社説[正念場の沖縄]国際世論を動かす時だ

2013年1月1日 09時30分
(7時間41分前に更新)

 帝国主義の時代と呼ばれる19世紀後半から20世紀半ばにかけて中国は、日本や欧米列強にさんざん苦しめられた。 その中国が今、東シナ海に浮かぶ島々の領有権をめぐって、100年前の帝国主義国と同じことをやっている-と昨年9月、ドイツの日刊紙「フランクフルター・アルゲマイネ」が報じた。

 この記事をネットで読んで、すぐに頭に浮かんだのは伊波普猷の言葉である。

 戦前、言語学などの分野で多くの功績を挙げ、沖縄学の父と呼ばれるようになった伊波は、沖縄を憂えつつ、希望を語り続けた人だった。

 1947年、最後の著書となった『沖縄歴史物語』の中で伊波は、敗戦で失意のどん底にあった沖縄の人びとの将来に思いをはせ、謎めいた文章を残している。

 「地球上で帝国主義が終わりを告げる時、沖縄人は『にが世』から解放されて、『あま世』を楽しみ十分にその個性を生かして、世界の文化に貢献することができる」

 戦後68年。沖縄県民は「アメリカ世」から「ヤマト世」への世替わりを経験したが、伊波の願望は実現されていない。

   ■     ■

 米国による軍事統治から脱却し復帰を実現した後も、米ソ冷戦が終わり平和の配当が叫ばれた後も、沖縄の過重な基地負担だけは変わらずに残った。

 そして、今。「新たな帝国主義の時代の到来」「冷戦の再来」などというきな臭い言葉が飛び交い始めている。

 楊潔チ外相は、日本政府による尖閣国有化に対し、「断固として日本と戦う」との論文を発表した。

 中国の海洋進出や尖閣をめぐる強硬姿勢は、日本国民を不安がらせ、国民の嫌中感情をかきたてる。そうした国民の不安感を背景に、安倍晋三首相は、集団的自衛権の行使容認や防衛計画の大綱(防衛大綱)の見直し、日米同盟の強化などを矢継ぎ早に打ち出した。

 政府や一部メディアはここぞとばかりに、オスプレイの強行配備や米軍普天間飛行場の辺野古移設を中国の台頭と関連づけ、正当化し始めた。

 新年早々、きな臭い話で申し訳ないが、実際、いやぁーな空気だ。

 沖縄は戦前、「帝国の南門」という役割を与えられた。戦後は米軍の排他的な統治の下で「太平洋の要石」と位置づけられた。アフガニスタン戦争、イラク戦争では沖縄の米軍基地が出撃・補給・後方支援の基地として機能した。両戦争が終わるか終わらないうちに、今度は「中国の防波堤」というわけである。

 一地域に住む人びとの圧倒的な犠牲を前提にしなければ成り立たないようなシステムをこのまま放置し続けていいのか。政治家や官僚だけでなく、日本人全体に考えてほしい。臭い物にフタをして世界に向かって自国を誇るのは恥ずかしい。

 沖縄の基地を直ちに全面撤去せよ、という極端な議論をしているわけではない。「オール沖縄の民意」をくんで日米合意を見直し、公正で持続可能な安全保障の仕組みを検討すべきだと言っているのである。

 日中対立や緊張の高まりは、沖縄に何一つ利益をもたらさない。経済の相互依存を深める日中双方にとっても大きなマイナスだ。

 政治状況は厳しいが、暗いだけが沖縄なのではない。

 伊波普猷が夢見た「あま世」は、スポーツや芸能の分野ではすでに達成されたといっていい。

 経済も、アジアの国際物流拠点をめざす国際貨物ハブ事業をはじめ、再生可能エネルギーやバイオ産業など、新産業分野の動きが活発だ。

   ■     ■

 総務省がまとめた人口推計(2011年10月1日現在)によると、沖縄県の人口増加率は0・59%で、全国で最も高かった。年少人口(0~14歳)の割合が最も高く、老年人口(65歳以上)の割合が最も低いのも沖縄県である。

 沖縄は日本の中で最も若い県だ。そこに沖縄の大きな可能性がある。

 沖縄経済は変わった。沖縄の住民意識も変わった。変わらないのは政府の基地維持政策だけである。

有料携帯サイト「ワラモバ」では、PCサイトにはない解説記事やスポーツ速報を掲載しています。» 詳しくはこちらから
« 最新のニュースを読む

写真と動画でみるニュース [一覧する]

沖縄ツアーランド