<上司>
「明日いよいよ『Xデー』ということで、対象については埼玉県居住の23歳の男性」
容疑者摘発前の捜査会議。
この班を取り仕切るのは、兵庫県警の福岡哲郎警部補だ。
<兵庫県警 福岡哲郎警部補>
「逃走防止はもちろんだが、自殺するような行動も考えられるので」
埼玉県某所。
午後7時。
問題の男が自宅にいるか、確認に向かう。
だが…
<福岡警部補>
「今のところ電気も点いていないし、(男の)自転車もない。暫く様子をみる以外仕方ない」
どうやら、留守のようだ。
捜査員が追う男は一体、何をしたのだろうか。
この日の4日前、兵庫県警サイバー犯罪対策課。
福岡警部補は、1枚の写真の主を狙っていた。
自分の下半身の画像を、携帯電話を使ってインターネット上の掲示板に掲載していた男だ。
<福岡警部補>
「今回(逮捕に)行くのがこれです。この画像(の主)です」
誰もが見られる場所での公開は、わいせつ画像の公然陳列罪にあたる。
仮にいたずら半分であっても、今後の影響を考えると放っておくわけにはいかない。
<福岡警部補>
「匿名性が強いじゃないですか、こういうやつというのは。出したから分からへんやろ、という風なことも捜査でずっとたどっていったら、いずれは分かりますよと」
ネット上での見えない相手を特定する捜査。
別の例で説明してもらった。
<福岡警部補>
「この場合やったら、『P04B』ってなっているから、携帯電話で投稿していることは間違いない。2012年の2月21日の午後11時11分に、この『P04B』という携帯を使って、『IPアドレスはこれですよ』と、ここまでは分かっているから。じゃ、これを投稿したのは誰ですか?それで、まあ、特定をしてくんですよ」
一見、匿名性の高い投稿であっても、サイバー捜査にかかれば容疑者の割り出しは、さほど難しくないという。
しかし、ネット上に法律で禁止されているわいせつな画像を公開する事案は、この4年間で3倍を上回るペースで増加している。
これから、携帯電話やスマートフォンを使い始める子どもを持つ親は…
<母親>
「ちょっと困りますよね。そういうのが簡単に見れちゃうというのは」
<母親>
「非常によろしくないと思うので、何かやっぱり認証して入らないと見れないとか」
<父親>
「規制は、確かにしてほしいですよね」
わいせつ画像の投稿者は、どういう心理でこうした行為に及んでいるのか。
専門家はこう分析する。
<甲南大学法科大学印 園田寿教授>
「何人が見にきてくれたんだろう、というのは結構気になるわけですよ。アクセスカウンターをつけて、何人きたか数で出てくるようになるわけです。それが、どんどん数が増えると嬉しいわけですよ、話題になっているということで」
再び埼玉県の現場。
福岡警部補の張り込みは、4時間続いた。
もう一度、家を確認すると…
窓から灯りが…
(Q.間違いなく?)
<福岡警部補>
「おる」
(Q.7時に?)
「7時に、かちこむ」
翌朝、男の自宅に向かった。
<サイバー犯罪対策課の警察官>
「一同、敬礼」
兵庫県警サイバー犯罪対策課は、この春、立ち上がった。
<サイバー犯罪対策課 宮根正憲課長>
「サイバー犯罪対策課をサイバー空間における機動部隊として機能させ、あらゆるサイバー犯罪に迅速に対応し、強力に取締りを推進し、県民の目に見える成果をあげていく所存であります」
今回狙うのは、自分の下半身画像を、誰もが見られるインターネット上の掲示板に掲載したとされる男だ。
<福岡警部補たち>
「おはようございます」
午前6時半。
車に乗り込んだ、福岡警部補たち。
ネットの奥に潜んでいるかもしれない大きな犯罪の芽を摘むために、こうしたケースでも強制捜査に乗り出す。
<福岡警部補>
「おはようございます」
玄関は鍵がかかっていない。
ドアを叩く・・・
チャイムを鳴らす・・・
男はいないのか。
再びチャイムを鳴らす・・・
<男>
「はい」
<福岡警部補>
「あっ、おはようございます」
<男>
「はい、何でしょうか?」
<福岡警部補>
「@@くん?」
<男>
「はい」
<福岡警部補>
「ちょっと降りてきてくれる?」
「えらい朝からごめんね」
「警察。兵庫県から来ました」
<男>
「兵庫県?何かあった?」
<福岡警部補>
「ちょっと、聞きたいことがあって、きたんやけどね」
<男>
「あっ」
<福岡警部補>
「覚えてる?」
<男>
「はい」
<福岡警部補>
「覚えてる?」
<男>
「すいません」
男は事態を飲み込みつつある。
<福岡警部補>
「この家ね。ここ」
<男>
「はい」
<福岡警部補>
「『ここ、捜索していいですよ』という捜索差し押さえ許可状が出ているから」
<男>
「はい」
<福岡警部補>
「いま7時16分でしょ?」
<男>
「はい」
<福岡警部補>
「いまから捜索するから?」
<男>
「えっ?何で?そんな急にきちゃうんですか?」
家宅捜索に驚く男。
しかし、捜査員たちは問題の携帯電話を確認するため、家の中へ踏み込んでいく。
<福岡警部補>
「この携帯電話は、当時投稿したときに使っていた携帯?」
<男>
「去年使っています」
<福岡警部補>
「この携帯使っているの?」
<男>
「はい」
<福岡警部補>
「間違いない?この中に、さっき見せた画像入っている?」
<男>
「入っています」
まさか、自分の投稿で警察が動くとは、思ってもみなかったようだ。
<福岡警部補>
「なんであんなしょーもないことしたんや?」
<男>
「しょーもないというか、友達が欲しかったんです」
<福岡警部補>
「あとでじっくり聞くけどな」
ネット投稿への動機を「友達が欲しかった」とつぶやいたあと、男は福岡警部補らに連れられ、車に乗せられた。
逮捕状は、「わいせつ電磁的記録記録媒体陳列」容疑。
最終的に罰金刑となった。
サイバー犯罪の摘発を始めた福岡警部補は、こうしたことは犯罪なのだという、教育の必要性も感じている。
<福岡警部補>
「「回収不能やもんね、いったんネットに乗ったら。そこらの怖さっていうのも、今後やはり小学校から携帯電話持っているから、完全になくしていこうと思えば、警察だけの問題じゃないと思う。やはり保護者とか学校とか教育機関をまきこまないといかんと思う」
いまや複雑多岐に及ぶインターネット上の犯罪。
こうした地道な活動が、サイバー捜査の基礎を築いているのだ。
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