高橋大輔が実行する「4回転 3年計画」 (2/2)
フォーム改良と精神面での新計画に成果
■GPファイナルで得た自信
2本連続の成功のためには、精神面も課題だった。そのきっかけになったのは、12月上旬のGPファイナル。1本目で転倒してしまったが、2本目を成功させたのだ。
「1本目でコケてもう駄目だと思ったのに、まさかの2本目を降りることができた。緊張感には勝てなかったけれど、受け入れることはできた」と言い、精神コントロールのきっかけをつかんだ様子だった。
その後、全日本選手権までの2週間で、練習に変化があった。
「GPファイナル後から、練習で2本入るようになっていったんです。GPファイナルの成功で、『僕は2本目ができる』という自信を得たのが大きかった」
確かな手応えを得て迎えた全日本選手権。ショートは4回転を片足でなんとか降りたものの、完璧な演技をした羽生結弦(東北高)が首位発進となった。9.64点差を追うフリーでは、1本目を成功し、初の「フリーで2本」がかかった状況になった。
「ショートで点差を離されたので、もうミスできないし、今シーズンで一番気合いが入っていました。すごい緊張感で、緊張に勝つには、思い切りやるしかありませんでした。成功するしないよりも、もう失敗してもいいから思い切り跳ぼうと考えたんです」
そして2本目の4回転を迷いなく踏み切ると、バランスを崩しながらも耐える。
「これまでだったら転んでいたようなジャンプでも、今季は何とか降りる、というところまで持って来られた」と高橋。
念願の「4回転2本」を成功させると、最後までまったく体力不足を感じさせない、気迫の演技を見せた。後半、いったん立ち止まり一息おいてからコレオシークエンスを始める場面でも、「気持ちが高ぶって、早くシークエンスを始めちゃいました」というほど、力がみなぎっていたのだ。「効率良い4回転」の成果だった。
フリーは192.36で首位に立ったものの、羽生とのショートの点差を詰め切れずに銀メダル。
「フリーは全力を出し切ることができたけれど、最終的に2位なのが悔しい。これは、『お前はまだまだできる』と言われているんだと思って、イチからやり直します。目標は世界チャンピオンですから。そういう意味で、自分にとって良い全日本選手権でした」
4回転の3年計画は、予想以上にハイペースで進んでいる。その背中を押しているのは、言うまでもない羽生の存在だ。高橋ですら、もはや追われるばかりのエースではない。闘争心むき出しの戦士のまなざしで、13カ月後に迫ったソチ五輪をにらんだ。
<了>
・全日本選手権・男子FS (2012/12/22)
・全日本選手権・男子SP (2012/12/21)
・高橋大輔がつかんだ成功体験=GPファイナル (2012/12/11)
・常識を覆す、高橋大輔が見せる26歳からの成長の方程式=2012年世界選手権 (2012/4/3)
・日本男子、4回転時代の幕開け 本番で見せたスターの資質=2011年全日本選手権 (2011/12/26)
野口美恵
元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書の「フィギュアスケート 美のテクニック」(新書館)は、フィギュアスケートにおける美しい滑りとは何かを徹底追及した一冊。
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