、このパターンが強く短時間におこってしまう場合があります。早朝や夕暮れ直前頃の移行期には、空気が丘を上り、それから下りてきて、また上って下りてくる「呼吸」と呼ばれるひどいコンディションになります。(犬:(臭いを)取った!見失った!取った!見失った!)

3)空気は夕方には水辺に向かい、朝には離れて行くように動きます。これは非常に強い力で、ほとんど変わりません。ほんの少しの水であっても、大きな熱をつかまえる力があり、この状態が起こります

4)捜索は夜の方が犬が臭いを取るには有利です。日が昇ると空気はどんどん上昇して、臭いが取りやすい条件の時間は短時間です。地表温度が下降すると、空気の動きを減らすことで安定をもたらし、臭いを取るにはよいコンディションになります。

局所的な風の変化
 1.気温による変化
冷たい空気は丘を下り、暖かい空気は上昇して高い場所に集まります。水によく似ています。尾根は朝にまず温められ、谷から温められた風が上ってきます

 2.円錐化
     臭いは風下に向かって広がり、臭いの円錐を作ります。

 3.舞い上がる風

 4.環状の風(looping)
環状の風は、無風のときに起こります。臭いは遭難者の真上に持ち上げられ10メートル以上も運ばれて再び落ちてきます。犬は反応を見せますが、遭難者に近づくと臭いを失って、また臭いのある遭難者から離れた位置にもどり反応を示します。犬がこのようなナチュラルアラートを出したエリアは丁寧に再チェックする必要があります。

 5.扇形の風

 6.煙突効果 
空き地や小道など、開けた土地は太陽光線で直接に温められ、熱を含んだ空気はすぐに上にあがります。空気が上昇し、それより気温の低い空気が周囲の林から吹き込み、煙突効果がみられます。この現象は空き地にある木や林によって強められます。冷たい空気を周囲の林から運んできて、温められた空気を細い道に誘導して上に持ち上げ、遠くへ運ぶような、上下が逆になったトンネルのようなものです。このような状況では、人から来る臭いは温められた空気によって持ち上げられ、捜索犬へ届きにくくなります。

 7.谷や排水路での逆風 
太陽で谷の片側が温められることだけによって引き起こされます。他では起こりません。陽の当たっている側から上昇気流がおき、日陰側では下降します。


 8. 水平の渦巻き 
丘や大きな薪の束などのうごかない大きな物の上で、空気が素早く動くことによっておきます。目標に向かって吹く逆風を起こすこともあり、犬を間違った方向へ行かせることもあります。


 9. 吹きだまり 
水と同じように、臭いも低い場所に流れます。狭谷、くぼ地、溝、池などに臭いは集められたり、道路の塀や雪の壁にせき止められて流れます。環状の風と同じように、臭い溜まりは風が真上に持ち上がることが多く、犬が弱いアラートを示します。ハンドラーは地形を考慮に入れて、可能性のある臭いの流れを推測します。臭いは溜まるまでに、長い距離を運ばれることもあるということを心に留めておきます。

 10. 経路化 
風はしばしば狭く何もないところ、たとえば動力供給線、道路、道、小川などに沿って直進します。

11.日没時と日昇時の変化 
晴れた日、異なった高さのある地形では、風が昼と夜の間で変化する時間帯があり、それが日没時と日昇時です。つまり、風が予測できなくなり、弱まるので、臭いを嗅ぐ犬にとってはよくない時間帯になります。したがって、日没時と日昇時は、谷や坂の風が安定し次第動くよう、犬のチームを配置し準備するには、よい時間帯となります。


12,昼間
捜索犬にとって最悪な風のコンディションは、暖かい/暑い日の昼間に起きます。この時、風の動きが最小限になり、温められた風はまっすぐ上に上り、臭いを持っていきます。

13.閉鎖空間の風
閉めきった屋内では、無風と同じ状況が作り出されます。気温が低いときは、人の体温によって臭いは上に上り、天井を這って、また下降したり拡散します。犬は誰もいない壁に向かってアラートしたり、ガラス窓に向かって反応したりすることがあります。これをCold Wall 現象と呼びます。閉鎖空間の臭いの流れは微妙です。犬の動きが激しすぎたり、ハンドラーが犬の近くで歩き回ることによって、臭いの源を発見しにくくしてしまうことがあります。

臭い嗅ぎによいコンディション
地面が濡れているとき
湿度が高いとき
地面よりも空気の気温が低いとき
雪か霜が下りようとしているとき
庭のたき火や煙突の煙が低く流れ、立ち上らないとき
霧かもやの中
耕されていない地面
気温が-1.1〜21.1℃のとき(特に-1.1〜4.4℃)
しめった雪
日陰
よそ風

い嗅ぎに悪いコンディション
地面が乾いているとき
低い湿度
天候が嵐/不安定
空気の温度が地面よりも高いとき
霜が地面から消えようとしているとき
強い風のあるとき
強い雨が降っているとき
強い太陽光
ひどく暑かったり寒かったり

フィールドでの風の流れをみる方法

A. ブタンガスのライター
 1.弱い風の状態では、そう敏感ではありません。

B. 30cm以下の長さの糸くず
 1.非常に敏感です。
2.携帯に不便で、場所がわかりにくくなります。
3.湿度の高い日にはよくありません。
4.夜は見づらくなります。

C.
1.弱い風にも大変敏感です。
2.空気の動きを、一点ではなく柱状に見せます。
 3.散らかります。
 4.湿度の高い日には、あまり効果的ではありません。

D.スモークテスター
1.弱い風にも敏感です
2.屋内でも使えます
3.火気禁止の場所でも使えます
4.狭い空間では刺激臭が気になります
5.高価です

風をチェックするときの注意

  1.風を関知するものを体から離して、体の熱や、自分の体の周囲を流れる障害物の影響を受けないようにします。

 2.いくつかの高さで試して風を読みますが、必ずいつも犬の鼻が嗅ぐ高さもチェックするようにします。

3.そのエリアで、風が植物の影響を受けることを理解しておきます。

a)草などで大地が覆われていると、空気の流れを遅くします。
b)藪や木があると、風のスピードに非常に大きな影響を与え高さと密度によっては乱気流を起こします。