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素顔の見えない女神(2)

 男としての誇りを破壊された、等という自覚は全く無かった。
元よりそういったマチズモな思想からは遠い場所にいる折木奉太郎は、女の言いなりや道具になる事に、左程の屈辱感も感じなかった。
姉の意思により、姉の手で、絶頂に導かれる。その事自体に不満は無かった。ただ、そのプロセスが過剰にサディスティックで、物理的な我慢の限界に達したので、反撃に転じただけだった。
結果は見事な敗北だったが、一瞬でも姉を地に這わせ、敗北と引換に莫大な快楽を得られた折木に、不満などあろう筈も無い。
荒く息を吐き、茫漠とした意識の中で、かつて性の対象として見ていた相手に尿道から精子を吸い取られた快楽に、身を委ねていた。
一方の供恵は、存分に残りの精液を吸い出すと、ようやく弟のペニスを開放し、口を離した。
姉の口中に満ちた精液は、当然、雄の子種の強い匂いを放ち続け、味も決して良い物ではない。それを、口に手を添えて漏れ出ないように気を付けながら、ゆっくりと飲み下していく。
狂う程の快感を叩きこまれ、散々に恥ずかしい声と醜態を晒した折木だったが、姉のこの有様には驚き、頭を振りつつどうにか身体を起こして側に寄っていく。
「なあ、そんな……無理して飲む必要なんて無いだろ」
労ったつもりの折木の言葉に、唇に残った精液を舐めている姉が睨みつけてきた。
「あたしが、自分でしたくない事、無理にするとでも?」
折木は素直に首を振った。仕事や義務でも無い限り、絶対にそれは無い。
弟が「しなくていい事はしない」方針で省エネを貫くように、姉は姉で「やりたくない事はやらない」主義で自分の人生を切り開いてきた。
少し顔をしかめながら、懸命に雄の汚い汁を喉に流し込んでいるのも、決して強要された義務などでは無い筈だった。
「あんたの精液飲みたいって思ったから、そうしただけ。一々あんたが気にすんじゃないわよ」
そんな姉だからこそ、弟は純粋にその言葉を信じられた。傲岸不遜であるが故に、嘘偽りは無かった。
「それに、あんたの、精子なら……どってこと、無いわよ」
それが強がりなのか本音なのかは折木には分からなかったが、姉は宣言通りに最後の一滴まで飲み込むと、にこやかに微笑んだ。
「ほら、全部飲んだわよ?あんたの精子、お姉ちゃんが飲んじゃった」
供恵は、弟の精液を受け止め飲み干した成果を勝ち誇る。まるで対戦格闘ゲームで勝ったかのような、純粋で素朴な笑顔だった。
「それよりさ、あんた、本当に女の子みたいにイっちゃったじゃない?どうだった?そんなに気持ち良かったの?失神しちゃうくらいに?」
更に、あれだけの行為をしておきながら、供恵は無邪気な子供の様に弟に食らい付いて質問責めにする。
好奇心の塊になった姉をはぐらかす事など不可能である。かと言って、嘘でごまかす真似も出来ずに――
「う、うん……」
仕方なく正直に答えてしまう奉太郎の頬を、実姉の舌が舐め上げた。
「なっ!?」
「ふふ、可愛いわねぇ、奉太郎」
「何だよそれ、やめろよ」
「嘘、嬉しいくせに」
否定、できなかった。供恵の息遣いと体温が頬に触れ、唾液が塗られた瞬間に、愚弟の背筋に電流が奔った。かと言って、単純に舐められた事が嬉しいのではない。
『折木奉太郎を、食べてしまいたい』
その意志を、端的に示された事が嬉しくて、身体の芯からじわりと熱が込み上げてくる。
「よし、じゃあさっさと行くわよ」
未だに意識のハッキリとしない折木の手を取ると、強引に引っ張り起こして脱衣所を出た。
「何処へ」
「あんたの部屋に決まっているじゃない」
それが意味する所は、何か。現国のテストで恒例の質問だったが、その回答はまず普通の学校では見られないだろう。
「セックスしよう。あんたの部屋で」
「うん」
折木はこうやって姉から勢いで押されると、ほぼ断れずに巻き込まれてしまう。それは昔から今まで全く変わらなかった。
引っ張られるままに、されるがままに、姉の望む場所へと連れて行かれる。小学生の頃も、そうやって無茶な行程で出鱈目なイベントに巻き込まれた経験は数知れ無い。
そして今、弟の手を取って階段をズカズカと登っていく姉。それだけなら今までと同じ光景だったが、二人は全裸で、既に三度の射精を経ていた。もう禁断の領域には深く踏み込んでしまっている。
――目指す場所は、弟の部屋のベッド上での、セックス。
