1.
私、秋田雪菜(あきたゆきな)には冬樹(ふゆき)という同い年の弟がいる。双子だ。男と女でわかれているくせに、ひょっとしたら一卵性なのではないかと思うほどよく似ている。先に断っておくけれども私が男顔なわけではない。冬樹が女顔で、私に似ているのだ。ここ重要ね。そして顔立ちだけではなく、体格だってほとんど同じ。性差が出ているはずなのに、まったくと言っていいほど変わりがない。多分冬樹が男にしては背が低く、私が女にしてはいささか胸が薄い事が原因だろう。おまけに小さいころから通っている床屋さんをかえる気にはなれず、髪型までショートカットで瓜二つにされている。これで同じ服を着て並んでしまうと、お腹を痛めたお母さんしか見分けられる人はいない。ちなみにお父さんは違う服を着ててもたまに間違える。
そこまでそっくりな私たちではあるが、フィクションなんかで双子にありがちな特殊能力は一切持ってなかった。片方が怪我をするともう一人も同じような負傷をするだとかで有名なシンクロニシティなんかのことだ。友人たちからは「こんなにそっくりなら、ありそうなものなのにね」なんて言われもしたが、そんなのはきっと一卵性双生児に限っての神秘なのだと思っている。いくら同じような顔をしているからといって、男女別に生まれてきた私たちは二卵性双生児なのだ。
そう……今まではそうだと思っていたのだが。もしかしたら私たちは、滅多にいないという男女の一卵性双生児だったのではないだろうか。そんなレアな存在でもなければ、この現状の説明はつけようがなかった。
「ねえちゃん……ど、どうしよう。お、俺……」
「私に聞かないでよ! あと泣くな! こっちが泣きたいくらいよ!」
目にたっぷりと涙をためながら下半身裸の冬樹が私を見つめてくる。いくら姉弟とはいえ普通はありえないこの光景。だが、もっとありえないことに、弟である冬樹の下半身にはあるべきモノがなかった。……えっと、その、つまり男性のシンボル的なものが。かわりに一本筋が通った割れ目から、つぅと粘りのある汁がこぼれている。
そして逆に私はといえば、柄物のトランクスを押し上げる股間のふくらみに目を落としながら頬を引きつらせていた。胸を触る。ただでさえ平べったかった私の乳房。今はさっきまであったはずのわずかな膨らみすらない。
「どうしてこうなった!?」
奇しくも二人同時にあげた悲鳴が「やっぱり私たちは双子なんだな」と思わせていた。
◇
思いだすのは二、三時間前のこと。具体的には晩御飯が出来上がってすぐだ。私はお母さんに言われて部屋にこもったままの冬樹を呼び出しにいった。
「おーい、ご飯だよー」
私たちの部屋は二階だ。わざわざ階段を上るのも面倒くさいので、下から大声で呼ぶ。しかし冬樹はまるでやって来る気配がない。少しいらっとした私は、さっきよりも大きな声で「おーい! 冬樹、ご飯だってばー!」と叫んだ。
「わかってるよ。今行くって!」
やっと冬樹の声が返ってきた。人が言うには冬樹とは声までそっくりらしい。そう聞かされるたびに私たちは「全然似てないじゃん」と返している。実際、冬樹の方が私よりやや低い声をしているのだ。けどそれは、教えられてはじめて気がつく程度でしかないという。
「ああ、もう。いいところだったのに」
ぶつぶつこぼしながら、ようやく冬樹が部屋から出て、階段を下りてきた。小豆色のださいジャージの上下を着ている。中学校のときの指定ジャージだ。サイズもまだ合っているので部屋着代わりにしていた。ちなみに私も同じ格好をしている。……だって、誰に見せるわけでもないし、何より楽なんだもん。
「また、ゲーム?」
「えっ? あ、うん。ゲームだよ、ゲーム。あーもう、もう少し待ってくれたらよかったのに」
「知らないわよ、そんなの」
こいつは私と違って運動が得意なくせに、部屋に引きこもるのが大好きだ。運動音痴なくせに体を動かすのが好きな私に謝って欲しい。まったくもったいない。
