原子力規制行政の現状と課題

日テレNEWS24
2013年01月01日16時51分

　新たな原子力の規制機関である「原子力規制委員会」の設置法案が国会を通過したことで、福島第一原発事故から１年半がたった去年９月、５人の委員で構成される原子力規制委員会と、その事務局である原子力規制庁が発足した。

　規制委員会は、国家行政組織法上の「３条委員会」として、委員長に強い権限が与えられ、政治や行政から独立した立場で原子力施設の安全性を科学的な観点から監視することが大きな役割。発足から３か月で、成果を出すとともに課題も浮き彫りとなっている。

　規制委員会が発足後、真っ先に取り組んだのは、新たな原子力災害対策指針「防災指針」を策定すること。防災指針とは、原発事故の際、住民を被ばくから守るためにはどのような対策を取ればいいかを具体的に示したものだ。福島第一原発事故では、国や自治体からの住民への避難指示が遅れたり混乱したりしたため、多くの住民が何度も避難場所を変えるなどして、不要な被ばくをする結果を招いたと指摘されている。

　このため、規制委員会は「何よりも住民の安全と健康を守る体制作りが最優先」として、防災指針の見直しに着手した。新たな防災指針の柱は、緊急時の避難区域を原発から１０キロ圏から３０キロ圏に拡大したこと。しかし、これによって避難の対象となる市町村や住民の数が大幅に増加し、県をまたいで避難する必要があるところも出てきたため、各県の判断だけでは避難がスムーズに行かないケースが出てきた。１２年１２月２５日には、福井県の原発に関する「広域防災協議会」の第１回会合が開かれ、出席した各県の担当者からは「どのタイミングで避難指示を出したらいいかなど、国がわかりやすい基準を示し、国の責任を明確にしてほしい」という要望が相次いだ。

　防災指針のもう一つの柱は、避難指示を出すために参考にする指標を、これまでの「放射能の拡散予測」から、「実際に計測された放射線量」へと方針転換すること。例えば「一時間当たり５００マイクロシーベルトが計測されたらただちに避難」「一時間当たり２０マイクロシーベルトなら１週間以内に避難」などと具体的な数字をあらかじめ定め、いざという時の混乱を避けることが狙い。しかし、これらの指標となる数値についても専門家の間で意見がまとまっておらず、協議が続けられている。

　各自治体は３月までに、新しい防災指針を基にそれぞれの地域の実情に合った地域防災計画を作る予定だが、国の指針に決まっていない部分が多く、具体性に欠けるとの批判も上がっている。

　また、規制委員会は、防災指針とあわせて１２年１０月下旬に放射能の拡散シミュレーションを公表した。しかし、データの入力ミスなどで公表直後から立て続けに訂正に追われ、規制委員会や規制庁が謝罪する事態となった。実際の計算作業を下請けや孫請けの企業に丸投げしていたことが判明して幹部が厳重注意処分となるなど、規制委員会と規制庁の専門性に大きな疑問符がついた形となり、苦しい船出を印象づけた。

　この他にも、規制委員会には課題が山積している。現在、規制委員会の下には専門家や有識者を交えた検討チームが１１個発足し、日夜、協議を進めている。原発の新たな安全基準や地震・津波の設計指針などは７月までに策定して、法制化されることが決まっているため、検討作業は急ピッチで行われている。これらの新基準や指針は、現在ある全ての原発に適用されるため、原発の再稼働には新基準に照らした安全対策が必要となる。

　現在、国内で唯一稼働している大飯原発（福井・おおい町）は、規制委員会が発足する前に政治判断で再稼働が決まった。しかし、今後の再稼働については、新たな基準や指針に沿って科学的に安全性を判断するとしているため、７月より前に再稼働に向けた安全審査が始まることはないと規制委員会・田中委員長は断言している。