契機

このゲームでは、ゲーム内チャットはいくつかのタイプに区分けされています。
分流全体に見える全頻、同じマップ内にいるキャラクターだけに見える軽頻、対象とした相手だけに見える密頻など。
軍団のメンバーだけに見えるのが組頻（組織頻道）です。
ある日、組頻にこのような発言がありました。

この発言内容について補足すると、ここで言われている「点」というのは、ゲーム内通貨の一つで、これは現実の金銭によって購われるものです。
1点は1台湾ドルに相当し、日本円では約3.5円ほどとなります。
ゲーム内通貨には他に金幣と銀幣という2種類のものがあって、それぞれ機能が異なっています。
金幣は他のプレイヤーと取引の際に使うことの出来る通貨で、銀幣はNPCに対してのみ利用できるものです。
このゲームでは、点を使って購入したものにはほぼ取引の制限がないので、ゲーム内取引のために金幣が欲しい人は点で買ったアイテムを金幣で売ったりします。
満足セットというのは日本サービスでの名称だろうと思いますが、該当するアイテムは台湾サービスでも人気アイテムの一つです。装備品を作るための材料がランダムで出てくる福袋アイテムなのです。
このため、他のアイテムに比べると、比較的よく一般流通するアイテムだと言えます。
流通の方法としては、全体チャットなどで呼びかけて直接取引する方法、露店というシステムを使って自分が売りたいと思う価格をつけて販売スペースに並べて買い手を待つ方法、そしてオークションがあります。
オークションは任意の価格をつけてアイテムを出品し、その価格で買いたいと思う人が出品価格に最低+1の金額上乗せをして入札し、所定の時間内（約30秒）に他の人の入札がないままであれば、入札金額と引き換えにそのアイテムを手に入れることができる仕組みです。
ここでは金幣が通貨として利用されるので、金幣が必要になってくるわけです。
発言は、オークションに出品された満足セットというアイテムを、金幣13000で入札する人がいた、ということについての感想でしょう。
このアイテムが75点を支払うことでいつでも購入できることは、その通りです。
この人はそれまでほとんど発言することはなかったのですが、その時のオークションの様子に特にこのような感想を持ったのでしょう。
当然、これはこの時インしていた全団員の目に留まりました。
画像の保存時間が発言時間ではありませんが、午後8時26分となっています。これはゲームをプレイしていれば大抵の人がログインしている時間帯と言えます。
個人の受け止め方は様々ですから、こういった取引についてこのような感想を持つこと自体は否定も肯定しません。
しかし、それを公の場で表すということは、また別の問題だと思うのです。
この発言を見た軍団のメンバーからは、失笑をかっていましたが、私も呆れはしたものの、この人はこのような発言を行うのだ、ということを心に留めておかなければならない、と考えました。
日本語で発言しているので、普通の台湾人プレイヤーの目に触れないからいい、という問題ではありませんから…。
そしてこの発言からしばらくたった3月17日の早朝に、再び組頻に発言がありました。

ある軍団メンバーを念頭に置いた発言のようでした。
そのメンバーはイベントなどにはたまにしか参加できませんが、毎日レベル上げをコツコツ続けている人です。
このゲームにはリモコンというシステムがあって、ゲーム画面を見ながら操作しなくても、自動的にレベル上げのための作業を行ってくれます。このため、社会人や学生など、日中はそれぞれの務めに向っていながら、ゲームを起動して設定さえきちんとしておけば、コツコツとコンピュータがキャラクターを育成してくれるような形になっています。
この方が短い期間にレベルを上げていることには、私も気がついていました。
既にかなり高レベルのキャラクターでしたから、普段のペースでしたら成長はあまり早くないのです。
しかし、より良い場所でレベル上げができるようになったり、それに合わせてそれまでに貯めたアイテムを使ったりすれば十分に考えられる範囲でしたので、私はちょうど気合のいれどころだと頑張っているのだな、と眺めていました。
その方は、なんと言っても…2年にはなっていなかったかもしれませんが、それなりに長くプレイを続けてきている方です。
アイテムの貯えがそれなりにあってもおかしくありませんでした。
それを自分の知りうる範囲で邪推して、このような発言をおこなったのです。
このゲームはレベル制で、モンスターを倒してレベルを上げるための経験値を得るのですが、これは対象のレベルが高ければ高いほど多く得られます。また、パーティーを組んで行うこともできるので、所定の条件さえ合えば、高いレベルのキャラクターと低いレベルのキャラクターで組んで、低いレベルのキャラクターにとっては効率のいいレベル上げ作業をすることが可能です。
この人は、その軍団メンバーが、本来その人単独ではレベル上げ作業を行うことができない上位のマップで、誰かもっと高いレベルのキャラクターと共にレベル上げを行っているのだと考えたようなのです。
名指しはしていませんが、私がそのメンバーを連れて、レベル上げの手伝いをしてあげている、と考えたのではないかと思います。
もちろんそのような事実はありませんでした。私は説明したような、低レベルのキャラクターの育成の手伝いをしたことはありますが、この頃はまったく行っていませんでした。
思い込むのは勝手です。
ですが、それを実際に言葉にしてしまうというのは、どんなものでしょう。
前回の発言のこともあり、私は放置しておくのは良くないと考えて、メールで警告を行いました。

警告というよりは、キレて喧嘩を売りにいったという感じですが（苦笑）。
あまり適切な内容でなかったことは確かです。
この時、私の方に、相手の気分を害しないで警告を行おうという配慮はまったくありませんでした。