これまでにない異常な目的地だったが、折木自身もそこへ至る欲望を止められず、自然と階段を登る足の回転が早くなる。
距離が縮まり、前に立つ供恵の髪の毛から、ほのかに漂う匂い。子供の頃と変わらない、香ばしく暖かい香り。だがその他にも、生臭くも甘酸っぱい匂いが混ざっていた。
それは舌で秘所を舐めた時と同じ匂い、性に目覚めた雌の香りだった。そして、それが滲み出る場所――階段を登る実姉の股間が、目の前にあった。
そこから垂れ落ちている淫水の筋は、もう数え切れない程に増えている。それは引き締まった雌尻と一緒になって、折木の雄を三度蘇らそうとしていた。
「いい眺めでしょ?」
「っ!」
当然、それも全て姉の計算の内にあった。階段の途中で押し倒されるリスクが無い事も把握していた。
「気にしないで、好きなだけ見なさい。見せているんだから。でも、まだ見るだけよ?」
「う、うん……」
「何照れてんの?こんなにしちゃったの、あんたじゃない」
先程、散々口で味わった雌の秘裂が、今はこんなにも近くて遠い。餌で釣られながら歩く犬の様な気分。
だがその微妙な距離と、明らかに最初より興奮している姉の雌の徴が、折木には堪らなく心地良かった。
「ほら、着いたわよ。あんたの部屋」
全裸の姉の手によって連れて来られた自分の部屋は、何か全く違う異質な場所に見えた。さして気を使ってもいない家具やベッドまでが、背徳の塊の様に見えた。
「と、言う訳で、さっさと寝なさい。ほら」
「うわっ!」
部屋に入るや否や折木は突き飛ばされて、その背徳のベッドの上に押し倒される。
そのまま仰向けに転がされると、無抵抗に寝かされた状態で勃起したペニスを無様に晒される形になった。折木奉太郎という性の生贄の誕生である。
「あんたってさあ、身体は女の子みたいに細くても、ここだけは立派よね」
供恵は指で弟の肉棒の先端を弄りながら、しみじみと呟く。つまらなそうな口調と対照的に、指使いはとても優しく、しかも執拗だった。
「ほっとけ」
「褒めてるのよ?あんたみたいのでも、男として役に立つものがあるんだから」
指に少しづつ力が加わり、次第にカリ首や尿道口に責めが集中していく。折木は一切の抵抗を見せない。唯、彼の分身だけが愛撫に敏感に反応して不規則に震え続ける。
途中で何度か姉の唇が弟の乳首を摘んで吸うと、一際強くペニスが震えた。
そうして一分程続いた愛撫の締めに、蟻の塔渡りを指が伝って行くと、完全に風呂場で見せた勃起並に復活していた。
準備が完了し、姉は冷酷に命令を下す。
「だから少しの間、これをお姉ちゃんに貸しなさい」
「……好きに、しろよ」
供恵は犠牲の羊よろしくベッドに横たわる愚弟の上に跨り、膝立ちの姿勢から、性欲で膨れ上がっている男根の真上に身体を降ろしていく。
騎乗位。フィクションでは良く見る女性上位の構図。そして、折木がずっと夢見ていた、妄想の形。それが現実となって降って来ようとしていた。
「なあ、お姉……」
「動くんじゃないわよ」
実姉の、たった一言。それだけでクルクルほっぺの忍者より強烈な呪縛が、折木の身体を金縛りにした。
「今から、あたしがあんたをレイプするんだから。せいぜい、天井のシミでも数えてなさい」
「え、いや、俺も別に嫌って訳じゃなくて、その」
強姦、という物々しい単語が出てきて、折木は焦って否定する。
「そういう設定なのよ。黙ってなさい」
さいで。そういうプレイなら言う事は無かった。
「ふふふ、それとも、お姉ちゃんとセックスしたい変態の奉太郎には、天井よりもっと見たい物があるかしら?」
「それは……うん、見たい」
変態だろうが何だろうが、一向に構わない。折木奉太郎には絶対に見逃せない物がそこにあった。
「そう。なら、しっかり見てなさい。お姉ちゃんが、あんたとセックスする所をね。お姉ちゃんにレイプされる所、しっかり頭に刻み込むのよ!」
放置すれば暴れ回るであろう肉棒を押さえるのも、濡れて光る陰唇を広げるのも、全て姉が管理する。折木は、ただ見ているだけだった。それだけで、幼い頃に憧れていた実姉とのセックスが現実になろうとしていた。
じっくりと、粘つくような時間をかけて、姉の雌口が弟を飲み込もうと迫っていく。焦らされ、待たされ、折木の期待感は身体中にいっぱいに膨らんでいく。
――だが、正に雄と雌が密着しようとする寸前で、供恵の動きが停止した。
「ね、奉太郎」
「……やっぱり、止めるのか?」
「ううん、そうじゃなくて、さ。今の内に謝っておくわ。ごめんね」
「え、謝るって、何を」
その問いに対する返事は無く、姉はただ、行動で答えた。
 
