カビ博士の研究室にようこそ!

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画像の説明 カビの基礎知識

梅雨時の悩みといえば、カビ。長雨が続いて乾かない洗濯物に、下駄箱や台所の棚に、洗面所の小物に、押入など思いもよらない所にもカビは生えてきます。
日本の気候はカビと仲良し。発酵食品などにカビを有効利用してきた日本人ですが、家の中ではあまり仲良くしたくないですね。家の中のカビ退治、まず"敵"を知ることからはじめましょう。

画像の説明 カビの生態

カビは自然界の掃除屋です。形あるものを食べて分解(腐敗)していきます。人間にとって、無害か有益なカビがほとんどで、発酵食品、医薬品の製造、環境浄化など幅広く利用されています。中にはカビ毒を産生する有害なカビもいますが、それは何万種類もいるカビのごく一部です。
カビ、酵母、きのこは同じ仲間で、発育のしかたや菌種で呼び分けられています。糸状菌とも真菌ともいい、カビという名は俗称です。

カビはもともと、地表から数10センチまでの腐植を多く含んだ土の中、あるいは土の団粒によって囲まれた細かい空洞に生息しています。そこで育った胞子(植物の種子のようなもの)、あるいは森の朽木に育った胞子は、あるものは自力で破裂することで、またあるものは風の力によって空中に飛散して、わずかな空気の流れに乗って新しい場所に移動していきます。

多くの胞子は、新しい地上に落下しますが、そこは、カビを含め細菌・藻類・原生動物などの微生物たちが、一種の動的平衡状態を保っていて、外部から侵入して自分の類だけを大いに繁殖させようとしても、ほんのわずかなものしか第二の生に入れないように出来ています。
建物の外壁や屋根に落下した胞子も、雨で流されたり風で吹き飛ばされたりして、そこで発芽出来ずに終わってしまうものがほとんどです。

空中浮遊している胞子のうち、空気の流れに乗ったり、居住者の衣類に付着して屋内に侵入して室内の内装材などに取り付いたものや、もともと建材工場で建材に付着していたもの、住宅を作る作業員の手から建材に付着したものなどが、運良く気温や水分に恵まれて、発芽出来、第二の生活を送ることとなります。

バイキン(黴菌)とは文字通り黴(カビ)と細菌を表す言葉ですが、細菌が細胞分裂を繰り返して倍々に増えるのに対して、カビは、細胞が糸状に成育、接合して植物が枝葉を伸ばして成長するように増殖します。環境条件が整うと数日でみるみる成長して塊となって、人の目に触れるようになります。ちょうど、茂った森林を上空からみると点のように見えるのと同じです。このカビの塊を「集落」(コロニー)と専門家は呼びますが、集落が形成されるとカビは勢いを増して、膨大な量の胞子を空気中に飛散します。飛散した胞子は、成育に適した場所で発芽して成長し、再び増殖を繰り返していきます。


画像の説明 カビの発生条件

【~カビを育てる4つの条件~】

  1. 栄 養
    カビは栄養源となるものに寄生して成長します。カビが特に好きなものはデンプン、糖分などの炭水化物やセルロースに富んだものです。またカビ自身からも酵素や酸を出して、水に溶けない金属や繊維を分解して吸収、発育します。ですから、食品、木材、畳、布、皮革、ガラス面、タイル面、コンクリート面など住宅の内外のほとんどのものを栄養源にします。また、鉄や銅などの金属、岩石、電子部品、接着剤なども大好物です。
  1. 温 度
    住宅や建築物に発生するほとんどのカビが、5℃~35℃の範囲で発育します。20℃を超えると急速に活気づき、28℃あたりでは繁殖が一番盛んになります。冷蔵庫の中でも夏の暑い時期に頻繁に扉を開閉すると温度が上がるのでカビには快適。また、低温、高温を好むカビもいるので要注意です。
  1. 水 分
    カビは少しの水分があれば生育します。かなり低い湿度で生育するものもありますが、大部分のカビはジメジメした場所が大好き。湿度が60%を超えるとカビ、ダニが発生しやすくなり、80%を超えるとあっという間に増殖します。
  1. 酸 素
    ほんの少量の酸素があればカビは生育します。つまり地球上のほぼどこででもカビは発生、生育できるということです。


