スポーツ

[虎四ミーティング]
本田武史(プロフィギュアスケーター)<後編>「留学時代の話し相手は犬と猫」

2012年12月28日(金) スポーツコミュニケーションズ

上達の第一歩は転ぶこと

二宮: 2006年にプロに転向後は、指導者や解説者としても活躍されています。本田さんの解説は、非常にわかりやすいと評判ですよ。
本田: ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいですね。

二宮: でも、フィギュアスケートは競技性と芸術性とを併せ持っているだけに、解説は難しいのでは?
本田: 僕が解説する際に、一番心掛けているのは、観ている人に心地よさを感じてもらえるようにするということなんです。フィギュアスケートのプログラムは、一つの作品であり物語でありますので、それを途中で遮断するようなことがあってはならないと思っているんです。例えば、ジャンプの時に専門家の僕から見れば「あっ、ちょっとバランスが崩れたな」と気づいた点があったとしても、そこが盛り上がりの部分だったら、あえてコメントを挟まないようにしています。せっかく観ている人が盛り上がっているのに、マイナス要素を挟んでしまったら、「なんだ、失敗だったのか」と、そこで気持ちが途切れてしまいますよね。それは絶対にしたくないんです。ですから、演技終了後に「とてもいい演技でしたね。ただ、あの部分ではこういうミスが実はあったんです」と、必要なことを短い言葉で添えるようにしています。

二宮: どなたか参考にしている方はいるのですか?
本田: 五十嵐文男さんです。五十嵐さんの解説は、褒めるところは褒めて、注意点はサラッと指摘する。演技者の自分自身が聞いていても、とても心地のいい解説だったので、僕もそういうふうにしたいなと。

二宮: 最近は次々と世界で活躍する日本人選手が出てくるようになりましたが、本田さんが子どもたちの指導をされていて、どんな部分に素質の有無を感じますか?
本田: 僕は、最初に転び方を見るんです。

二宮: へー、転び方ですか?
本田: はい。スケート教室に初めて来た子どもには、まずリンクの上で転ばせるんです。歩きながら「はい、転んでごらん」と言うんですけど、そこで転べない子はなかなか伸びないですね。

二宮: でも、氷は固くて痛いですから、転ぶのを怖がる子どももいるでしょう?
本田: はい。でも、怖いと思ってしまっていてはダメなんです。

二宮: 氷と友だちになれと?
本田: そうです。氷と仲良くなることが大事です。ですから、最初は無理にバランスを取ろうとするのではなく、転びそうになったら、思い切って転んでしまった方がいいんです。痛さもわかりますから、自然と痛くないように体を守る転び方を覚える。それが、実際にジャンプをした時に、自分がどう転べばケガをしないかという咄嗟の反応につながるんです。

二宮: 素質のある子は、すぐに難しい技ができたりするんでしょうか?
本田: いえ、そうでもないんですよ。よく保護者の方で自分の子どもと同じ時期に始めた子と比べて「あの子の方が上達が速い」と心配する方がいらっしゃいます。でも、スケートって不思議なことに、ある時を境に急に上達することがあるんです。「この1カ月に、いったい何があったの?」っていうくらい。それまでなかなかトリプルが跳べなかったのに、ひとつ跳べるようになった途端に、わずか1カ月で5種類すべてのトリプルジャンプが跳べるようになった例もあります。

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