 
「んっ……うっ……ああ、そっか。こういうんなんだ、ふふふ」
 
 
実の姉弟の、性交。
禁断の繋がりは、思ったよりもずっと簡単に、あっさりと成立した。
供恵が一気に腰を降ろした為に、折木のペニスの表面には具体的な初挿入の感触と言うべき物が伝わって来なかった。ほんの少し、何かがぶつかったような抵抗感があっただけだった。
ただ、自分が憧れの姉の中に入っている。それだけで、滲み出るような喜びが胸を満たした。
「ほら、見て見て、奉太郎!」
それは、懐かしい口調だった。
「あたし、あんたとセックスしちゃったよ!本当に、弟と……セックス、したんだ」
姉が中学に上がったばかりの頃、つまり弟が下着を拝借してオナニーしていた頃の、折木供恵そのものだった。
当時の彼女は、珍しい物、面白い物、感動した物を見つけると、そうやって弟に見せるのが常だった。彼女が感動する程の物は確かに珍しかったが、大抵が何らかのリスクを伴う物ばかりで、折木は見せられる度に面倒事に巻き込まれていた。
とは言え、そんな騒々しくも新鮮な日々も、少なからず姉を想っていた弟にとっては幸せな物に違いなかった。決して口にしなかったが。
今、あの頃の姉が、純粋に感動を表す折木供恵が、セックスの相手として弟の前に帰ってきている。本当は、それだけで感無量だった。絶対に言わなかったが。
「動くからね。我慢できなくなったら、言いなさいよ」
「うん」
「童貞なんだし、どうせすぐに出ちゃうんだろうから、無理しちゃダメよ?」
そこだけ体温が違うのか、初めての女の中は溶岩の様に熱く、それが限りなく柔らかい感触で包み込んでくるのが、文字通り初体験の感覚だった。
世の中には、カップラーメンや暖めた蒟蒻でオナニーをする人が割と多く存在する、という話を半ば眉唾で聞いていた折木は、少しだけその認識を改めた。
それら食品を粗末にする自慰手段の感覚は想像するしか無いが、確かに本物の方は、そんな感触に近いかもしれない。
「あっ、凄いこれ!奉太郎があたしの中で動いてるみたい!」
初めて補助輪無しで自転車に乗れた少女――自分の腰の上ではしゃぐ実姉を見て、折木はそんな連想をした。
「あ……あたしの……オチンチン……あたしの中で動いて……届かない所まで、入って、来てる……一つになってるのが、凄く分かるの」
折木を一方的に犯すと宣言した通りに、供恵は一切弟に行動させないまま、セックスの深度を深めていく。
懸命に膝を曲げ、腰を打ち付け、口の代わりに陰唇と膣で愚弟の肉棒をしゃぶり続ける。近親相姦という禁断の実を堪能する為に、全身を駆使し続ける。
そんな無闇に必死な実姉の姿を見て、自然に折木の手が前に出た。
そこに供恵も同じタイミングで手を伸ばし、二人の両手が宙で絡み合う。
姉弟の腕によって作られた二本の柱に支えられて、姉の身体がより激しく跳ね始める。その躍動が、そのまま弟の性感帯への刺激に変換されていく。
折木は腕以外は殆ど動かす事無く、一方的に姉から快感を受け取っていた。単に肉棒が粘膜で扱かれるだけではなく、折木供恵という女の全てを堪能していた。
目を瞑って喘ぎながら、身体から溢れ出ようとするを耐える顔。
