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[虎四ミーティング]
本田武史(プロフィギュアスケーター)<後編>「留学時代の話し相手は犬と猫」

2012年12月28日(金) スポーツコミュニケーションズ

群雄割拠の日本男子

二宮: さて、2014年ソチ五輪まで約1年となりましたが、今シーズンは男女ともに日本人選手の活躍が目立ちますね。やはり金メダルの本命はバンクーバーで日本人男子初のメダリストとなった高橋大輔選手となるのでしょうか。グランプリファイナルでは今シーズン世界最高点で初優勝しています。
本田: そうですね。当然、高橋選手は金メダル候補に挙がってくるでしょうね。それと、今回の全日本選手権で初優勝した羽生結弦選手も割って入ってくると思いますよ。

二宮: 確かに羽生選手は、着実にレベルアップしていますよね。18歳と若いですから、まだまだ伸びしろがあります。羽生選手の強さはどこにありますか?
本田: ジャンプの質の良さは天性だと思いますね。金メダル候補の一角に入るほどの逸材であることは間違いありません。ただ、まだ体の線が細いですので、これから年齢を重ねて筋力がついた時に、どうなるかですよね。筋力は重いので、つけすぎてしまうと、ジャンプが難しくなってしまうんです。

二宮: 2年前の全日本選手権で高橋選手を押しのけて初優勝したのが、小塚崇彦選手です。翌年の世界選手権では銀メダルに輝きました。彼はいかがでしょう?
本田: 小塚選手の持ち味はスケーティングの巧さにあります。11、12年と世界選手権で連覇したパトリック・チャン(カナダ)と似たタイプですね。ただ、“華”という点では、やはり高橋選手が一番です。どんな曲でも、自分の世界観にしてしまう感性を持っています。

二宮: フィギュアスケートは技術だけではなく、どれだけ曲と演技がマッチしているかということも重要です。感性というのは、鍛えられるものなのでしょうか?
本田: ある程度は鍛えられると思いますが、想像力が豊かでないといけません。曲が始まった途端に、自分自身がストーリーの主人公になり切ることができるか。“想像”というより、“妄想”に近いかもしれませんね。

二宮: 本田さんも滑っている時はなり切っていましたか?
本田: はい。特に「アランフェス協奏曲」の時は、一番入りこみましたね。妻が病に臥し、子どもを失くした主人公になり切っていましたから、滑っている間は孤独感でいっぱいでした。納得のいく演技ができた時には、滑り終わった後に涙がこぼれてきたこともあります。それこそ、ソルトレーク五輪の時は泣いてしまいました。

二宮: 独特な演技を見せるのが、織田信成選手です。バンクーバー後は、あまり目立った活躍をしていませんが、彼の復活を期待しているファンは多いですね。
本田: ジャンプさえ決まるようにさえなれば、再びトップ争いの一角に入る可能性はあると思いますよ。あの柔軟性は他の選手にはないものですからね。

二宮: バンクーバーでは演技中に織田選手の靴ひもが切れてしまうというアクシデントがありました。
本田: もともと靴ひもが切れていて、それを結んでつなげていたようなんです。靴ひもは滑っていくうちに、徐々に伸びていくのですが、その伸びた感じが滑りやすいという選手もいるんです。新しい靴ひもは締まりが良すぎてしまって、嫌う選手が多い。ですから、織田選手もいつもの感覚を失いたくないがために、替えなかったのだと思います。

二宮: 男子は群雄割拠の時代となりましたね。
本田: 町田樹選手も11月の中国杯で優勝していますからね。日本人選手の中での競争が激しさを増してきています。

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