画像の説明 身のまわりのカビ

【変色や汚れに見えても、こんなカビかもしれません】

  • クラドスポリウム(クロカビ)
    浴室のタイル目地の黒い斑点など住宅の内外のいたるところにいる。黒色のカビをみたらほとんどがこのクラドスポリウムと考えて良いほど多い。高温、低温、乾燥にも強い。様々な基材を劣化させたり、胞子が舞いやすくアレルゲンとしてアレルギー疾患の原因にもなる。
  • ペニシリウム(アオカビ)
    地球上のいたるところに広く分布していて、200種以上の種類がある。食品などに繁殖する青カビでみかんの青カビもこの一種。畳や壁にも生える。色は白、グレー、ピンク、黄緑、グリーン、ブルーとさまざま。有効利用として抗生物質のペニシリンを生産するカビ菌として有名。このカビ菌の中には、マイコトキシン(カビ毒)を産生する恐ろしいカビもいて、肝臓ガン、腎臓ガン、肝硬変などをひき起こす。
  • アスペルギルス(コウジカビ)
    自然界に広く分布していて、食品や衣類、畳などに生える。色は白、黒、黄、緑などがある。古くから醸造に利用され、味噌、醤油を作り、また医薬品(ジアスターゼ)や酵素の製造に有効利用されている反面、食べ物を腐らせ、服や革製品にシミをつくる。また、特に注意しなければならないのは、アフラトキシンという肝ガンを引き起こす強いカビ毒を産生する警戒すべき菌種があること。
  • アルテルナリア(ススカビ)
    自然界に広く分布していて、建物の塗装面やビニールクロスなどを汚染するスス状のカビ。プラスチックを好物とし、シャワーカーテン、ホース、ゴム手袋、風呂場のスノコや椅子の裏側などにもよく発生する。クーラー内部のプラスチック面にも発育し、冷気とともに胞子をまき散らすため、喘息の原因にもなる。アレルゲン活性が高く、抗カビ剤などが効きにくい、丈夫で嫌なカビ。
  • トリコデルマ(ツチアオカビ)
    低温(5℃~6℃)でも繁殖するため、発育は適温(28℃)でなくともきわめて早いカビ菌。このため、食品の変質や汚染が早いため注意を要する。繊維質や木材、紙、クロス表面、畳、エアコンや加湿器などから多く検出される。
  • フォーマー
    生育の旺盛な黒褐色、黄褐色のカビ菌。土壌、農産物、食品場、乳製品工場、住宅内の水まわりなどからも多く検出される菌。
  • オーレオバシディウム(黒色酵母)
    自然界に広く分布し、太陽光線にも乾燥にも強いカビ菌。温地の土壌、汚水のほか、住宅内では風呂場、台所、洗濯機のホース、トイレのビニールクロスなど湿気の多いところに発生し、ぬめりを起こしたり、頑固なシミを作る。アルコールに強く、せっけんが好物。また胞子を吸入することにより過敏性肺炎の原因にもなる。
  • フザリウム(アカカビ)
    壁、泥、植物に繁殖するカビで土壌、河川、汚水、空中、室内にも広く分布する。色は赤紫、赤ダイダイ、ピンク、黄、褐色、白などだが、赤っぽい色の色素を出すものもあり、俗名アカカビと呼ばれる。角膜真菌症の原因となる菌。トリコテセンというカビ毒を産生する種類がある。麦などを汚染して麦アカカビ病の原因となったり、飼料藁などに生えて家畜に被害を及ぼすこともある。
  • ムコール(ケカビ)
    水分の多い土壌や河川周辺の植物について生息する。住宅内では風呂場や洗面所、台所の壁からよく検出され、果実や野菜などにもよく発生する。
  • リゾプス(クモノスカビ)
    くもの巣様に生え、水分の多いところに発生しやすい。低温(10℃以下)でも発育する好冷菌である。室内のほこりの中からもよく検出され、パン、野菜、穀物、果物にも発生する。
  • ワレミア
    畳やじゅうたんに繁殖するあずき色のカビ。比較的、乾燥に強く、フケ、アカ、菓子くずがたまる場所に小さなコロニーを作って繁殖する。
  • ロドトルラ
    水回りで繁殖するピンクのカビ。アカなどの有機物やせっけんの泡の窒素をえさにしている。
  • ユーロチウム
    タンスや衣類に繁殖する黄色のカビ。カメラのレンズや、乾燥した菓子などにも生える。