大きく上下動してその大きさと柔らかさを見せつける双乳。
揺れに合わせて宙を舞う長い髪。
「ねえ、凄く、凄く良いの。奉太郎、あんた、素敵よ……あんた、あたし、の……なんだ、から……」
溜息。
嬌声。
一心不乱に弟の上で跳ね続ける、そんな姉の姿が、愛しくて仕方が無かった。
「お姉ちゃん」
「なあに?」
「ごめん、もうダメかも」
「へえ、そう」
限界を伝える折木の言葉に応えて、姉は腰を上げてペニスを引きぬいた――りはせず、むしろ深々と降ろした上で、上下動を一切止めた。
「いや、だから、お姉ちゃん、そうじゃなくて」
「……ねえ、奉太郎、気付いてる?あんたのが突き刺さっている所……あたしの一番、奥よ」
奥?具体的なイメージが湧かない。しかし、唯一折木の一部が挿入されている場所の、更に奥を考えてみると、そこにある物は。
「まさか、それって」
「そ、お姉ちゃんの、子宮口」
供恵の口から出た単語が、否応なく折木の中枢を奮い立たせ、その波はすぐに分身を通って姉の胎内へ伝わる。
「子宮の入り口に、あんたのがくっついてピクピク動いちゃって、中に入りたいって言っているのが分かるの」
弟と両手を繋いだまま、供恵はじりじりと自分の腰を左右に回転させて、愚弟の分身に膣壁を存分に味あわせてくれる。
膣壁と共に子宮口も左右に捻られて、折木のペニスをゆっくりと撫でていく。あるいは、姉の膣が弟の肉棒の感触を楽しんでいる。
実姉の膣壁と粘膜が、肉棒を根本から先端までぴったりと包み込んで、全てを支配していた。
「ね、子宮に射精したいの?お姉ちゃんの子宮にぴゅっぴゅって、射精したい?」
子供みたいなあどけない言葉で、むせ返るように淫らな挑発を繰り出してくる。そしてそれは、事実上の命令と同じだった。
「……うん」
「変態!あんた、お姉ちゃんに中出ししたい変態なのね?」
「うん」
着実に、姉弟のセックスは目的地に向けて歩を進めていく。奉太郎の分身は、根本まで実姉の膣に飲み込まれ、子宮口に密着したまま射精を迎えようとしている。
そして今や、間違いなく、姉もそれを望んでいた。
「だったら変態なら変態らしく、我慢できなくなったら、お姉ちゃんのここを弄って、スイッチ入れなさい」
供恵は、しっかりと絡み合っている折木の右手を、『ここ』へ導いていく。
今度は、折木も風呂場の時の様に抵抗はせず、しっかりと肉豆を掴んだ。
「もしサボったら……一生、ネタにして弄ってやるんだから……今日の事、人前でも、堂々と話してやるからね」
正気か!?姉の行動に慣れている折木ですら、この宣言には耳を疑った。
だが、この姉ならば、あるいは本当にするかもしれない。そんな恐怖心が、弟の理性を奈落の底へ落としていく。
最早、禁断の一線を越える事を躊躇する理由は、二人の中では殆ど無くなっていた。
「ほら、風呂場で見せてくれた、凄い勢いの奴、あたしの中に出しなさい。一緒にイけたら、きっと最高に気持ち良いわよ」
そして、決して腰を上げずに亀頭を最奥に密着させたまま、姉は最後のトリガーとなる言葉を囁く。
「お姉ちゃんの子宮、あんたに、あげるから」
 