「あ、そこ気をつけなさいよ。熊いるから」
「はいはい」
階段の中ごろの隅に置かれた、やたらリアルな木彫りの熊を指差し、のんびりと降りてくる冬樹に注意を促した。この間、お父さんが北海道に出張に行ったときにお土産として買ってきたものだった。しかしお母さんに「こんな気持ち悪いものどうするの。リビングや寝室なんかに置きたくないからね」と怒られてしまい、あまりお母さんの目に付かない階段に置かれることになった。部屋に向かうたび、こいつを拝まなくてはいけない私たちにとってはいい迷惑だった。
「……って、冬樹!?」
私の悲鳴が上がる。冬樹はせっかく注意したのにも関わらず、何を思ったか熊の真上に足を下ろそうとしていた。いや、何を思ったのかっていうか、何も考えてないに違いない。そもそも注意なんてろくに聞いていなかったのだ。馬鹿冬樹は「え?」なんて言いながら木彫りの熊を踏みしめ、ひどく間抜けな悲鳴をあげた。そして、その体がぐらりと傾いて、
「傾いて?」
呆然と呟く。冬樹はそのままバランスを崩し、階下へ向かって落ちてきた。それはつまり、そこから冬樹を呼びかけていた私に向かってということでもある。私とよく似た――というかまるきり同じ顔があっという間に視界を占めて、
「ぎゃあっ!」
どちらが上げた声なのかそれすらよくわからないまま、頭に重い衝撃を受けて私は意識を暗転させていた。
◇
「あんたたち大丈夫? すごい音がしたけれど、なにやってるのよ」
お母さんの声がして、私はずきずきと痛む頭をさすりながら目を覚ます。すぐ隣では冬樹が同じように額を抑えて体を起こしていた。ついでに元凶たる木彫りの熊も近くに転がっていた。どうやら気を失っていたらしいが、それはほんのわずかな時間であるらしい。
「いや、熊を踏んづけちゃって……そのまま落ちてぶつかっちゃった」
立ち上がりながらそう言った冬樹は、まだ頭に手をやっている。多分こぶにでもなっているのだろう。むしろ私だってこぶができているのだから、ぶつかってきた張本人が無傷とか言ったら蹴りを入れてやる。お母さんは「呆れた」と呟いて、冬樹を心配そうに見た。
「……本当になにやってるのよ。そんな馬鹿な事、冬樹ならともかく雪菜がするなんて珍しいわね」
「え?」
この声は二人同時に上がった。私は思わず自分を指差し「雪菜はこっちよ」と主張した。冬樹も同じように「俺が冬樹だよ」と言う。「え?」と今度はお母さんが小さく口を開けた。信じられないとでも言いたそうに見えた。
「お母さんこそ珍しいじゃない。私たちを見分けられないなんて」
「ほんとね。あんたたちを間違えるなんて、幼稚園のころ以来だわ。二人して寝転がってたからかしら」
「……歳なんじゃねーの?」
ぼそっと呟いた冬樹にお母さんは無言で拳骨をくれてやり「間違いない。この生意気なのは冬樹だわ」とようやく納得したようにうなずいた。
「もしかしたら、昔みたいに私をかつごうとしてるのかとも思ったけど、そうじゃないみたいね」
「昔みたいにって? ああ、『どっちがどっちでしょう』ゲームね」
「そう、それ」
似た顔をした双子なら大抵一度はやった事があるんじゃないだろうか。親や友達に私たちがどちらなのかを見分けさせる遊びだ。だけども、お母さんはほとんど間違えないので、悔しくなった私たちは服を交換したりしゃべり方を変えたりして、その難易度を上げた。その目論見は大成功で、正解続きだったお母さんを混乱させることが出来たのだけれど、今度は逆に見分けをつけてもらえないことが怖く寂しくなって、だんだんとやらなくなったのだという。「だという」なんて伝聞系なのは、小さいころの出来事ゆえか記憶にはほとんど残っていないからだ。ただ、そんな事をして恐ろしい思いをしたのだけは、なんとなく覚えてる。
「もう子供じゃないんだから、そんなのやらないわよ。それよりさあ、この熊どっかやってよ。馬鹿冬樹が踏んだりしてこんなことになるんだから」