画像の説明 カビ毒

細菌の毒素は大部分がたんぱく質で、分子量が何万、何千と大きいのに対して、カビの毒素は分子量が何百という小さい化合物です。細菌の毒がトキシンと呼ばれているので、分子量が小さい毒という意味でマイコトキシンと呼ばれています。
カビ毒が発見されたのは今世紀に入ってからのことです。カビ毒は慢性毒であるため、長い間風土病だと考えられていたり、カビ以外の原因だと思われていたケースもあったようです。未発見のカビ毒で、今もそう誤解されているものもあるかもしれません。

最初のカビ毒の発見

若いライ麦に寄生して、実に角状の子実体(きのこのようなもの)を作る麦角菌というカビがいます。寄生された穂を見れば変形しているのでわかりますが、製粉してしまうとわからなくなってしまいます。1926年にロシアで集団中毒が起こり、壊死、けいれん、流産などが多発しました。のちに研究がなされ、麦角アルカロイドと総称されるカビ毒が見つかりました。今はそれが血圧降下剤や陣痛促進剤に応用されています。

日本でカビ毒が問題になったのは、昭和12年、当時日本の支配下にあった台湾で黄変米(カビが生えて黄色くなった米)がとれたことからです。サンプルが日本の食料研究所に送られ、進行性麻痺や吐き気、けいれんなどを起こし、中毒が進むと呼吸麻痺で死亡するシトレオビリジンというカビ毒が見つかりました。

そして戦後、援助物資としてタイから輸入された米に黄変米が混じっていた時、それらから腎臓障害、肝臓障害などを起こす二種類のカビ毒が見つかりました。その後、食料衛生調査会によって、黄変米が1%以上混入しているものは配給に回さないという基準が決められましたが、倉庫に積まれた在庫のカビ米の処分に困り、農林省が「3%以上に基準を変える」と計画をしたのを朝日新聞がスクープして、「国民に毒を食べさせるのか」と世論は騒然となりました。これが戦後の「黄変米事件」です。

衝心(しょうしん)性脚気(かっけ)とカビ米のエピソード

昭和12年の台湾産のカビ米の調査の際、日本国内の米も調べたところ、各地の国産米からも同じ菌が見つかりました。日本にもカビ米中毒があったはずだと考えた学者が調査したところ、シトレオビリジンの中毒症状が白米由来の病気である「衝心性脚気」に酷似していることが判明しました。

脚気は江戸時代の元禄期に、裕福な人が米を精米して食べはじめた頃に始まった病気ですが、衝心性脚気は、享保年間に精米技術が向上して、庶民の口にも白米が入るようになった頃に登場しました。折しも交通網が整備され、米の全国流通が始まった時期でもあります。普通の脚気では急死することはほとんどないのに比べ、衝心性脚気は発症後3日ほどで呼吸麻痺で死亡してしまいます。

明治時代になると、米が商品として扱われるようになり、悪質商人が目方を増すために海水につけた「沢手米」(もちろん、カビてしまう)が庶民の間に流通するようになり、同時期さらに衝心性脚気が猛威をふるいました。やがて明治末期から大正期、国による米の公の検定が始まり、1911年には大部分の米産地が行政上の調節を受けるようになりました。品質管理、米の湿度や保存の温度管理が徹底されるなかで、衝心性脚気は激減し、昭和初期にはほとんどなくなっていきました。