 
供恵のクリトリスが、弟の指で強く抓られ、捻られた。
 
 
「お姉ちゃん!出るっ!」
姉弟の下半身が同時に熱く燃えて、 性の悦びに震えた。
折木の精子が、決して入ってはならない領域へ雪崩れ込み、クリトリスからの快感によって充血し切った子宮壁に激突する。
実姉の胎内が瞬く間に弟の白濁に満たされ、遂には糸の様に細い子宮口の道を逆流し、溢れていく。
そして、肉棒で完全に満たされた膣の僅かな空隙を埋めていき、最後に外へと漏れ出た。
折木の身体が勝手に動き、供恵の体重を乗せた腰をブリッジする形で持ち上げて、最奥の更に奥へと亀頭を突き上げる。
弟の脳は、一人の女の事しか考えられず、勝手に口からその名が溢れる。
「ね、姉ちゃ、お姉ちゃ……」
その唇が、姉によって塞がれた。
供恵が騎乗位を崩し、繋がったまま弟の身体に強く抱き付いて、身体をぴったりと重ねる。
口から脚まで、姉と弟がすべての皮膚を擦り付け、体温と汗を分かち合う。
接続された姉弟の口中では、ひたすら二枚の舌が踊り続け、絡み合う。
更に両方が強く相手を抱き締めた瞬間に……再び、射精。
「っ!」
「~~っ!――っ!」
「――っ!!」
二人の二回目の絶頂は、ピストンも愛撫も無く、ただ抱き合っただけで到達した。
実の姉弟で本当にセックスをした実感が爆発し、二人で同時に意識を失い、繋がり合う以外の行動を考える事が出来なかった。
 