「あ、そうだそうだ。こんなところにおいておくから、俺と姉ちゃんが頭ぶつける羽目になるんだ」
追従して来た冬樹をじろりと睨んで「あんたはあんたで、人の話ちゃんと聞いて行動しろ」と言ってやると、気まずそうに目を逸らした。お母さんは木彫りの熊をもとあった場所に置きなおしながら、口を開く。
「そういうのはお母さんじゃなくて、お父さんに言いなさいな」
「お父さんはお母さんに言われないと動かないもの」
「それもそうね、わかった。あとで言っておくわ。とにかく大丈夫なら早くご飯食べちゃいましょう。冷めちゃうから」
「はーい」
私たちは返事を揃えながら、いい匂いが漂ってくるリビングへ向かった。その途中、ふと自分の手から妙な臭いがする事に気がついた。今まで嗅いだことがない生臭さ。なんか変なものでも触っちゃったかななんて思いつつ、まずは手を洗うことにした。
◇
晩御飯のあと、私は部屋で机に向かって出された宿題と今日の復習をしていた。できることなら塾に通いたいのだが、うちは同い年の子供を二人抱えているだけにそんな余裕はなかった。なにせ修学旅行などのお金がかかるイベントがあるたび、同時に二人分の出費が強いられるのだ。わかっているだけに無理は言えない。だからせめて大学は学費免除の特待生、あるいは悪くても奨学金をもらって両親に負担をかけないようにしたいと思い、こうして毎日勉強に励んでいる。
「ねえちゃん、ねえちゃん、ねえちゃあん!」
だというのに、背後で冬樹の馬鹿がノックも無しにドアを開け放ち、大声でわめきながら部屋に入ってきた。ノックがないのはいつも注意するのだが未だになおる気配がない。私はため息をつきながら、いすを回転させて「今とても不機嫌ですよ」と目で示しながら冬樹に向き直った。
「大変だ、ねえちゃん。大変なんだよ! すごく大変なんだ。どうしよう。どうしたらいい!?」
「何。またセーブデータでも消えたの?」
なんだかしらないけど、とてつもなく慌てて動揺している様子の冬樹に、昔同じような状況になった出来事を思いだし口にした。
「違うよ! セーブなんかどうでもいいっ! もっとシャレにならないものが消えたんだ!」
「じゃあ、なにが消えたって言うのよ」
「ちんこが消えたっ!」
思わず手元にあった教科書を投げつけていた。「ぶべっ」と見事、冬樹の顔面に当たる。運動音痴の私にしてはなかなかない快挙だ。
「おー、珍しい。狙い通り当たったわ」
「痛い……痛いって事はやっぱり夢じゃないんだ……」
鼻頭を抑えながらうずくまる冬樹に「で、なんだって」ともう一度尋ねた。
「だからちんこが……待って! 辞書は危ない止めて! っていうか、冗談じゃない、本当なんだ! 本当にちんこが消えたんだよ!」
「消えるわけないでしょ。取り外しできるようなものじゃないんだから」
夢でも見たのだろう。私はそう結論付けて振り上げた漢和辞典を下ろすと、再び机に向かった。しかし冬樹は食い下がってきて「じゃあ、証拠見せるよ!」と口走っていた。
「証拠? 証拠って、あんたまさか」
私が振り返ると、すでに冬樹は小豆色のジャージに手をかけていた。「待て」と止める間もなくズボンはずり下ろされ、そこにあったものは――、いや、
「なにも、ない」
呆然と呟く私に、冬樹は「ほら、ほら」と半泣きになりながら腰を突き出していた。そこには一本筋が通った割れ目があるだけで、肝心要のブツがなかった。どうでもいいが冬樹のセリフが実に変質者くさい。これで象さんでもぶら下がってた日には、実の弟を警察に突き出さなくてはならないところだ。いや、そんな現実逃避はどうでもいい。
「……ないわね、アレ」
さすがに乙女がちん……とか言えない。いや、結構女の子同士の猥談なんかじゃ下品な言葉も飛び交うのだけれど、男の前ではさすがに言いづらい。それが弟だとしてもだ。
「どこで落としたの」
「落とせるようなものじゃねえよ! さっき自分で言ったじゃん!」