脚気および衝心性脚気は、1911年のビタミンB1の発見とともに消えたといわれていたのですが、実際にビタミンB剤が大量に生産され、庶民に使われ始めたのは昭和25年頃からのことなので、時期が合いません。このことから、日本で猛威をふるっていた衝心性脚気は、ビタミンB不足による脚気とは異なる病気であり、米のカビ毒による中毒ではないかと考えられ、疫学的調査なども行われました。(『カビがつくる毒~日本人をマイコトキシンの毒から守った人々』辰野高司著 東京化学同人刊より)

国際的な問題となった飼料ピーナッツのカビ

カビ毒が国際的な関心を集めたのは、ブラジル産のピーナッツのカビ「アフラトキシン」の発見がきっかけです。
1960年イギリスで、ブラジルから輸入したピーナツミールを七面鳥の雛のえさに加えたら、数ヶ月後に100万羽が死亡しました。当初は流行病と考えられ研究がなされ、1962年にカビ毒と断定されました。同時期、フランスでもブラジル産のピーナツを飼料に与えたガチョウ(フォアグラ用)に肝臓ガンが多発したことから、研究が始まりました。
やがて、アフラトキシンがアスペルギルス・フラブス菌というカビから産生されることがわかり、後日、アスペルギルス属のカビ5種、ベニシリウム属のカビ4種からも見つかりました。これをきっかけに、輸入食品の安全性に関わるため、世界各国が規制を行うようになりました。

ピーナツのカビ毒が肝臓ガンを起こすことが世界的に知られるようになり、アフリカで多発していた肝臓障害が調査されました。全般に貧困からくる栄養障害、嗜好品として発ガン性のあるものを食べているためと思われていましたが、サハラ砂漠の南の地方では異常な確率で肝臓ガンが発生していて、しかもガンの50%が肝臓ガンでアメリカの50倍の確率であることから、食料を調査したところ、40%に測定可能な量のアフラトキシンが含まれていることがわかりました。

日本でアフラトキシンは?

ところで、アスペルギルス・フラブス菌と同属のアスペルギルス・オリゼ菌は、日本で使われている「こうじ菌」そのものです。そのため、日本酒の安全性が、一時、ヨーロッパで問題になり、嫌疑を払拭するために日本でも研究がなされたいきさつがあります。そして、1970年頃、日本のこうじ菌からはアフラトキシンが産生されないことがわかり、世界でも認められました。

ちなみに日本でも、輸入ピーナツバターやトウモロコシからアフラトキシンが検出されたことがありますが、国産のピーナツやピーナツバターからは検出されたことはないそうです。アフラトキシンを産生するカビは、土埃や土壌をすみかとしているため、収穫後の保管や処理場の不衛生が汚染の原因であり、ピーナツ由来の植物病害菌ではないことが救いです。

しかし、在来種にアフラトキシンを産生するカビはいないとはいえ、すでに輸入食品により菌は日本にも上陸しています。健康食品などでは、検疫を通らず販売されるものもあり、時折カビの被害が出ています。乾物のカビも見分けにくく、海外みやげ品など…気をつける必要があるのかもしれません。


画像の説明 カビを発生させないためには

【~室内湿度を50%程度に保つ~】
栄養、温度、水分、酸素、この4条件のどれか一つを抑えれば、カビの発生はかなり阻止できます。といっても、カビにとって、ホコリや汚れ、人のアカ等があれば、栄養源として十分ですし、酸素は人にとっても取り除くことは出来ません。温度が10℃以下ならほとんどのカビの生育を抑えられますが、ちょっと寒いですね。湿度は通常のカビは60%以下で発育し難くなりますが、好乾性のカビだと60%以下でも発育します。
人が快適に感じる湿度は60%~65%なので、少し乾燥気味かなと感じる50%程度の湿度を保ことが最良の方法のようです。


画像の説明 日常におけるカビ発生予防の心得

  • 空気が滞らない様に常に換気を心掛ける
  • 室内の空気が多湿にならない様に心掛ける・・・結露の発生は多湿のサイン!
  • こまめに清掃してカビの栄養となるホコリや汚れを取り除く

以上3つを常に意識して生活しましょう!



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