 
それから五分間、姉弟はそのままの姿勢で固まって動かず、焦点も定かにならない近さで、お互いの顔を見詰め合い続けた。
 
 
 ようやく二人の唇が離れた時には、既に呼吸は落ち着き、唾液の糸で繋がるだけだった。
「ふふふ、とうとう、しちゃったね……昔オナニーで我慢してたの、本当にできちゃったね」
「うん……本当に、お姉ちゃんに、しちゃった、んだ――?」
折木が姉のクリトリスを抓る為に遠征していた右手を戻して見ると、まるで指でも切ったかのように、赤く染まっていた。
快感の余韻も忘れ、弟は慌てて飛び起きると、重なっていた姉の上半身を引き剥がした。
「姉貴、急いで自分の身体を確認してくれ」
「何よ……姉貴じゃなくて、お姉ちゃん、でしょ?」
「血が出ている。どこか切ったんだ。俺じゃないから、姉貴だ。痛い所は?」
弟の真剣さに、供恵は一瞬だけ戸惑った顔を見せたが、すぐに無表情に変わると静かに事の真相を告げた。
「ああ、それなら怪我でも病気でも無いわよ。厳密には怪我の一種だけど、全然大丈夫だから」
「いや、大丈夫って……あ」
そこでようやく折木も気が付いた。むしろ、最初からその可能性を疑うべきだったのかもしれない。
「何よ、あんたまでこの歳で処女なのを、病気か何かの一種とでも言うつもり?」
「い、いや、そんな事はない、けど」
完全に想定外だった。まさか、この姉に限ってそんな事は絶対に無いと弟は思い込んでいた。
ここで折木を責めるのは酷である。姉の人格と、その送ってきた人生を鑑みれば、とっくの昔に経験は済ませていたと考えるのが自然の筈だった。
その筈だったが、現に、折木の男の象徴が破るまでは、供恵の身体は純潔のままだった。完全に実姉のリードによるものだったが、確かに折木は実姉の破瓜を実現し、処女を奪ったのである。
「大体、処女なのに、どこであんな技学んだんだよ。その……フェラチオした時に中まで吸い出すやり方なんて」
「あんただって、あたしが何したのか知ってんじゃない。童貞の分際で」
確かにその通りだった。折木も情報でだけなら、主にどういった職業の人間が、如何なるプロセスであのテクニックを実行するかまで把握していた。
そもそも、昔から折木姉弟は二人共そういう性質の人間だった。実際に目にしたり経験せずとも、情報と観察だけで推察分析し、大抵の事象は把握できてしまう。故に他人より飽きっぽく、冷淡な印象を抱かれがちな傾向まで共通していた。
違っていたのは、姉が単なる優れた洞察の、更に上を求めた事だった。
『この国の人間のする事なんてパターンなんだから見てれば分かるでしょ。あたしは世界に出て、そうじゃない物を見たい』
かつての姉の言葉は折木にも理解は出来た。しかし共感は不可能だった。それは必要のない事だったから。
だが、心のどこかで姉の生き様を羨ましく思ってもいた。あれも、いわゆる薔薇色の一つなのだろうと。
そんな姉が、今、ひたすらに弟を性的に弄び、あまつさえ精液まで飲み干した上に、処女まで捧げてくれた。
――自分に、そんな価値があっただろうか?
「ごめん。悪かった。本当に申し訳ない」
謝ってはみたたものの、折木は、自分が何に関して謝罪したのか判然としなかった。
破瓜を済ませたばかりの姉に無礼を働いた事か。それとも知らぬ内に処女を奪ってしまった事か。その両方か。
それとも、素直に自分の感情を認められない、強がりか。
「別に良いわよ。どーせ、あたしが処女だったのにどうとか、下らない事考えているんでしょ?童貞の癖にそんな生意気な事考えるだけ、無駄よ」
「生意気って何だよ。姉ちゃんだって、さっきまで処女だった癖に」
「残念、あたしはもう処女じゃないわよ?あんたのせいで」
「だったら俺も童貞じゃないだろ?姉ちゃんのせいで」
「何よ」
「何だよ」
喧嘩腰の会話が止まり、数秒の沈黙がその場を支配する。
二人の間の時間が逆行し、幼い頃に戻り始めると、些細な事で喧嘩する悪い側面まで蘇ってくる。
これがもし子供時代の二人であれば、この後は軽い殴り合いに発展し、九割以上姉の勝利で終わる筈だった、が――
「ぷっ!あははははは!」
姉の方が唐突に吹き出して、笑い始めてしまう。それに釣られて折木も笑ってしまい、それで険悪な空気は終わりを告げた。
「どうしたんだよ、急に」
「ね、ね、面白いのよ?こんな昔みたいな喧嘩してても、あんたのチンチンが私の中でビクビク動いているの。おっかしくて」
確かに、口では子供じみた口喧嘩をしている最中でも、折木の分身は常に上下に震え続けて、姉の身体にセックスのシグナルを送り続けていた。
「ああ、それは……俺も、嬉しかったから。お姉ちゃんの初めてを貰えて、嬉しかった」
「ふうん、じゃあこのピクピクは、姉の処女を奪った喜びの舞かしら。本格的に変態じゃない」
「夢にも思ってなかったんだ。今は、お姉ちゃんの中にいられるだけで嬉しいし、気持ち良いよ」