ごもっともだ。
「……じゃあいつ気づいたの」
「さっき。小便しようとトイレに行ったら、竿がねえの。あれ? って思ってさ、下眺めたら何にもないの。もう、パニクってさ、そのまま小便しちゃって、勝手が違うから上手くコントロールできずに飛び散って便器の周りがエライことになったの」
「いや、いらないしそんな情報。ってか、ちゃんと掃除してきたんでしょうね!? あと、そのシチュエーションだとズボンにもかかってるでしょ! 着替えたの!?」
「し、したよ。両方とも。なんだかわからないまま、ごしごし拭いたよ。それからズボンも履きかえてきた。気持ち悪いから」
「ならよし。問題はすべて解決したわね」
「よくないよ、してないよ!? つうか、実は姉ちゃんも結構混乱してるだろ!?」
「弟が突然妹になって混乱しない姉はいない!」
「そりゃいねえよ!」
と、ここまで互いにハイペースでまくし立てていて、ようやく息が切れ始めた。ぜえ、はあと大きく呼吸する音が重なって、私はゆっくりと口を開く。
「……とりあえず、落ち着こう」
「うん……俺、人間落ち着きが大事だってはじめて気がついた」
「よかったじゃない。人生何がどういう風に役立つかわからないわね。まさに禍福はあざなえる縄の如し」
「なんだっけ、それ」
「幸せと不幸っていうのは、背中合わせになってるってこと」
「ふーん……いや、そんなこと言ってる場合じゃなくてさ。だいたいこれじゃ不幸と幸せのバランス取れてねえよ」
疲れてしまったのか、冬樹に最初の勢いはまるでない。私は冬樹の足元に座りこむと、何もない股間をしげしげと観察した。
「ちょっ、なにしてるの」
「見てるのよ。ふーん、何もないっていうよりは、女の子がついてるんだ」
割れ目になってるからもしやとは思っていたが、間近で確認してはっきりとわかった。冬樹の女の子の上には、ほぼ無毛地帯の白い丘。それがあまりに私とそっくりで、こんなところまで似ているのかと、少し鬱になる。
「……ちょっと、触ってみていい?」
「え、触るの?」
「触んなきゃわかんないじゃない」
こんなことをいう私ではあるが、実際触ったところで何かわかる自信はない。ただの興味本位だ。しかし、冬樹にはそんなことも判断できなかったのか、それとも単純に私を信頼してくれているだけなのか、素直に「うん」とうなずいた。後者からだとすると申し訳ない限りだ。こいつはどうにも昔から私のことを無条件に信用する。
「よし……じゃあ、触るわよ」
私は妙に荒い鼻息を何とか鎮めようとしながら、冬樹の女の子に指を伸ばした。ぷっくりとした白い割れ目は、見た目通り柔らかくも弾力があった。触り心地は私のものと変わらないように思える。
「んっ……くすぐったい」
冬樹が色っぽく息を漏らす。人が私そっくりだと言うその声は、なるほど確かに女の子のようだった。
「変な声出さないでよ」
「し、しかたないじゃん……ねえちゃんだって、人に触られたらこんなんなるだろ?」
「さ、触られた事なんてないわよ」
「あ、そっか……ねえちゃん、彼氏出来たことないもんな」
「うっさい」
このまま指を二本ぐらいねじ込んでやろうかとも思ったが、なんとか自重する。そのかわりに、割れ目の中の観察をすることにした。
「開くよ」
「開くって」
「あそこ。中見るから」
「まさか、俺が『くぱぁ』される側になるなんて」
よくわからないことを言っている冬樹は無視し、私は両手の人差し指を使って白い割れ目を開く。「わあ」とついつい感嘆の声を上げてしまった。染みひとつない綺麗なピンク色は、ほのかに潤っている。本当ならいやらしいはずのそこは、私に奇妙な感動を与えてくれた。初めて見る女の子の中。冬樹とは双子なのだから、多分私の中もこんな感じなのだろう。
「こんな風になってるんだ……」
「ど、どんな風?」
冬樹は興味津々らしく、少し興奮した声で尋ねてきた。
「説明して欲しい?」
「うん」
「即答かよ。必死ね」