「……ま、それなら良いわ。姉として弟の童貞は確かに頂いたからね。あたしも代わりに処女あげたんだから、文句無いでしょ?」
弟に純血を奪われた身体を、むしろ誇らしげに見せながら、供恵は姉らしく優しく問いかける。
そんな彼女の姿を見て、ようやく折木も覚悟を決めた。自分の気持ちを素直に認める覚悟である。
「うん、凄く良かった。初めての相手があね……お姉ちゃんで、良かった」
うっかり姉貴、と言いかける所を「お姉ちゃん」と言い換える度に、折木は少しづつ幼い頃の自分に戻っていく錯覚に襲われる。
たった一つの言葉を強制されただけで、折木の精神は着実に幼児退行していく。それが姉の策略なのは明らかだったが、ここで性の宴を止めない為には、甘んじて受けるしか無い。
でも、決して嫌ではない。むしろ、もっとずっと、昔のままでいたかった。せめて、このセックスが終わるまでは。
そんな愚弟の有様を確認すると、供恵は満を持して状況を次の段階へと進める。
「あんた、場所、代わりなさい」
「場所?」
「次は、あんたが上よ」
姉の促すままに、姉弟は性器で繋がったままでベッドの上を一回転し、上下を逆転した。ベッドに仰向けになった供恵を、挿入している折木が見下ろす形――正常位へと構図が変わる。
「どう?こういうのも悪くないでしょ」
「それは、まあ」
「あんたは変態だからさっきのでも良いだろうけど、世の中の女や男が皆同じって訳じゃーないからね」
重力に引かれて、供恵の胸が緩く横に広がっている。折木もその手の本や画像で見慣れている、ベッドの上で雄を待つ女の姿だった。
「基本のスタイルで経験値を稼いでおかないとね、お互いにさ」
「お互いに、か」
「そーよ。あたしにも、ちゃんと普通にセックスする経験をさせなさい」
処女と童貞を交換する儀式が終了し、これからが本番。そう言わんばかりの態度。次は、愚弟に男を見せろと姉が要求しているのは明らかだった。
しかし、いざそんな立場に立たされると、折木の中に素朴な疑問が浮かび上がってくる。
「でも、今更だけど、大丈夫なのか?その、避妊、とか……」
その点に関して、これまで姉からは何の説明も無かった。ただ一方的に折木が押し切られてばかりで、確認する余裕が全く無かったのである。
「何よそれ、本当に今更ねぇ。完全に手遅れよ?」
供恵は愉快そうにケラケラと笑って見せるが、弟としては、姉のレイプに等しい襲撃や急な展開を言い訳にしたくは無かった。
――いつか、誰が相手になるかは分からないにせよ、実際に誰かとセックスする局面になった場合には、そういった点は決して疎かにしたくない。
童貞男子高校生なりの、それが折木のせめてもの矜持だった。そして相手が実の姉ともなれば、大事なのは尚更だった。
「俺も、もう少し早く気を使うべきだった。初めてだからこそ、気を付けるべきだった。ごめん」
どうやら弟が本気で気にしていると分かると、逆に姉の方が労る表情になり、折木の頭を優しく掻き回した。
「好きにして良いって言ったじゃない。余計な心配はいらないから、必死に隠れてオナニーしてた時に想像した事を、今のあたしに一杯してごらん」
折木の言動は自身の保身の為ではなく、あくまで相手の身を心配しての物だと、姉には分かっていた。
「本当に?俺がゴムとか使わなくて良いのか?」
「一丁前に余計な気にしなくても大丈夫よ。これから少しの間だけは、あたしの事だけ考えて見てくれれば、それで良いから、ね?」
だから、供恵は挑発的な言葉を重ねる。恐怖感を削ぎ、ひたすらに弟の内の雄を煽る実姉の誘惑を、立て続けに注ぎ込む。
処女膜を破られ、溢れる程に膣内射精され、弟によって汚された実姉。そんな姉が、更なる弟の欲情を求め、受け止めようとしている。
そんな構図が成立して、最初の騎乗位とは異なる、不器用だが雄に相応しい攻撃的な性欲が、折木の中に芽生え始めた。
「じゃ、じゃあ……俺、するから。もっと、お姉ちゃんとするから」
それに従い、遠慮無く喰らい付こうとした瞬間――その間を絶妙に外す形で、姉の手が折木の目の前に広げられた。
「ん……ちょっと待って。外、月が出てる?」
「月?ああ、確かに今は出ているけど」
朝の天気予報曰く、昼間は晴れるも夜半から雨という事で、その予報通りに夜空は雲に覆われていたが、たまたま雲の切れ目から煌々と輝く月が姿を見せていた。
見た限りでは、あと一分程もすれば再び雲に隠れるような狭い隙間の真ん中で輝いている、本当に稀な確率で現れた夜の女王だった。
「ね、電気消してよ」
「今から?」
「良いから、早く」
何が良いのか悪いのか分からなかった。恥ずかしいからセックス中は電気を消したがる女もいる、とは折木も聞いた事はあったが、それなら何故、最初からそうしなかったのだろう。
やっぱり何だかんだで、今になって人並みに恥ずかしくなってきたのか。姉という最強生物もやはり人の子か。
折木は無根拠に安堵しながら、言われた通りに照明を落として、改めてベッドの上を見る。
 
 
そこにあったのは、別世界だった。
 
 
「どう?奉太郎」
ベッドの上に月光がスポットライトの様に伸びて、一糸纏わず横たわる女を照らしている。
青白い光に包まれた供恵の身体は、闇の中でまるで白磁の様に輝き、全てを晒しながら、その身を弟に捧げられる時を待っていた。
周囲には他に無駄な物も、音も、一切無く、時間の流れが、酷く遅かった。自分自身が、一枚の絵画の中にいるような、そんな感覚。
きっとここには、醜い物など、何一つ無い。折木の中で燃え盛る実姉への情欲ですら、浄化されている気がした。
「これなら、余計な物とか邪魔しないで、あたしだけ見えるでしょ」
かつて折木は、これに似た体験をした記憶があった。
美しい十二単に身を包み生き雛と化した千反田が、狂い咲きした桜の下で、粛々と歩んでいく姿。水無神社の、生き雛祭りの行列。千反田えるという女が折木の中に焼き付けられた、あの日。
あの時は、周囲の自然と春も間近な日光と咲き誇る桜に囲まれて、どこまでも陽の力と生命力に満ちた時間を満喫した。
しかし、今、折木が見ているこの場所は、自分と姉の他には冥い闇と冷たい月光しかない。それこそ本物の月面の如く、光と闇の両極端しか存在し得ない。
全く対照的な場であるにも関わらず、折木はあの生き雛行列と同じ、強い引力を感じ取っていた。
 
 
つまりそれらは、たった一人の女を、一時的にこの世から乖離させる為に構築されたシステムなのである。
 
 
だが、長い年月を重ねて作り上げられた生き雛祭と異なり、この部屋で起きている事は全て、窓の外を数秒だけ見た姉の指示により実現した物だった。
偶然の賜物とは言え、咄嗟の計算で状況を判断し、最高の舞台を用意してくれる。折木は改めて思う。やっぱり全てにおいて、この人には敵わないと。
今から、そんな女を、姉を、折木供恵を抱くのか――この自分が。
折木の興奮は冷静さを伴いながらも、鋭く高まって行く。無様な真似や、悲しい思いはさせたくない。この人と、気持ち良くなりたい。
童貞故の無闇な衝動は完全に削げ落ちて、くっきりと夜闇の中に浮かび上がっている姉の姿だけに意識が集中していった。
「綺麗だ、お姉ちゃん、凄く、綺麗だ……」
「そ。ありがと」
それはまるで、女神だった。
底知れない慈愛と包容力で、雄の溢れる性欲を飲み込み、昇華して、自らの物としてしまう女神。
長くゆるやかに伸びた髪が枕元に広がり、部屋いっぱいに雌の香りが充満して、折木供恵は、折木奉太郎の女神になる。
そして女神は両手を前に差し出して、弟を優しく誘う。
 
 
「ほら、おいで、奉太郎。お姉ちゃんと、いっぱいセックスしよう」
 
 
導かれる様に抱き付いた折木は、雄の本能に任せて実姉を犯しながら、幼い頃に戻って必死に相手を呼び続けた。
幾度も貫かれ、全身を弄ばれる供恵は、それでも愛おしそうに弟の名を返し続ける。
お姉ちゃん。
奉太郎。
2つの名前だけが交互に繰り返され、姉弟は、一つの塊へと融け合っていく。
 
 
 
いつの間にか降り始めた雨が、二人の嬌声を静かに包み隠してくれていた。
 
 
 

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