「必死だよ。男の子だもん」
今、女じゃん。という言葉は胸のうちにしまっておいて、私は冬樹のリクエストに応えてあげることにする。普段ならこんなことする私ではないのだが、混乱と興奮で理性はどこかに消えてしまっていた。
「いいよ、教えてあげる。何から聞きたい?」
「え? えっと、それじゃあ、形……」
「形か、ちょっと説明するのは難しいわね。あ、全体はあわびに似てるかも。いや、あそこまで唇大きくないか」
私はそんなことをぶつぶつ言いながら、あわびとは微妙に似ていない、小さく控えめな桃色のひだをそっと指でなぞった。
「ひゅうんっ」
何か間抜けな声を上げて冬樹が震える。私は思わずビクッとして、羞恥に染まっている弟の顔を見上げた。
「脅かさないでよ」
「ご、ごめん。でも……今まで感じたことのない刺激だったから」
「ふぅん。そっか、女の子の感じを知らないんだ。あんた男だもんね」
うなずきながら、私はもう一度ひだに触れ、形をなぞるように指を動かした。それでまた冬樹は体を跳ねさせる。
「これが小陰唇。女の子の感じるところのひとつ。形は触られた感触から想像してね。で、普段はぴったりくっついてるんだけど、今は少し開いてるわね。それがどういう事かわかる?」
「わ、わかんない」
「気持ちよくなって興奮してるってこと。もしかしたら男の人を迎え入れる準備が出来たって合図なのかもね」
私は保健の教科書や、聞きかじった知識を総動員しながら冬樹に解説をする。
「いや、いやだよ……俺、ホモじゃないよ。男相手なんていやだぁ……」
「わかってる。ただの体の反応よ、本気にしないで」
私はそのひだをたどり、上にあるこれまた小さなふくらみに触れた。「ひんっ」冬樹がかわいい声で鳴く。やばい、弟のことかわいいとか思ってる。しかも多分性的な意味だ。やばい。やばいけど、止められない。
「こ、これがクリトリス。陰核ね。女の子の……お、お、お」
「……おちんちん?」
「そうそれ!」
「何でクリトリスとか小陰唇とか言えて、ちんちんが言えないの」
「うっさい。とにかく、それとおんなじように、クリトリスも興奮すると大きくなるの。あと、エロいあんたには言うまでもないんだろうけど、ここも女の子が気持ちよくなる場所。形は……なんだろう、皮をかぶったピンク色の豆? あるいはおでき?」
「疑問系で言われても、俺から見えないし……」
「それもそうか」
納得した私は、クリトリスから指をはなして再び小陰唇へ赴き、その奥に隠された二つの穴をつぶさに眺めた。私はその上のひときわ小さいほうを触れる。
「ここがおしっこの穴……って、なんか湿ってるんだけど。ってか少しおしっこくさいんだけど、あんたまさか拭いてないとかじゃないでしょうね」
「え? あ、ごめん。ちゃんと拭いたつもりだったんだけど……で、でも、ちんこじゃなくてまんこ拭くとか初めての事だよ、完璧になんか出来るわけないじゃん!」
「いや、そうかもしれないけど」
私はため息をつきながら勉強机に向かい、ティッシュを数枚もってきた。そして丁寧に尿道口の周辺を拭う。
「ぁっ、や、やめっ、あんっ」
「だから変な声出すなって言ってるでしょ」
「む、むりだよ……な、なんかくすぐったいとも違う、き、きもちいいのかな……?」
「あー……かもね。なんか拭いても拭いても、濡れてきてるもん。あんた、感じてるんだ」
「そ、そう……なの?」
「そうだよ」
汚れたティッシュを丸めて床に放り捨てる。だらしないとは思うが、ゴミ箱まで行く余裕はなかった。私は指を尿道とは違うもうひとつの穴にあてがう。そことその周辺には、やはりというか粘り気のある液体が染み出ていた。
「ここ。なんだかわかる?」
「あ、お、おまんこ……」
「なんであんたはそんな下品な言葉遣いしか出来ないかなぁ。膣よ、膣。保健の授業で習ったでしょ」
「ならったけどぉ……お、おまんこっていうほうが、一般的じゃん……」
「エロ男子の一般的なんて私知らなーい」
実は女子も平気で口にしてるが、それは言わぬが花だろう。
「で、この膣。中に何か入れると気持ちがいいらしい」
らしいというのは、私は試したことがないからだ。せいぜいがお風呂のときに洗うくらい。だって、怖いんだもん。タンポンも使えない。でも実のところ興味はあった。だからこれは、ある意味では絶好のチャンスと言える。
「というわけで、いまから指を突っ込んでみたいと思います」
「え? ええっ!?」
「ええ、じゃありません。突っ込みます」
「いや、ちょっと待って!」
「待ちません」
冬樹の抗議もなんのその。私はそのまま人差し指を小さな穴へ押し込んだ。熱い。そしてキツい。こんな細い指一本だというのに、冬樹の膣はぎゅうぎゅうに私の指を締め付けてくる。
「あっ……ああんっ」
「へえ、本当に気持ちいいんだ」
こいつはまたかわいい声を出す。感じさせているのだとわかった私は、調子に乗ってもう一本指を入れようとした。
「いつっ……!」
「あ、ごめん」
とたん冬樹から上がった悲鳴に、私は思わず指を戻していた。冬樹は今にも泣きそうな顔をして私を見下ろしている。
「待ってっていったじゃん!」
「ご、ごめん。なんていうか、そう、学術的興味がわいちゃって」
「学術的でもエロ目的でもなんでもいいよ。姉ちゃんだって女なら、ろくに濡れてないのに入るわけないってわかるだろ!?」
「……あ」
「あって。あって!」
すっかり忘れていた。知識としてはもちろんある。けど実際にしたことがないんだから仕方がないといえるだろう。だがまあ、正しい手順がわかったのだからもう失敗はしない。
「濡らせばいいのよね」
そして、私はゆっくりと顔を冬樹の股間に近づけていった。「ちょっ、えっ」動揺した声が耳にあたる。正直、暴走しているのは自覚できていた。だけども今の私にはそれが一番正しい事のように思えたし、脳みそからも欲望の赴くままに突っ走れと命令が下っていたのでまったく気にしなかった。そしていよいよ吐息が冬樹の肌にかかるようになったとき、私は舌をいやらしい割れ目にのばしていた。
「ひ、ひゃあっ、うん!」
今まで一番大きな声。だけどそれは決して耳障りではなく、むしろ私に甘い感覚をもたらしてくれた。
「それにしても、変な味。しょっぱいような、生臭いような」
「な、何してんだよぉ……! ねえちゃんレズかよぅ……」
「レズじゃないよ。けど、もしかしたらナルシストなのかも」
同じ顔をして、同じ声をして、そして今何かの不思議が起こって同じ性別になった双子の弟。それはもはや、今まで以上にもう一人の私だと言ってもいい存在だ。冬樹の事は元から嫌いではない。だけど、男として魅力を感じるかと聞かれればノーと答えただろう。あくまで冬樹に向いているのは姉弟愛だ。しかしそのはずだったというのに、今の冬樹からは女としての魅力を感じ、私はそれに当てられて性的な興奮をおぼえている。もちろん、普段の私は女の子にそんな気持ちを抱いたりはしない。きっと相手が冬樹だからこそなのだ。
「今の冬樹、すごくかわいい……」
「ね、ねえちゃん……本当にナルシストっぽいよ。俺たち、双子だよ。同じ顔だよ……」
「うん。わかってる」
それだけいって、私は再び冬樹の女の子をなめる作業に戻った。さっきは変な味といったけど、嫌な味ではなかった。ぺちゃぺちゃといやらしい水音と、冬樹の荒い息使いだけが聞こえる。なんだかんだいって、冬樹も嫌がってはいないらしい。唾液と、そして割れ目から溢れてくる蜜とでさっきとは比べものにならないほど濡れていた。
「感じてるんだ。なんだ……あんたもナルシストじゃん」
「ち、ちがうよ……おれは、ちがう……」
「どっちでもいいけど。もう十分っぽいから、入れるよ?」
「あ……うん……」
冬樹が赤い顔をしてうなずいた。私は念のために二本の指もなめて、再び弟の膣口に指を入れる。
「あっ、う、うう」
濡れて滑りがよくなったからか、冬樹はさっきのように痛みで騒がなかった。それどころかゆっくり指を引いてやると「あんっ」だなんて鳴いて悦ぶ。
「いやらしい。スケベ」
「こ、こんなことするねえちゃんに言われたくない」
「うっさい」
私はそれだけで冬樹を黙らせ、ついでにクリトリスを指ではじいてやった。「ひぎっ!」激痛か、それとも激しい快感か、ともかくそのどちらかを味わって背をのけぞらす。とろりと粘り気のあるしずくが太ももに垂れてきた。
「……どうしよう、私もむらむらしちゃってる」
冬樹に聞こえない程度の一人ごとを呟いて、こっそりと開いている手をズボンの中に入れる。そして冬樹にしたことを自分自身にもと指を割れ目に這わせ――、
「あれ?」
這わせ、這わない。割れ目に這わないっていうか、固くて熱いなんかがある。私は背中に薄ら寒い物を感じながら、おそるおそる視線を落とした。ジャージのズボンが、それはもう、もっこりと膨らんでいらっしゃった。凄まじい勢いで興奮が引いていく。
「はあ?」
あまりに素っ頓狂な声が私の口から出る。そこでようやくこちらの異変に気づいたのか、冬樹が「どうしたの」とどこか物足りなさそうに尋ねてきた。私は頬を引きつらせながらズボンのふくらみを指差した。
「……あれ? え、なにそれ」
「私が聞きたいわよそんなの!」
少なくとも、こんなもの今まで私についていた覚えはない。こんなもの知らない。
「どう考えてもちんこだよね、それ」
「何でそんなものが私についてるのよ!」
「いや、俺が落としたのを拾ったとか」
「そんな覚えなんかどこにもない!」
「でもさ、俺のがなくなって、姉ちゃんについてるって事は、やっぱりそうなんじゃねえの? ほら、なんていったっけ、科学でやった……そう、質量保存の法則!」
「あんたがそんな言葉を覚えていたのは賞賛に値するけど、でも絶対関係ない!」
頭が痛くなってきた。股間のアレもなんだかがちがちで痛いくらいだし、変にムズムズするし。
「とりあえず、確かめてみたら?」
「……そうだね」
私は自分でも意外なくらい素直にうなずき、ジャージに手をかけた。酷く混乱した頭だと相手の言いなりになりやすいのかもしれない。さっきの冬樹も似たようなものだったのだろう。当事者になってはじめてわかる相手の気持ち。とりあえずズボンを脱ぐと、もっこりした柄物のトランクスが現れる。
「……あれ?」
ふと、冬樹が眉をひそめた。そして私も自分に何か違和感を感じ、眉間にしわを寄せた。
「それ、俺のトランクスじゃね?」
「……は?」
ああ、そうか。私がトランクスを履いている事自体おかしいのだ。いや、女の子用のトランクスもあるといえばあるけれど、私はもっていない。
「なんで俺の履いてるの?」
「履いた覚えなんてないわよ」
嫌な予感がする。なんかこう、致命的な勘違いをしていたような、そんな予感。
「よし、まずは落ち着いて状況を整理しましょう」
「う、うん」
「あんたが……ち、ち、ああもう、恥ずかしがってるのも面倒くさい! ちんこなくしたのに気づいたのはついさっき、おしっこしようとしたときね?」
「そ、そうだよ」
「じゃあ、最後にちんこが自分についてるのを確認したのはいつ?」
「え? ああ、そうだなあ……晩御飯呼ばれる寸前までは確かにあった」
「やけに具体的ね。トイレにでも行ったの?」
私がそう尋ねると、冬樹は苦笑いを浮かべて目を逸らし「ま、まあ出すには違いないし、似たようなものかな」と呟いた。私は首を傾げながらも、直感があまり深入りするなとささやくので話を進めることにした。
「つまり、ちんこが消えたのは晩御飯の前からトイレに行くまでの間ってことね」
「その間って、なんかあったっけ?」
「あったわよ。あんたが階段から転げ落ちてきぶつかったじゃない。っていうか、心当たりがもうそれしかない」
「ああ……もしかして、そこで姉ちゃんとぶつかったショックで、ちんこがぽろっと……」
「んなわけあるか。それよりももっと最悪な可能性に気づいてしまったわ。……ものすごく否定したいけれど、この答えならすべての説明はついてしまう」
「な、何」
おそらく私と冬樹がぶつかってしまったのが原因である事は間違いないだろう。そして私が男に、冬樹が女になって、かつ、私が冬樹のトランクスを履いている理由も、考えてるとおりの現象であるとしたら納得がいってしまう。
「ねえ、冬樹。あんた、さっきトイレでおしっこぶちまけるまで、下着なに履いてた?」
「何って……普通にトランクスだと思うけど」
「ほんとに?」
「俺、ブリーフなんてもってないし」
「そうじゃなくて、よく思いだしてみて。あんたはきっとトランクスなんて履いてなかったはずよ」
「ええ……?」
冬樹は天井を睨みつけて黙り込む。しかし、すぐに何か思いだしたのか、さあっと顔を青ざめさせていた。
「……お、俺、パンツはいてた」
「そりゃそうでしょうよ」
「いや、そうじゃなくて、お、女物のパンツ! パンティだよ! なんで、どうして!? 俺そんなの履いた覚えなんてない!」
やっぱりか。頭痛が酷くなってきた。そしてさっきまで冬樹にしていた事を思いだし、鬱になる。
「一回深呼吸して、落ち着きなさい」
「う、うん」
すう、はあと三回ほど繰り返したあと、冬樹は涙目で私を見た。そろそろ限界なのだろう。正直私だって限界だ。でもおねえちゃんだから、がんばらなくちゃ。くそう、ほんの数分先に生まれただけなのに。理不尽だ!
「で、どういうことなの」
先を促す冬樹に、今度は私が深呼吸して、ゆっくりと告げた。
「……多分なんだけど、私とあんた、ぶつかったときに体交換してる」
「は?」
そりゃあ、「は?」って言いたくもなる。だけど、
「漫画とかでたまにあるでしょ、精神の入れ替わりって奴よ。こんなのを現実的な答えだなんていいたくないけれど、ちんこがとれて私にくっついたって考えるよりよっぽど現実的だと思う。それが証拠に、ほら」
そう言って私は冬樹の胸に触れた。ほんの少しだけ、本当にほんの少しだけ柔らかい感触がする。あ、くそ、くじけそう。
「あふ、やっ、なにするんだよぉ」
「ちんこが取れただけで、おっぱいが出来るわけないでしょうってこと」
「え? この薄さで胸なの?」
思わず頭を引っぱたいてしまい後悔する。今は冬樹が入ってるけど私の体だった。
「それに、お互いのパンツを履いていることもこれで説明がつくでしょう? 私たちは知らない間にパンツを交換してたんじゃなくて、体まるごと交換してたってわけ」
「あ、ああ、なるほど、そういうことか……って、ええっ!?」
でかい声を出して驚く弟。まったく、うるさい。私はあたふたと取り乱す冬樹をみて、むしろうらやましささえ感じていた。あんな風にパニックになれたら、もうちょっと楽なんだろうなあなんて思う。
「お、俺が姉ちゃん? 姉ちゃんが俺?」
「認めたくない現実だけど、その通り」
「ちんこが無い以外、全然違和感無いんだけれど!?」
「双子だからでしょ。私だってちんこがある以外全然違和感無いわよ、この体」
まさか双子系特殊能力的なシチュエーションが我が身に降りかかろうとは思ってもいなかった。しかし、体を交換しておきながら、性器を見るまでそれに気がつかないだなんて……クローンもかくやというほどのそっくり具合でなかろうか。私が遠い目をしながらそんなことを考えているそばで、冬樹はあわあわと無意味に手足をばたつかせてうろたえている。そして私にすがりつくようにして、情けない声を出す。
「ねえちゃん……ど、どうしよう。お、俺……」
「私に聞かないでよ! あと泣くな! こっちが泣きたいくらいよ!」
冬樹はついにぽろぽろと涙をこぼしてしまう。ああ、くそ! 本当にこいつがうらやましい。私は今の気持ちを声の限りに叫んだ。そしてそれは奇しくも冬樹のものと重なった。
「どうしてこうなった!?」
その答えは誰も返してくれやしなかった。